第33話 吾味のいない出撃
「いいなぁ…」
空を飛ぶ二人の姿にそんな言葉がこぼれる。久しぶりの出撃は花巻市
今回出たのはゴブリンとナーガ、オウルベアの混合編成。夜間の出撃は初めてだ。文化財センターへ立て籠もるヤドカリ連中を誘い出すために俺はひたすら走る。というか動いていないと寒くて死んでしまう。
遠距離の得意なナーガの散弾に対して街路樹を使って回避する。するとそれを嫌ってオウルベアが突出し木をなぎ払うので、死角から足首を蹴り抜いて転倒させて頭を潰す。オウルベアの体を盾にしている内に上空からナーガを二人が排除するといった流れだ。
慣れってのは怖い物でこのぐらいの相手なら緊張せずに倒せるようになってきた。もちろん油断せずにあたるのが当然だが、無線機から次の出動依頼が聞こえると注意が散漫になってきてしまう。
「いっちゃんまだ居るから気を付けて!」
無線からたつなの声が聞こえる。見透かされたようだ。先輩の注意を受けて目の前の敵に注力する。情報では3~5匹と少なめの出現だったはずが、既にゴブリン15、ナーガ8。オウルベア2となかなかの数になっている。
「きを、つける」
言い終わる前にゴブリンを殴り飛ばす。熟れたトマトの様に頭がはじけ飛んだ。ナーガ7はたつなとみちる。それ以外が俺の戦果だ。俺、頑張ってると思う。
「そいつで終わりかな お疲れ様」
みちるの宣言で肩の力が抜けた。二人の暗視ゴーグルにはサーマル機能も搭載され、熱源感知でより詳しく周囲を観察できる。制圧完了のようだ。真っ暗で真っ白で寒いせいかねむい。いかん、寝たら死ぬ。
「次は…遠野、ね」
近いと言えば近いが盛岡から離れていく。出撃回数は増えたが自衛隊が巡回しているから盛岡は落ち着いている。逆に周りの市町村の幽鬼出現が増え始めて、俺たちの戦場は吾味の予想と裏腹に移動距離が再び増えてきた。装甲車も歩兵戦闘車も燃料が馬鹿にならない。飯を食うだけで長距離移動が可能な魔法少女にしわ寄せがくるのは当たり前だった。ちなみに、防寒着を着ていても魔法を使うとそれごと衣装チェンジしてしまうため出撃時は厚着できなくなった。恐ろしい呪いのようなおまけだ。あの悪霊今度会ったらぶん殴ってやる。生きて帰ることができたら次は必ず背嚢をもって出撃しよう。手ぶらでやってきた浅はかな自分を恨むしかない。
「あ、雪」
さらに雪が追い打ちをかける。雪が降る夜は温かいのだが、あくまで冬としてはって話だ。体温で溶けた雪は容赦なく熱を奪うし、ヘルメットも無しに高速で移動する俺の顔にはベチベチと当たって痛い。
たつなとみちるは雪が避けるように流れて当たっていない。超便利。だが、その雪が捕まった宇宙人の様に連行される俺の全身に降り注ぐ。こりゃぁ、死ぬかもしんねぇな。
前を向いて次のブリーフィングを受けている二人に気付かれることなく意識が遠のく。カムバック吾味さん。あなたの運転はよく眠れるのだ。あと車あったかい。
「あ、ちょっ!ごめん!!」
ようやく気付いてくれたたつなが俺を抱きかかえる。もはや言葉も出ない。たつな温かい。最初からたの…む
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