第12話 出撃…
「訓練中すまんが幽鬼だ 今回は街中らしい」
吾味さんが幽鬼の出現を知らせる。出現地域は砕石場から車で50分程の場所。都市計画で田園からショッピングモールを中心とした都市に姿を変えた人口密集地帯だ。警察官が応戦中という話で否が応でも緊張に襲われる。
「大丈夫、私とたつなで先に行ってる 吾味さんとゆっくり来てほしい 私たちの仕事、ちょっとづつ覚えていこう」
「ど、どうやっていく?」
「私たちは飛んで行くから車でゆっくり来てね!ちゃんとシートベルトするんだよ?」
たつなさんがそう言うと、二人は繰り出し式の棒を伸ばして空に舞い上がった。
「あれ!ほしい!」
「いや、あれは魔法の箒みたいなもんだ あれだけじゃ飛べなかった」
運転席と助手席の間にあるホルスターに銃をしまいながら吾味さんは言った。きっと試したんだ。
「規模までは傍受できなかったが、あの二人なら直ぐに終わっちまう 俺たちも行こう」
「はい」
車の二列目に乗り込み、シートの間から前を見る。たつなさんとみちるちゃんの言葉のおかげだろうか、さっきまでの緊張が嘘のように消えわくわくがとまらない。
「おいおい、たつなに言われたろう?シートベルト」
「あ、ぅ」
「安心しろとは言ったがある程度の緊張感は必要だ 何が起こるかわからないんだぞ」
「すみません」
「謝らなくていい、次やらなければな」
年甲斐も無く怒られた。反省。席についてシートベルトをかけてサムズアップする。吾味さんはアクセルを踏み、車を出した。とりあえず怒られないように魔法の習得でもしていよう。
みちるちゃんは頭を通り越して魂に、と簡単に言っていたがどうにもうまくいかない。集中が続かずに窓の外を流れる景色を見る。車の販売店は姿を消してその空地は農地に変わり、いびつに広げられた田畑が文明の退化を感じさせる。スーパーマーケットも商品がまともに入荷できずに倒産が相次いだ。地域に一つ二つ残っていればましなほうだ。今回幽鬼に襲われた盛南地区は岩手県で唯一残ったショッピングモール。ガス抜きのための存続と言ったところなのだろう。しかし、重油の輸入が止まったせいでもっぱら普段着は江戸時代よろしく古着が基本だ。品ぞろえは中古の物がほとんどだ。
「みちるちゃんにかんしゃ」
「何か言ったか?」
「なんでもないです」
大いに脱線してしまったが集中だ。魔法を会得せずに生き残ることはあり得ない。ましてこのボディ。よしんば一般人に戻れても身寄りも無く詰んでいる。新聞配達だって配る新聞が無いためできやしない。燃料、大事。メタンハイドレートの採掘には燃料が必要で燃料としてメタンハイドレートが必要で…の繰り返しだ。予期せず補給なしの戦争状態に突入した日本はとにかく苦しい。備蓄の重油を食いつぶしながら戦争を継続している。だから航空支援は受けられないのだ。
「きんちょうかん」
「いいぞ、感情をコントロールしろ どれだけ訓練して体が一流でもメンタルがだめなら二流だ 精神が一流なら格上相手にいい勝負ができる」
応援、されているんだろう。すぐに脱線してしまう。とにかく頭を空っぽにして目を閉じ、魔法からの呼びかけを待つ。
……………………
…………
……
「渋滞?」
吾味さんの一言で目を開けると長蛇の列が目に飛び込んだ。混雑を避けて国道396号を進んでいた車は水道局の辺りで渋滞に引っかかった。車の少ないこのご時世、渋滞なぞ無縁と言ってもいいくらいだが完全に止まっている。
「さっきから無線もまともに拾えない… どうなってるんだ?」
吾味さんは車を水道局の駐車場に滑り込ませて停車した。グローブボックスから駐車許可証を取り出しダッシュボードに投げた。
「走るぞ」
「はしる!?まだとおい!」
「たつなが言ってたろう、俺は最新装備の塊だって 君を抱えて走っても60kmくらい出せるさ」
強い、確信。抱えてと言われてどうなるのか待っていたらジャケットでも肩にかけらるように持たれた。物扱い。
「揺れるが我慢だぞ?」
「うぷっ」
「がんばれ!」
颯爽と走り出した吾味さんは北上川へ向かう。柵を飛び越え藪をかき分け堤防にたどり着いた。風がとにかく寒い。揺れがおにぎりを押し戻す。あばば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます