第29話 えぇ、起きましたとも
「もう、もうたべれない! ・・・・」
自分の寝言で目を覚ました。キョトンとするたつなの顔が見える。恥ずかしい。
目が合うとたつなはギリギリと締め上げるようにロリータボディを抱きしめた。わりと痛い。
「心配したんだから!ホントにもう!」
「ごめ、んなさ…いたいです!」
訂正、まじで痛い。
「ご、ごめん!」
以前も似たようなことをした記憶がある。さて、今回は何日寝ていたのか気になるところだ。
「なん」
「じゅうごにち!十五日!!15日!!!」
どうにも怒っているような気がする。目尻をつりあげて眉間にシワを寄せ語気が強い。
「は、はんせいしてます」
「だめ、本当に…本当に心配したんだから!」
と言われてもたつなだって同じ状況なら突っ込んでいただろう。彼女が言いたいことはわかるのだが俺だって助けるために頑張ったのだからちょっとは褒めて欲しい。俺は褒められて伸びるタイプなのだ。
「お、ご、ごめんなさい」
言いかけたがたつなのうるうるの瞳を見てしまったら何も言えなかった。人型へ突撃する前に吾味に報告して合流をしていればもっと安全に勝てたかもしれないのはそのとおりだ。勝てたからよかったものの、返り討ちもありうる状況だった。もっと思慮深く戦えという事だろう。それが最善かどうかは判断に困るところである。
「うん、お願いね」
「あ、おかえりなさい」
「ただいま!」
久しぶりに見たたつなの笑顔はなんというか、沁みる。
「ここにいて、だいじょうぶ?」
「うん! 新人さんの研修も終わったし、吾味さんみたいにサポートしてくれる人も合流したから、いきなり大船渡!とか言われることは無いと思う」
自分の顔が緩むのを感じる。例え一人で出撃と言われてもこれからは助けを呼びやすくなる。前回も吾味の休憩を邪魔したくないという半端な気持ちと人型出現が重なってしまいこんなことになった。応援を呼べる余裕があればこんな事態も避けられる。これからはすぐに“助けて!”という事にしよう。
「あ、みちるちゃん」
「うん、まだ終わらなくて帰ってこれないの でも県南は新人さんがたくさん来たらしいからきっと落ち着くと思う」
新人が大量! これは最高の知らせだ。もしかしたら後輩ができて先輩風を吹かせたり、気軽に休みを取れるようになるかもしれない。と思った時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「あ、ほんとだ!かわいい!」
?誰? 入り口から騒ぎながら入ってきたたつなと同じくらいの年齢に見える女の子がずんずん近づいてくる。
「あの」
「あーしゆかりちゃん!よろしくね!」
ゆかりと名乗った金髪頭の女は俺の頭をぐりぐり撫でる。は、禿げる!
「ちょ、あの」
「せい」
「あだっ!」
ゆかりはたつなの一撃で沈黙する。
「だ、だれ?」
「一盃森ゆかり 同級生なんだけど… まさか適合者になるなんてね」
ちょっと迷惑そうなたつなの顔が印象的だ。小麦色の肌に金髪、距離を保って離脱したい見た目だ。たぶんかわいいのだが、化粧が派手派手で本当にたつなの同級生かと疑う程だ。怖い。
「いーじゃんかよ!減るもんじゃないし!」
「減る」
たつなが普段と違う。まぁ髪が減りそうだったのは事実だ。この歳ではげるとか絶対に嫌だ。せめてもっと優しくあばば、なぜまた撫でる!
「ちょっと強いか?妹いないからわかんねー!」
「せい」
「はは、二度もっぶ」
二段構え。さすがたつな先輩、惚れそう。
「で、あなたは県北でしょ?どうして来たの?」
こんなたつな初めて!って感じにぶっきらぼうだ。仲が悪いんだろうか? ゆかりは気にしている風でも無いのだが、たつなが目の敵にしているように感じる。なんかちょっと怖い。
「や、人型を二体も倒した英雄様のお顔でも拝んでおこうと思ってさ!」
ゆかりは俺のもっちりほっぺを両手で抑えると真顔で話した。
「ありがと、湯沢団地にはあーしの家族が居たんだ あんたが止めてくんなきゃ死んでたかもしんない そんだけ言いに来た」
目頭が熱くなる。俺、無駄じゃなかった。
「でも、どんな奴かと思ったらこんなにちっこいとはさ!」
涙が引っ込む。余計なお世話だ。俺だってどうせならアメコミみたいな筋骨隆々の大男の方が納得できた。魔法は一種類“おもてをあげろ”で物理極振りとか見た目とのギャップが限界突破している。
「でもさ、あーしさ 頑張って戦えるようになったから、あんたらだけに無理させないから!」
ニカっと笑ってサムズアップするゆかりちゃん。え、なにこれギャップ萌えってやつ? この娘の株がうなぎ上りなんですけど。たつなのびっくりしたような顔もそれを物語っている。
「けが、しないで」
俺が言えた義理じゃないが、先輩面して言えるのはこれしかなかった。ちょっと惚れちゃいそう。
「たつなー」
「な、なに?」
「あーしこの子連れて帰るー」
「絶対ダメ!」
趣味が似ているから仲が悪いのか? とりあえず言い争っている二人には悪いがもう少し寝かせて貰おう。おやすみ。
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