第49話 あぁ、人型…

「たつな」

「どうしたの?」

「たかい」

そして寒いうえに空気が薄い気がする。

今日はたつなと出撃中。車での移動を禁止されて俺はたつなにくっついて空中散歩を強要されている。着込んだ服も移動速度のせいで風が入り込み寒い。ダイビング用のドライスーツとかを貰った方が良かっただろうか?

たつなは平気な顔をしているから、空を飛ぶための魔法を使える人は保護機能が働いている様子だ。ずるい。

リンもみちるも平気なようだからこれは俺しかわからないものらしい。ずるい。

奇襲の危険があるため走っての移動も極力しないようにとのお達しで俺はこの極寒行軍にさらされる羽目になった。

悪霊の呪い以外に魔法は身体強化しか使えない。

リンは空を飛んだり物をとばしたり便利な魔法を持っているし、先輩二人は複数の魔法を使いこなして活躍している。

もっと狙って撃って一発で終わりみたいな楽々魔法が欲しい。憧れるだろう? チートで無双。何より痛いのが嫌だ。

「聞いてた?」

「ごめん」

おっと、ぼやきが止まらないうちに何か言われていたようだ。

「バッテリー切れてない? 救援要請に向かうね」

頷いて同意する。チェックボタンを押しても反応が無い所をみると、俺の無線機が電池切れのようだ。もしくは故障? いずれにせよこうなっては役に立たないのでポケットにしまい込む。

「未確認幽鬼みたいだから注意しようね」

気が重い。敵も馬鹿じゃないせいで接近戦できる奴が最近出てこない。ゴブリンとかオウルベアとかにワーキャー言ってた頃が懐かしい。

救援要請を受けてたつなのスピードが一層増す。振り落とされないように必死にしがみついて目的地に到着できることを祈る。

なぜならすでに息苦しい。こんなスピードに生身でさらされれば、寒いし風圧のせいでまともに息が吸えない。口を開けようものなら過呼吸で失神間違いなしだろう。酸素吸入器でも借りてくればよかった。

「もうすぐ着くから」

すーっと意識が飛びそうになったところで、ようやくスピードが落ちた。親にしがみつくコアラのような状態で必死に息を吸う。危なかった。アウターには氷が張り、寒さを物語る。

「うそ…でしょ?」

たつなの声に振り向くと煙が上がっている。滝沢市巣子のホームセンター駐車場。96式装輪装甲車クーガーの残骸が散らばっている。風切り音が収まるとけたたましい銃声が鳴り響いている。

白い琺瑯ホーローのような肌、背中には大きな翼、頭には兜のようなもの。165cmくらいだろうか? 女型で素槍を持っている。

人型。

心臓が跳ねる。

「おもてをあげろ!!」

反応できていないたつなを守るために魔法を唱える。人型が蹴り上げた装甲板を殴り落とす。一瞬生まれた死角から槍が伸びてくる。

早い

たつなの襟を引っ張って屈む。ちょっと乱暴だがケガするよりはましだ。蹴りで首を飛ばそうと思ったが敵も反応する。5mくらいを一気に離れて首を傾げる。槍のリーチを生かせない距離まで突っ込んで来るとはなかなか豪気な奴だ。去り際に俺の首を狙ってきたのも抜け目ない。

「たつな、えんご」

最後まで言う前にたつなは敵の横に飛ぶ。人型の筋肉の動きを読んでこちらもアスファルトを蹴り上げる。

「トレスアイナ!」

ほぼ同時に面での攻撃を行い人型の注意を散らす。しかし筋肉だるまと同じように翼が硬いらしい。己を包み込むように丸めた翼で防がれた。元々上手くいくとは思っていないかったからそこへさっき貰った装甲板を全力で投げつける。

羽一枚をぶち抜いて二枚目で止まった。やはり硬い。

「トゥインクル☆スターライト!」

出し惜しみ無しだ。たつなも最初から全力で魔法を打ち込む。派手過ぎて敵の状況が一瞬確認出来ないのが玉に瑕だ。

「う、あっ」

一気に距離を詰めて人型の腹に全力で打ち込む。急いでいたせいで踏み込みが足りず、人型のわき腹に少しヒビが入った程度で仕留めそこなった。

「たつな、さがる」

爆発に遮られたせいで人型の接近に気付けなかったたつなが避け切れずに肩を槍で貫かれた。貫通しており止血が必要だ。幸い自衛隊員がこっちゃ来いとしてくれているからきっと処置してくれるんだろう。

「ま、だ」

「さがる」

槍をいなす。たつなが後ろに引く素振りを見せただけで人型の攻撃が飛んでくる。下から殴り飛ばして逸らす。最小の動きで槍を振るう人型を、こちらも小回りを利かせて何とか止める。

holy shit

やっぱりみんなで移動できてればなー…


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