第35話:Sランクパーティ、驚愕する
◇
ユージが報告した翌日、ゼネスト率いるSランクパーティは冒険者ギルドを訪れていた。
全財産を失ったことで、急いで稼ぐ必要があった。
昨夜は村にいながら野宿をする羽目になったが、今日の稼ぎがあればなんとか宿には泊まれる。
そう目論んでいたのだが——
「なに!? 依頼を受けれないってどういうことだ!」
「ですから、ゼネストさんたち8名は冒険者資格が停止されておりまして……」
受付嬢から告げられたのは、依頼を受けられないということだった。
「BランクでもCランクでもなんでもいいんだ。稼がねえと今日食う物もねえんだよ!」
「しかし規則ですから……」
頑なに依頼を出さないとする受付嬢にイライラしたゼネストは、受付嬢の首根っこを掴み、威圧的に睨んだ。
「依頼を出さねえとどうなるか分かってんだろうな! ああ!?」
「ひっ……やめてください……!」
「ゼネストの兄貴がこう言ってるんだ! なんとかしろ!」
と、アルクも続く。
他のパーティメンバーたちも「そうだそうだ」と抗議を始めた。
その声を聞きつけた一人の男がギルドの奥から出てきて仲裁する。
「なにをしている! 今すぐその手を下ろせ。……ふむ、お前らが話に聞いていた輩か」
「ンだてめえ……って、ギルドマスターだと!? い、いやこれには深いわけがあってだな……。ギルドの手違いで俺たち全員の冒険者資格が停止されたって言うもんだからついカッとなってさ……へへっ」
言い訳するゼネストを可哀想な目で見るギルドマスタークライン。
「君たちはそこに掛けてある立て看板に見覚えがあるな?」
「立て看板だと……?」
ゼネストが指された方を見ると、職員用通路の前にぐにゃっと曲がった立て看板が掛けられているのが見えた。
確かに、見覚えがあった。
というより、ゼネスト自身がフェンリルの洞窟前で思いきり蹴って破損させたものそのものである。
「ギルドの看板を意図的に移動させたり、破損する行為はギルド会員規約で明確に違反としている。我々とて無闇に冒険者を失いたくないからな。この罪は重いぞ。加えてパーティのランクが上がるにつれて相応に責任が重くなる。おまけに禁止区域への無断侵入もしている。今回の場合にSランクパーティへのペナルティは規定通り連帯責任かつ一年の冒険者資格停止だ。異議申し立てしても良いが、受理されることはないだろうな」
「ま、待ってくれ! 俺たちはやってないんだ! こんな立て看板を見たのも初めて……冤罪なんてごめんだぜ!」
背筋に悪寒が走って、思いつきの嘘を白々しく披露するゼネスト。
しかし——
「目撃証言も入っているし、第一……これはなんだ?」
クラインが鋼鉄製の矢をアイテムボックスから取り出した。
「そ、そんなもんこの村の弓魔士なら誰でも持ってるもんだろうが! 俺たちとは関係ない!」
「いやいや、君は何を言っているのだ。俺は『これが何か』と尋ねたにすぎないんだがね」
「あ、それは……だな……」
「その理由は君たちが一番よく分かっているだろうな。これは証拠として弱いが、洞窟に残された足跡と君たちの靴跡を鑑定すれば言い逃れできないんじゃないか?」
「……チッ、あのクソ野郎……チクリやがったな!」
ここまで説明されれば、いくらバカなゼネストでも気付く。
誰かがギルドに報告したことで違反行為がバレたということを。
そして、誰が報告したということを——
「何か言いたいことはあるか?」
「どうせ何言っても無駄なんだろ! もういい、お前ら撤収だ」
ゼネストの掛け声で、全員がギルドの外へ出ていった。
「ったく、まさかライセンスが凍結されてるとは思わなかったぜ」
「ゼネストの兄貴、どうします……?」
「どうもこうもねえだろ。何か他のことやって稼ぐしかねえ」
「でも俺ら、戦う以外にどうすれば……」
ゼネストやアルクに限らず、冒険者は他の仕事で通用するスキルを持ち合わせていないことが多い。
仕事と条件を選ばなければあるにはあるが、冒険者として自由を満喫してきた彼らにとっては厳しいものになる。
「一年食いつなげばなんとかなる。俺に任せておけ」
そう胸を張るゼネストに——
「あの、僕パーティ抜けさせてもらいたいんですけど……。もう田舎に帰ろうかと思って」
「士気を落とすな新人! お前だけ抜け駆けは許さねえ」
「そんな……」
「だいたい、お前が役立たずだからこんなことになったんだろうが! 申し訳ない気持ちの一つもねえのか!?」
「す、すみません……」
「分かればいい。分かればな。確か、日雇いの仕事の募集があったはずだ。そこに行ってみるぞ」
こうして、ゼネスト率いるパーティは一年後の冒険者復帰を夢見て耐え忍ぶ決意をした。
だが、この生活の過酷さを彼らはまだ知らない。
この生活に耐えかねた末路が更なる奈落の底へ繋がっていることも——
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