第48話:回復術師は口論する
◇
翌日の朝——俺とリリアはちょっとした口論になっていた。
「これは決定事項だ! パーティリーダーの命令は絶対に守ってもらう」
「そんな……酷い! ユージがそんな人だとは思わなかったわ!」
「なんと言われてもここだけは曲げられない。いくらかわいいパーティメンバーの願いだとしても、聞けるものと聞けないものがあるんだ」
「か、かわいい……!?」
「なんでリリア照れてるの〜?」
顔を真っ赤にするリリアをからかうシロである。
なお俺としては慣用表現として『かわいい』と言ったに過ぎないのだが……。
まあ、いいか。
「て、照れてないわよ! まったく、前のパーティの時ではありえないことだわ」
こんな感じで揉めているわけだが、そもそもどうして喧嘩じみたことをするハメになったかと言えば——
「まあまあ、二人とも落ち着いてください。リリアにも悪い話じゃないですよね? 週に一回以上のお休みって」
「それはそうだけど……冒険者は一日でも休むとタルむってよく聞くわよ? 根性が大切だからって」
週に最低一日の休みを設けるという俺の意見と、一日も欠かさず冒険に出たいというリリアの衝突である。
今までどんなブラック環境で冒険者をしていたのか俺が知る由もないが、俺たちのパーティに入ったからには流儀に倣ってもらう必要がある。
なにも理不尽な要求をしているわけじゃない。れっきとした理由がある。
「冒険者ってのは命をかけた肉体労働なんだ。疲れが溜まれば注意力が落ちるし、身体もベストパフォーマンスを出せなくなる。適度な休養は絶対に必要なんだ。欲を言えば、依頼を一件片付けるごとに休みがほしいくらいだ」
ま、こんなことを偉そうに言っている俺も『デスフラッグ』時代はまともに休んだことがなかった。
俺は幸い丈夫だったから良かったが、耐えられなくなったメンバーの中には怪我をして引退した者もいた。
だからこそ反省点を生かして俺のパーティでは同じ過ちを繰り返さないつもりだ。
「でも、身体が鈍るんじゃ……?」
ここまで説明しても納得できないという顔をするリリア。
しかし話を聞いていると根本的に勘違いをしている気がするな。
「あれ? リリアはイメージトレーニングをしないのか?」
「イメージトレーニング……?」
「ああ、頭の中で仮想の敵を作って、あらゆる動きを想定して対策を考えるんだ。これで感覚は鈍らない」
「考えたことなかったわ。確かに、それなら魔力を消費せずに特訓できるし、良いわね」
「それに、依頼をとって冒険に出なくても少し身体を動かすくらいはできるしな」
「あっ、闘技場……?」
「そういうことだ。俺は休みは全力で休む派だけど、どうしても身体を動かしたければ少しだけやってもいい。一人で闘技場に来るやつなんてごまんといるぞ?」
「それなら、一日くらい休むのも悪くないかも……そこまで考えているなんて、さすがはユージね」
「ま、それほどでも……」
「あるー! ユージはすごいー」
「おい……」
シロは事あるごとに俺を持ち上げてくれる。本当に凄いことをやった時には褒めてくれていいんだが、普通のことで褒めらのはちょっとやめてほしいな。やれやれ。
「でも、丸く収まって良かったです。やっぱりユージは凄いですよ!」
「そうなのか……?」
「はいっ! あっ、ところで今日は何をするつもりなんですか?」
キラキラとした瞳で俺を見つめてくるリーナ。
そうか、リーナにとっても初めての休日なんだよな。
「私は闘技場に行ってちょっと身体を動かしてこようと思ってるわ。でも、ユージがどこかに行くなら私もちょっとついていきたいかも?」
「えーとだな……」
いやいや、二人してそんな風に見るのやめてくれない?
『今日は夜までひたすらダラダラする!』なんて言っちゃダメな空気出てないかこれ!?
えーと……えーと……あっ!
「きょ、今日は温泉に行こうと思う……。確か、村の北の方にあっただろ?」
「温泉……? ユージは温泉が好きなの?」
「ん、まあな」
「良いですね温泉! 私も行きたいです。ユージの背中流す役やります!」
「リーナ、悪いが温泉は男女別だ。つまり俺は一人で入る」
「ええええ……そんな……」
露骨に残念がるリーナ。
「シロはユージと一緒でいい?」
「シロってオスだっけ?」
「うーん、わかんない! 多分オス!」
多分って……。自分でわかってないのどうなんだそれ?
「まあいいや、フェンリルならどっちでも文句は言われないだろうしな」
「やったー、シロうれしい」
喜んでくれると俺も気分が良い。フェンリルと一緒に入浴してはいけないってルールはなかったはずなので大丈夫なはずだ。
「リリアも一緒に行くってことなら、闘技場にもついていくとするか。俺が少し相手になってもいいしな」
「本当!? ユージが来てくれると嬉しいわ!」
「ああ、ついでだしな」
あとシロの散歩も兼ねられそうだし。
……もっとも、フェンリルに散歩が必要なのかどうかは知らないんだが。
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