第51話 弾は無限に積めるわけじゃない

羽が舞う。

砲弾は轟音をまき散らしながら一直線に突き進み、人型の翼に着弾して爆発した。受け止めきれないheat弾の威力に人型は逃げようとする。それを出鼻を挫くようにリンの鉄球とみちるのホーリーブレイドが行く手を塞ぐ。

高熱と高圧に耐えきれず、ついに人型の翼が落ちた。悲鳴にも似た人型の叫びがこだまする。

しかし、戦車が何発か撃つとみちるとリンの動きが慌ただしくなる。

「弾切れーっ!!」

ふらふらと立ち上がったたつなが叫ぶ。むぅ、無線機必須。

なんだか涙が出そう。小隊本来の編制なら押し切れてたのに。

通常は四両一小隊である戦車がなぜ一両しか来ていないかって? 答えは簡単! 肝心の戦車が無いからだ。激化した青森の戦線に近隣から応援が派遣され、それまで戦車が必要な幽鬼が出現しなかった岩手から真っ先に機甲戦力が連れていかれた。

さらに最近日本各地で幽鬼出現数が増え、自衛隊の戦力はまた切り裂かれた。こういった事情で本来の形で戦闘することができないのだ。

この10式戦車だって以前大破した74式の補充にたったの一両配備された悲しい奴。本来採用されていた複合装甲は取り外されて炭素繊維とアルミ、セラミックの複合装甲にコストダウン。ついでに防御力もダウンとなった改悪品。

班として随伴しているのは1/2tトラックが一両。弾薬とか普通科隊員の輸送という感じだろうか?

いずれにせよ体は痛いが参加しなければならない。

主砲を撃ち切って重機関銃で攻撃を続ける10式戦車に再び人型が突進する。74式戦車の末路を思い出して人型へ体当たりを仕掛けるため接近する。

人型と目が合う。見切られていた。

だがそれはこちらも想定内。足を振って軌道をずらして横薙ぎを回避、太ももあたりにタックルを仕掛ける。人型は嫌がって足を引いたが、自衛隊員に頭を狙撃されてバランスを崩す。これはチャンスと右ストレートを腹に食らわせる。いかんせん自分のバランスが悪い上に、人型も半分浮いたような状態であったから打ち抜けない。畳み掛けるためにもう一歩踏み込んで左で追撃する。

しかし、人型も黙っておらず不安定ながらも打ち返してきた。危うくほっぺたが無くなる所だ。痛い。

「いくっすよー!!」

地面に降りたリンが叫んだ。鈍い音と共に人型へ鉄球が命中する。しかし、人型は腹にめり込んだそれを握り、リンへ投げ返した。一瞬背筋が凍ったが、リンの鉄球は何事も無かったかのように再び人型へ飛んでいく。鉄球に意識を取られた人型へ今度はホーリーブレイドが死角を突くように飛んでいく。それを手羽元で受け止めた人型が剣を掴んでリンへ切り込む。だが、振りぬいた剣は形をなくしてきらきらと光だけを残して消えた。

その一瞬、見逃すわけにはいかない。瞬き程度の隙をついて渾身の左ストレートを食らわせる。人型は白い血を吐き出し、体をくの字に折り曲げた。

「うらぁぁぁあ!!」

そこへ歯を食いしばり、一歩左足を踏み込んで右を繰り出す。体が伸び切って逃げ場を失った人型へ十分な手ごたえを感じた。琺瑯のような肌全体へヒビが入りついに決着がついた。

うん、カウンター避け損ねた。

なんかもう、ほんとにすみません。

“とどめを刺す時が一番注意が必要”ってTVでみた猟師の言葉が頭に浮かぶ。慌てて近寄ってくるみんなの姿を見て意識を手放した。

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