第66話:回復術師は稽古をつける②

 受付嬢は即答した。


 せっかくギルドまで来たのだから何か依頼を受けたいと思っていたのだが、そういうことなら仕方がないな……。


「でも、魔物が少ないということは村の人にとって良いことですので……。ユージ様が気にされなくても良いと思います」


「まあ、それはそうか」


 冒険者にとっては依頼が減ってしまうのは良くないのだが、この世界は冒険者よりも普通の村人の方が多い。


 そもそも冒険者は非戦闘員を守るために働いているのだから、むしろこれが望ましい形ともいえる。


「そのうち魔力は回復しますし、そうすれば魔物も復活すると思いますけどね」


「それまで、しばらく休むか」


「でも……ちょっと耳を貸してください」


「え?」


 受付嬢が俺の耳元に小声で囁いてくる。


 あまり大声では言えないことなのだろうか?


「ギルドからの依頼ではないのですが、お願いしたいお仕事がありまして……。良ければ、クライン様の部屋までいってもらえますか?」


 クライン——この村の冒険者ギルドのギルドマスターであり、水の紋章を持つ強力な魔法士。


 何かと目をかけてもらってたっけ。


「クラインさんからの依頼ってことなのか?」


 空気を読んで、俺も小声で質問を返す。


「はい。ユージ様がいらっしゃったときにお伝えするようにと……」


「分かった、すぐに行くよ。一応確認なんだが、二人も連れて行っていい要件なのか?」


「はい、それは大丈夫です!」


 なぜかパーティではなく俺をご指名だったので、俺にしか話せない何かがあるのかと思ったが、どうやらそういうことではないらしい。


 俺は、二人とシロを連れてクラインの執務室へ向かった。


 ◇


「おお……ユージよ、よく来てくれたな」


 部屋をノックするや否や、クラインの方から扉を開けてくれる歓迎っぷりだった。


 これほどまでの対応……いったいどんな無理難題なんだろう?


 俺は固唾を飲んだ。


「ええ、それで頼み事というのは……?」


「ああ、それなんだが……ちょっと掛けてくれるか。リーナ君とリリア君もね」


「失礼します」


 俺たちは来客用のテーブルセットの椅子に腰を落ち着ける。


「それで頼み事というのはだな……俺に稽古をつけてほしいんだ」


 クラインの口から出た言葉は、意外なものだった。


「稽古……ですか」


「ああ、この前魔王が出てきただろ。ユージが解決してくれたから良かったが、俺は村を守る冒険者として、何もできなかった」


「それは……」


 ギルドマスターなのだから、一般の冒険者と同列に語ることはできない……のだが、クラインにとって自分はまだ冒険者なのだろう。


 だとすると、この言葉を返すのは適切ではなかった。


「わかりました。正直かなり恐縮してしまいますが……クラインさんにこれほどお願いされて断れませんよ」

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