第13話 惨状
「おっぷ うぷ」
「頑張れ柿屋敷君!」
丁度南大橋を越えたあたりを吾味さんが走行中だ。流れる景色が早い。後ろに進む恐怖というかそういうのをわかって欲しい。というかスカートがめくれてそれを吾味さんが直しての流れが大変恥ずかしい。わざとか? 車に置いてきてくれればこんな目にあわなくて済んだのだが、先輩二人がついて来いといったばかりにコスプレのような格好の子供を武装した男が担ぐという地獄絵図。幽鬼出現情報で歩行者がいないのが救いだ。もちろん渋滞している車からの視線は痛い。スマホで電話している人も見かけた。それが通報でない事を祈る。
「もう少しで向中野だ 交戦が七丁目らしいから手前まで行ってみよう」
まだ十分近く揺られることになるのか。
けぽ
!
「かかってないよな?」
「だいじょうぶ、ごめんなさい」
残り時間を突き付けられて思わずちょっと出てしまった。幸い大きく弾んだ瞬間だったため見送ることができた。つらい。
もっと短距離なら楽しめたな、となるべく遠くを見るように意識しながら思う。瞬間腹の中が揺れるような衝撃音が響いた。
「戦車だ」
えぺぇ
「柿屋敷!」
「かかって、かかってげぺぇ」
穴が有ったら入りたい。でも大丈夫、かかとにちょっとついただけだからセーフ。何がセーフかはわからないけどきっと問題ない。
「非常時、非常時だから仕方ない」
吾味さんは呪文のように唱えていた。それも気になるが、問題は戦車の方だ。二人が行けばすぐに終わると言っていたはずがどうして戦車が出張ってきた?
「最低な連絡だ、人型が出た」
無線が聞こえたのか吾味さんは忌々しそうにつぶやいた。
「ひと、がた?」
「世界が分断される前、アメリカに出現したと報告のあった人型幽鬼だ その異常な強さから連中神の使いだとか言っていたらしい」
きょうりょくなひとがた。
「あ、か、かえる!」
「だめだ 二人の援護に行かなきゃならんだろ」
鳴りやまない砲撃音にも冷静な吾味さん。離して。
「それに魔法少女が死ぬような相手なら帰っても死を待つだけだろ?少し考えろ」
ガチ目のトーンで怒られた。二人を見捨てるような事を言ったからだろう。だが、魔法も習得していない俺に何ができるというのだ。銃だって持っていない。いや、持っていても撃てない。飲まされた“適性者を最も力が発揮できる状態に変質させて固定する魔法薬”が仕事をしていない。もっとこう、あるだろう?ヒーローみたいに空を飛んだり火を出したり。
「これは…」
吾味さんの言葉に振り向いて正面を向く。西バイパスまでたどり着いたところで戦車が一両大破していた。砲塔が無くなり、搭乗していたであろう自衛官は三名がばらばらにされている。吾味さんには悪いがさっき出していて助かった。その光景は目の前にあるのにどこか現実味が無く、映画のワンシーンを見ているような他人事を感じさせた。
「た・・すけ・・て」
受け入れることのできない光景の中、か細い声で助けを求める声が聞こえて嫌でも現実に引き戻す。吾味が急に向きを変えたから首を痛めたが致し方ない。進行方向を向くために姿勢をもじもじさせるとそれを後悔することになる。視線の先には下半身を失った自衛官が横たわっていた。
一瞬、一瞬吾味が言葉をためらった。
「こ、子供 逃げ 人型」
そこまで言うと自衛官の目は光を失った。目の前で失われた命に背筋が凍る。
「二人の所に急ぐぞ」
元ホームセンターの敷地に新しく建てられた自衛隊の駐屯地。そこから出撃した戦車は遮蔽物を避けながら進み、ここで接敵したに違いない。戦車の先に見える通りには転々と戦闘の後が見られる。砲声で聞こえなかっただけで負傷者を助けるために隊員たちが血眼で奔走していた。
『私を呼べ』
痛い。頭が、心が、息が上がる。吐き気がする、目の奥が熱い。
『私を呼べ』
聞こえる気がする。
『私はお前だ、呼べ!』
「おもてを…あげろ!」
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