第10話 目的地は?

「えーと、その、と…」

無遅刻無欠勤が売りの自分が6日間も無断欠勤。頭痛を通り越して具合が悪くなってきた。

「安心してくれ柿屋敷君、君は死んだことになってる 脳挫傷ってことでね」

「は、ふ?」

「勤め先にはNBK本部から公民館での暴行事件について詳しく説明してある 残念だが君の帰る場所は無い はい、深呼吸して」

「はー、ふー、はー、ふー」

「二人とも何を説明してたんだ?全然伝わってないぞ?」

「いやその…体が縮んだこととか、女の子になっちゃったこととか…」

「…まぁ、言い難いわな ああそうだ、君の家は親戚の方が処分する方向で進んでる ご両親の位牌なんかはその本家の方が引き取ってくれたよ」

「ど、どこの」

「花巻だったかな」

「あ、は…あの でも、”したい”がないと…」

「医科大学付属病院に献体希望があったことになってる 残念だが帰る所は無い 新しい家はこちらの方で手配してある あ、名前も変えなきゃな」

「ちょっと大ちゃん!」

「長引かせても覚悟ができんだろう? 適性が有った時点で逃げられない 逃げれば良くて銃殺、悪くて懲罰大隊だ よろしくな柿屋敷君」

「・・・は…は、ひ」

ちょっと言葉にならない。あまりに現実離れしたことが起きて夢を見ている気分だ。どこかで逃げられると思っていたチョコラテのような希望は吾味さんの言葉で打ち砕かれた。相手が国の息のかかった機関であれば当然なのだが、詰んでいた。

「元気出して… て言い難いけどみんなでがんばろ! 戦争が終われば晴れて自由の身だろうからさ!ね!」

たつなさんは元気づけようと明るい笑顔を浮かべ、握った両手を上下にぶんぶんと振っている。気持ちは嬉しいがちょっと痛い。自分より若いのにしっかりした子供だ。

「そうそう、幽鬼を倒すとポイントがもらえるんだ それを使えばお米も魚も手に入る 一緒に良い物交換しよう」

みちるちゃんはルームミラーでちらちら確認しながら付け加えた。さっきくれたおにぎりはその”ボーナス”で作られたようだ。だが気になる点が別に出てきた。

「こ、こうかんできるくらい“ゆうき”が?」

「もちろんだ 出現が一番少ないのは高知なんだが、物資の優先度が下がるから今はあっちのほうが大変だろうな」

吾味さんは落ち着いた声で諭すように続ける。

「岩手はそこそこ数が出るが大した幽鬼じゃない 他県よそよりは安全だ 岩手駐屯地で特科連隊が睨みを利かせているしな」

「いわては、あんぜん…?」

「そうそう!私たちもいるから大丈夫!大ちゃんは最新装備の塊だし、私たち意外と強いのよ!」

「…はい!」

誇らしげに胸を張るたつなさんは輝いて見える。みちるちゃんの顔も心なしか頼もしい。吾味さんは相変わらずわからないが、サムズアップで二人に続いた。根拠は無いが三人の近くに居れば安心かもしれない。務めていた兵器工廠も警備はいたが従業員の数に対して十分とは言えなかった。しかし、NBKなら三人に守って貰える…かもしれない。何時迄もとは言えないが、独り立ちまでは護衛付き。それ以降は考えないようにしよう。

今の問題は車でどこに連行されているかわからないところだ。隠しているわけではなさそうだからとりあえず聞いてみる。

「どこにいくの?」

「採石場!」

俺の問いにたつなさんは元気よく答えた。

「な、なんで?」

すんなり受け入れるのは難しい場所だった。普通に暮らしていたら絶対に用は無い。

「暴れても迷惑かからないでしょ?いっちゃんがどんな力を持ってるか試すには丁度いいから!」

いっちゃんという呼び名も気になるが6日間寝ていた人間には難易度が高いと思う。起き抜けにおにぎりを2つ完食してしまったから言い訳ができない。

だが、何度か言われた“魔法少女”。少女は余計だがマンガやアニメで育った身としては魔法という言葉には大いに興味がある。どうせ後戻りできない現状であれば、生き残るために自分の力をしっかりと把握することは必須だ。きっと面倒見の良いたつなさんなら的確なアドバイスでなんか良い感じにあれしてくれるに違いない。

「大丈夫?もう少しかかるから寝ててもいいよ?」

「ー~…」

「毛布あるぞ」

「あ、さっすが大ちゃん!」

「10とか11歳くらいか?」

「そうだと思う …なつながこのくらいだったから」

「妹さんだったか?」

「うん、まだ半年 今日まで色々あったけど… やっぱり……」

「す……ま…だ…」

「……、……」

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