第41話:回復術師は引き抜く

 ◇


 その後、素材を地道に回収して村に帰還した。

 数が数だけに少々時間がかかってしまったので、朝出発したのに戻ったのは昼過ぎだった。


 依頼を報告したら昼食に何を食べようか——と考えていたところ、なにやら面白そうな声が聞こえてきた。

 いや、当人からすれば決して面白くないのだろうが、俺にとっては面白い。


 ギルドの前で三人組の女性パーティが激しい口論を繰り広げていたのだ。

 この三人組には見覚えがある。

 さっきサンヴィル丘陵の奥地で仲良く狩りをしていたはずのパーティだ。


「聞こえなかったわ! もう一回言ってみなさいよ!」


「だーかーら、あんたはお荷物! もういらないの!」


「そうよ、無能な練金術士なんて入れたのが間違いだったわ。ロクに働きもせずに報酬だけもらおうなんて図々しいのよ」


「私だって真剣にやっているわ!」


「へえ、真剣にやってあれねぇ……じゃあ紋章のせいかしら? ぷぷっ」


「————っ!」


 どうやら、会話を聞く限り、俺が目をつけていた銀髪の少女がパーティを追放されかけているとのことだ。

 左手の紋章を見る限り、俺やリーナと同じ無の紋章——つまり劣等紋だ。


 全六属性の紋章はそれぞれに特性があり、例えば火の紋章は火属性の攻撃力や耐性が上昇するだけでなく、剣士に向いた能力を会得しやすい。


 逆に超一流の剣士には火の紋章以外ではなれないとするのが常識だ。他の紋章でも剣士になれないこともないが、究極まで努力してもせいぜい一流止まりになる。


 ちなみに回復術士は聖の紋章が向いており、付与術士は紋章によって使える強化魔法に縛りがあるから例外的に劣等紋に向いていたりする。

 ただし、付与術士になるには生まれながらの才能が必要なので誰にでもなれるわけじゃない。


「ユージ、ギルドに入らないんですか?」


「ああ、すまん。今日はリーナが報告してきてもらってもいいか? ちょっと気になることがあってな」


「気になることってもしかしてあの人たちですか?」


「そんなところだ」


「ユージには何か考えがあるんですね。分かりました、行ってきますね!」


「ありがとう、助かる」


 回収した素材をリーナに手渡し、一人で報告に向かわせた。

 さて、そろそろ頃合いかな?


「わかったわよ! そこまで言うなら出ていくわ。出ていけばいいんでしょ!」


「やっと自分の無能さを理解したようね。最初から納得していればいいのよ」


「足を引っ張るお荷物が消えればさらに効率が上がるわ」


「絶対後悔させてあげるわ」


「後悔? ぷぷっ、誰が? まさかあんたここを抜けて他のパーティに入れるとでも思ってるわけ?」


「ギャハハハ! 片腹痛いわ! またEランクから始めるのかしら? 成長したらすぐに切られるのに……ああ、可哀想」


 下品な笑い声を上げるパーティメンバーを前にして、歯を食いしばって睨む少女。

 俺は、ゆっくりと近づいて肩にポンと手を置いた。


「ちょっと話し声が聞こえてきたんだが、この子をパーティから追放するってのは本当なのか?」


「え、誰? 知り合い?」


「いやいや、通りすがりのAランクパーティだけど」


「ふ、ふーん……Aランクパーティね。それで? 追放はパーティリーダーであるこの私に権限があるの。この子が無能だから追い出すというだけよ?」


「いやいや、別に怒ってるわけじゃないんだ。ぜひうちのパーティに来てもらおうと思ってな」


「はあああ!? なんでよ! あんたは知らないかもしれないけど、この子は劣等紋でお荷物! Aランクなら当然知っているわよね! 劣等紋はゴミ! カス! 無能!」


「散々な言い様だが、俺はこういう者でな」


 言いながら、左手の紋章を見えるように腕を上げた。


「なっ……劣等紋!?」


「そういえば、最近やたら強い劣等紋のパーティがあるって聞いたような……確か、レジェ……なんだったかしら」


「レジェンドだよ。ガーゴイルを倒して、ギルドマスターとの決闘に勝って、フェンリルを手懐けた……とか噂されているな。まあ、事実だけど」


「なんでそんなパーティがこんなやつを……!」


「まあ、あんたらとは目の付け所が違うってことかな? とは言っても俺に強制力はないし本人がどうしたいのかってところを尊重するけどね」


 俺は右手を差し出し——


「しばらくは仮加入という形でもいい。俺たちのパーティに来てくれないか?」


 少しくらい考えるのかなと思いきや、すぐに返事が返ってきた。

 俺の右手を両手で掴まれ、眩い笑顔が飛び込んでくる。


「……私を必要としてくれるなら喜んで!」


「よ、良かった……」

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