第42話:回復術師は持ち帰る

 と、同意を受けたところでリーナがギルドから出てきたので、この場から立ち去ることにする。

 俺は少女の手をとった。


「ユージ、終わりましたよ! ……え?」


「ありがとな、助かったよ。それでどうかしたか?」


「いえ、どうして見知らぬ女の子の手を握っているのかなと思いまして。説明いただけますね?」


「え……?」


 神様と悪魔が融合したような笑みを俺に向けてくるリーナ。

 多分、何か怒っているのだろうなということはわかる。

 なんかやっちゃったのか……?


「はぐれないように手を繋いだけど、それだけだぞ? な?」


 ——と言いながら、隣の少女をジッと見る。


 なぜか顔を朱に染めながら頷いた。


「……ということだぞ?」


「はぁ……これだからユージは放っておけませんね。じゃあ、私もユージを逃さないように手を繋ぎますから!」


 言いながら、リーナは空いていた俺の右手を掴んでくる。


「えっ、両手塞がれて歩きにくいんだけど……」


「その子は良くて私はダメってことですか!?」


「い、いやそういうわけじゃないけどさ……まあ、歩けなくはないしべつにいいよ」


 理由はよくわからないが、怒っているみたいだし好きなようにさせておけばいいか。

 リーナの要望を受け入れたら怒りもちょっと落ち着いたみたいだし。


「あ、そういえば君って名前なんて言うんだ? ちなみに俺はユージで、こっちはリーナな。俺は回復術師でリーナは付与術士だ」


 パーティに誘ってから名前を聞くというのは順序がおかしいような気もするが、あのチャンスを逃せなかったので仕方ない。


「私、リリア。錬金術士をしているわ。パーティに誘ってもらったのは嬉しいけど、どうして招待してくれたの?」


「ん、そういえばまだ理由を言ってなかったな」


 リーナは理解しているだろうけど、リリアが気になるのは当然だ。……というか、聞く前によく承諾してくれたものだなと思う。


「さっき、サンヴィル丘陵の奥地でたまたま見かけて、スカウトできないかと思ってたんだ」


「私、足引っ張ってたのに……?」


「今の時点で活躍しているかどうかってのはさほど重要じゃないよ。俺が見てるのは——」


「ポテンシャルですよね! ユージの洞察力はすごいです!」


「まあ、俺の洞察力が凄いというより、視点がちょっと違うだけな気がするけどな。こう見えてリーナも結構凄いんだぞ。前のパーティでは凄さが理解されなかったらしいけどな」


「こう見えてってなんですか!?」


「い、いやそれはだな……」


 まだ仮ではあるが、新しいパーティメンバーを迎えたことで意気揚々と俺たちは宿に帰っていった。

 それにしても、練金術士があんなことまでできるとはな。

 面白くなりそうだ。


 ◇


「パーティメンバーが増えることを考えると宿はやっぱりこのくらいの規模感の方が良いかもな」


 ちょっと贅沢すぎるかと思った高級宿ではあるが、その分居住面積が広い。

 集団生活ではどれだけ仲が良くてもストレスは溜まるものなので、余計なストレスを感じさせない最高の空間というのも相性が良い。


 リーナはもう二日目なので普通にしているが、初めて入ったリリアはかなり驚いているようだ。

 ちなみにシロは場所を気にしないらしく、初日からこんな感じだった。


 シロは部屋の端を定位置にしているらしく、俺が設置した毛布の上で寝そべっている。


「あれ? そういえば犬を部屋に入れるの!?」


「犬っていうかフェンリルだけどな」


「そういえば、そんな噂も……本当だったのね!」


「そんなことはともかく、犬ってのはできるだけ室内で飼った方が良いんだぞ。外はうるさいし、気温の変化も激しいからな」


「え、そうなの……? 初めて聞いたわ!」


「私も初めて聞きました! たまに部屋の中で飼う人もいるとは聞いていましたけど……」


 え? 常識だと思ってたんだが、そうでもないのか?

 確かに基本的に外で飼われていることが多いが……。


「そういえば、俺もどこで知ったんだろうな……」


 どこかで聞いたわけでも、本で知ったわけでもない。

 自然と理解していた。それこそ、根源に刻み込まれているような——


「でも、言われてみればその通りですよね。夜は冷えますし、外で一人にさせるのは可哀想です。リリアも抱いてみてください。もふもふですよ?」


 リーナがシロを抱いて、リリアに手渡した。


「わっ、本当……! 毛並みも綺麗だし大人しくて本当に可愛い!」


 もふもふに顔を埋めるリリアだったが——


「リリアも好きー!」


「——!? え、喋った!?」


「あ、そういえば言ってなかったな。シロは喋れるんだ」 

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