第7話:回復術師は招待する

 ◇


「こんな風にして、強化魔法と反対の魔法を魔物に付与するんです」


 弱体化魔法が気になったので、近くにいたアンテロープで実演してもらっていた。

 付与魔法というのは、強化魔法のことを指すというのが常識だ。


 パーティメンバーの力を引き上げることでポテンシャル以上の能力を引き出すもの。だが、リーナの言う弱体化魔法は、味方を強化するのではなくその逆——魔物のポテンシャルを下げる効果を持つ。


 ザクッ!


 短剣でアンテロープをワンパンする。

 さっき剣を借りて咄嗟に攻撃した時には気にしていなかったが、確かに比べるとよくわかる。


「明らかに魔物が弱くなってる……。これはすごいな」


 味方を強化するのも、敵を弱体化させるのも、結果は同じ。

 この魔法があれば、付与術士はまったく捨てたものじゃない。それに加えて、強化ポーションにまったくお金がかからなくなるわけだ。


 特に強敵になればなるほど弱体化魔法は効果を発揮するようになるだろう。

 魔法の構造を見る限り、もっと工夫することで通常の強化魔法並みのバリエーションを揃えることもできる。


 リーナと、リーナの元パーティメンバーは気付いていないみたいだが、この魔法はとんでもなくヤバい。

 全ての付与術士に同じことができるのかどうかはわからない。


 でも、こんな人材を黙って放っておけない。

 それに、ただ優秀だからというわけではない。


「リーナ、よく聞いてくれ」


「なんでしょう……?」


「実は、俺も劣等紋なんだ。リーナの気持ちはよくわかる」


 俺は左手の紋章を見せた。偽ることのできない、生まれながれの落ちこぼれである証拠。


「信じられないです……! ユージが私と同じ無の紋章なんて……」


「その上でもしよければ、俺とパーティを組んでくれないか? 俺なら、リーナの弱体化魔法を生かすことができるし、ぞんざいな扱いをすることは絶対にない」


「こんな私を拾ってくれるんですか……?」


「拾うなんてとんでもない。招待してるんだ。リーナが思ってるより、リーナは凄いし、貴重な存在なんだぞ」


 リーナはうるうると蒼い瞳に涙を浮かべた。

 今までの辛い思い出が蘇ったのか、存在価値を認められたのが嬉しかったのか、それとも別の理由かはわからない。


 一筋の涙が溢れた後、リーナは俺の左手——劣等紋をギュッと握った。

 そして——


「私でよければ、よろしくお願いします。……ぜひ入れてください!」


「ああ、よろしく。本当にありがとう」


 この時、確信した。

 まだパーティメンバーは俺を合わせて二人だが、いずれ既存のSランクパーティなんて比べ物にならないモンスターパーティーに成長することを——

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