第42話 病院の外が騒がしい

起きた。うーむ、まぶしい。

この何とも言えない気怠さと体の動かなさは寝込んでから多分十日くらいだと予想を立てる。じんわりと手足を意識しながら知らない天井を見る。そこそこ明るい室内でLED電灯がついていないところを見るに日中だろう。目を動かして壁を見る、やっぱり時計が無い。とりあえずゆっくりと起き上がる。

魔法が使えるようになってから何度目かの入院。何日経ったかの答え合わせはいつも同僚との会話から得る。しかし、今回は肝心の同僚がいない。

「あー…」

声は出る。前回よりマシだ。右手と左手を握ったり開いたりしながら感覚を確かめる。麻痺は無し。毒という言葉を聞いてからちょっと怖かったが問題なさそうだ。

ちらりとベッドの脇を見る。前回と同様に水差しがある。誰が準備してくれているかは知らないが、コップに注いで何回かに分けて喉へ送る。一気飲みするとだめだという経験があるから慎重にだ。うまい。久しぶりに口に入った水は甘く感じる。やっぱり数日は経っているようだ。

それにしても、誰も来ない。オムツ、気持ち悪さなし。お腹、空いている。足、プルプル。

暇だ。

スマホも無い。

しかしこんなことでナースコールを鳴らすほど俺のメンタルは強くない。とりあえずトイレに行きたい気もするから点滴を引っ張って部屋の外をこっそりとのぞいてみる。

誰もいない。

どよめきは聞こえるが、でかそうな病院でこんなことってあるのか? そこまで考えたところで外から悲鳴が聞こえてくる。

か、勘弁してくれ。

念のため窓から外を覗く。五階くらいの部屋だと高さから理解する。

「おもてをあげろ」

よく見えないので魔法を使う。これで倍くらい見えるようになった。見下ろす外にはみちるとたつなの姿があった。出現した幽鬼に既に対処を始めている。良かった。心配されてないわけじゃない。

出現している幽鬼はゴブリンと…なんだあれ? ライオンの前と馬っぽい後ろ、背中には鳥っぽい羽がくっついた訳の分からん奴がいる。うねる尻尾が蛇っぽいからキマイラ的なあれだろうか? 神話臭い見た目は一瞬最初の人型を思い出す。

加勢した方が良いかもしれないと思った瞬間、みちるの魔法で串刺しになって霧散した。ずるい。やっぱり格好いい。ていうかあれならアンフィスバエナも即殺できたろうな。

殲滅が完了したようで巻き込まれた人たちが拍手をしているのが見える。仲間が称えられてるのをみると誇らしい気持ちになる。そういえばああいうのされたことない。

だいたい人気のない場所か時間、あっても相討ち気味に意識を失うからその後を知らない。だから一盃森や御結りんのことはすごくうれしかった。

とにかく二人の活躍で何事も無く終わったようだ。お見舞いに来られる前にトイレを済ませておこう。そう思って振り向いたら瞳に涙を一杯に溜めたリンが立っていた。

「おごぉっ」

恐ろしい子。この子、0Kmからのスピードが上がっているわ。

「じん゛ばい゛じだん゛だがら゛ぁぁぁあ」

「ごめん」

うん、心配させるの良くない。見習うべき先輩としてあれ、痛い。ちょっとリンさんまじで痛くない? これ?

「りん、いたい」

無言。緩まないたい。

「許さんっす!もっとやりようはあったはずっす!」

怒ってる。乱暴ではあったが遠距離攻撃の出来る人の方が重要性はとても高いたい。あだだ。

「それくらいにしてあげて?」

にこやかなたつなが部屋に入ってきたけど目が笑ってないお。蛇に睨まれた蛙の心境である。

「でも良かった 目が覚めて」

優しく抱きしめてくれるたつな。と思ったがリンごと締め上げられる。痛みの2段構え。

「姐さん痛いっす!ちょっあたしもう怒られいたい!」

あったかいけどこれじゃ眠れない。ギリギリと締め上げられ、抵抗を諦めざるを得なかった。

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