醜い人
@gen1991
第1話 はじまり
向かいから三人の高校生たちがこれでもかというくらいの眩しい青春をまき散らしながら歩いてくる。太陽が夏の終わりに気付かずまだ張り切って輝いている中、彼らの表情からはまとわりつく暑さの苦痛も、学校への不満や人間関係の諍いなど全く感じられなかった。
嫌だなぁ…
そんな高校生とすれ違うたび、青春とは程遠い生活をしている僕の顔は磁石のように高校生とは反対の方向を向いてしまう。後方からすれ違った高校生たちの笑い声が聞こえる。その笑い声に苛立ちながら、ニキビとニキビ跡で赤くただれた醜い顔をさらに歪ませながら、僕は歩いていく。
大学に着き、特に興味もない授業を受ける。周りの生徒は寝たり、携帯をいじったり、やりたい放題だ。
いつからか、他人に対して苛立つようになった僕は、ちょっとしたことが気になる。淡々とした口調で注意することもなく授業を進める教授にも、イライラしている自分にすら憤りを感じていた。
そんなストレスの溜まる授業が終わり、教室を一歩外に出ると、まるでお祭りがあるかのように、学内に溢れかえる人々と喧騒が目と耳を攻撃してくる。この大学内では当たり前の光景も僕にとっては、とても耐えられるものではなかった。
「マジやばくない?」
「あははははは、本当にー?」
学生一人一人が、各々好きなことを友達と話しているのに、僕にはそれが苦痛で仕方がなかった。急いで学内のトイレに避難する。
ふぅ…
誰もいない静けさと誰にも見られていないという安心が僕を落ち着かせてくれた。「お昼休みだし、音楽でも聞きながら、勉強するか」
独り言を呟き、僕は自分の世界に入っていく。
しかし、そんな安堵もつかのま、次の授業が迫ってくる。次の授業は十人程度の少人数での授業だ。
「あ、おはよう」
先に教室にいたらしい女子学生が挨拶をしてきた。名前は確か安藤さんだ。安藤さんは僕にも優しく声をかけてくる。しかし、僕はそれを無表情で会釈する。誰とでも仲良くできる、人見知りしない、ということを特技としている人間は僕にとっては迷惑極まりない人間である。
「今日はいい天気だねー」
しかし、そんな僕の気持ちを無視して、安藤さんは怖いもの知らずの子供のような瞳で僕に話しかけてくる。
「…」
僕がどう返事していいか固まっているうちに、他の学生も教室に入ってきた。
「おはよー」
「最近会ってなかったねー」
彼女の話し相手が来てくれたおかげで、僕が解放されたわけだ。ありがたいものだ。
今日も疲れたなぁ…
授業を終え、特に何もしていない僕はなぜか疲労感を覚えていた。一人暮らしを始めてご飯をあまり食べなくなったせいかもしれないし、大学に入ってから続く不眠症のせいかもしれない。それとも別の原因か…一人暮らしのアパートに帰ってきた僕は、アルバイトに行く準備をしていた。
「いらっしゃいませー」
なぜ、僕が接客のアルバイトをしているのかというと、このバイトしか採用されなかったからである。面接が酷く苦手な僕はことごとく、採用されなかったのだ。
「もうちょっと元気よくやってよ」
アルバイトの先輩である九嶋さんはいつも僕に注意していた。同じ大学に通う先輩だ。初めて見たときは端正な顔立ちで、まるでホストみたいな先輩を僕はあまり快く思っていなかった。
「すいません」
平謝りし、僕は接客を続ける。
僕の働くこのお店は、全国チェーン展開をしている飲食店だ。低価格、提供スピードの速さ二十四時間営業で若い学生や家族連れにまで人気があった。特に休日は極めて多忙である。
それでも、一生懸命働いていた僕を、他のアルバイト店員たちは良くしてくれた。
ここで働いていてよかったかもな…
少なくともこの時はこう思っていたのだった。
バイトも終わり、僕はシャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。テレビを点け、独特の面白さがある深夜バラエティに目を向けながら、ふと考えた。
つまらないなぁ、毎日。でもそれも悪くないかもなぁ
特に友達もいない大学でのつまらない授業。好きでもない接客をすることになったアルバイト。その繰り返し。それでも悪くない日々だった。
醜い人 @gen1991
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。醜い人の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます