第5話 まだ、恋をしている
「やべ、泣きそう」
だれもいない校舎裏、ぽつんとひとりで、ひとりごと。
気が付くと告白から、30分ぐらい経ってる。
放心してたわけじゃない。
うれしいんだ。
あれだけ真剣に、言葉をぶつけられたのは、はじめてだった。
強烈な言葉で、自分が弱いと思ってたところを、全部ズタズタにされた。
なんでだろう。
久遠の事を嫌いにならない。
むしろ、どんどん好きになる。
諦めが悪いのか、諦めきれないのか、それとも、久遠が最後の言葉で、可能性を残してくれたから、それにすがっちゃったのか。
なんにせよ、俺は自分のことをバカだと思う。
財布の中身を確認した。
髪を金髪に染めるために美容室へ行った。それから、一週間も経っていない。
また、行こうと思っていた。
やめだ。やめ、やめ。
高校デビューなんて、失敗した。
変な自分になるの、やめよう。
金色の安っぽいメッキなんて、はがしてしまおう。
変なプライドも、ついでに捨ててこよう。
自分らしさを、取り戻しにいこう。
「ははっ」
胸のときめきに、わくわくしてきた。
高校生になって、友達とか、いろんなことが勝手にできると思ってた。
実際は、そんなことなくて。
友達ふたりにも、あたらしく友達つくるから一週間見守ってくれとか、強がっちゃって。
謝らないと。
すぐに、メッセージを送った。
『ごめん。高校デビュー失敗した。つらい』
ふたりとも、部活に入るって言ってたから、部活中だろう。
夜にはきっと、返事がくるはず。
姉ちゃんにも、言わないと。
『高校デビュー失敗したから、髪染めなおす』
すぐに既読がついて、姉からメッセージが返って来る。
『鉄ちゃん、ヤンキーデビュー失敗乙』
顔を真っ赤にして、返信を考えてるときだった。
『行っておいで。お金、出してあげるから』
ハートのスタンプがついて、返って来る。
たった一人の頼れる姉は、やっぱり頼もしかった。
「よし」
そうと決まれば、ダッシュで教室に荷物を取りに行く。
久遠のおかげで、俺のダメなとこが、ふたつわかった。
そのいち。周り見過ぎで、流されやすすぎ。高校デビューとか、やってるやつ一部じゃん。自分もしなきゃって焦った結果、友達ゼロ。
そのに。バカのくせに、クヨクヨしすぎ。悩んでばっかりで行動しない。おかげで、全部が中途半端。
いつから俺、そんなんになったのかな。
なにを、焦ってたんだろう。
金髪の頭を叩きながら思う。
わかんねーや。
階段を二段飛ばしで教室にいって、三段飛ばしで玄関に戻った。
その途中で、ふと頭に浮かんだ。
――自分らしさってなんだろう。
もう、久遠が答えをくれてる。
素直で明るいところ。
ポジティブ・バカ。
もう一度、久遠に会いたいな。
今度は、ありがとうって伝えたい。
明日、登校したら、久遠に話しかけよう。
放課後の予定が無かったら、もっかい話、聞いてもらおう。
ワクワクとドキドキが、胸の中で入り混じる。
俺はまだ、恋をしている。
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