クロとの距離 ②

 しばらく本を読んだ後、リビングへと向かえばクロが椅子に腰かけて窓の外を見ていた。






 クロは何を考えているのだろうか。

 こうしてぼーっと外を見ながらきっと多くの事を考えているのだろうとそれが分かる。






 窓の外から入るあたたかな日差しを浴びて、外を見るクロは美しかった。思わず見惚れてしまいそうなほどの美しさがそこにはある。










「クロ」

「ジャンナ」






 私が名前を呼べば、クロは私の名を呼んで、こちらを振り向いてくれる。








 何だろう、今まで一人で過ごしていたから、こうして名前を呼んでくれる人がいるというだけでも嬉しい気持ちになった。








「今日は天気が良いわね」

「ああ」

「外に出ると気持ち良いわよ。広い庭もあるからお昼寝でもする?」

「……ああ」






 私の言葉にクロが了承するとは思っていなかった。けど、クロも外の温かな日差しを感じて、クロは外に出たいと思ったようだ。






 ずっと家の中にこもったままだったからこうしてクロが外に出ようと思ってくれていることは嬉しいと思う。

 家にこもったままなのが悪いとは思わないけれど、外の温かな日差しを感じた方がきっと元気になれるだろう。






 自然の温かさっていうのは人に良い影響を与えるものだと私は思っている。






 『救国の乙女』にはならないだろうと国に諦められた時、しばらく落ち込んで家の中にこもってしまったことがある。その時の私は馬鹿みたいに落ち込んでいて、その時はカーテンも開けずにずっと引きこもっていた。






 そんな私がふと我に返って、カーテンを開けた時、その温かい自然に救われた。






 自然の豊かさを感じると、心に余裕が出来るものだ。クロが自分で外に出ることを頷いてくれたことが嬉しかった。








 クロと一緒に外へと出る。






 今日の天気はとても良い。

 太陽の光が降り注いでいて、とても気持ちが良い。風が吹いている。その風も心地が良い。






「クロ、私は畑仕事するからゆっくりお昼寝していてね」




 私がそう言えば、クロは頷く。








 私はクロが草木の上に寝転がったのを見ながら、畑仕事を行っていく。クロの姿を目に留めながら畑仕事をするのも何だか不思議な気持ちだ。何だかやる気も出てくる。












 水やりは基本的に魔法で行っている。

 私は攻撃力の高い魔法はそこまで得意ではないけれど、生活で使う魔法はそれなりに使える。水やりを魔法でしているのは、魔法の練習も含めてだ。

 此処での暮らしだと魔法を使うこともあまりしない。だけど魔法というのは使わなければ使わないほど使えなくなると聞いたことがあるので、私は適度に生活的な魔法として使っている。










「ふぅ」




 ただ魔力がそこまで多くない私は英雄と呼べるほどに魔法は使えず、これだけの魔法でも少し疲れたりしてしまうものである。






 水やりを終え、害虫の駆除を終えて、そうして私は実っている果物や野菜などを収穫する。

 これは美味しそうだと思わず笑みが零れる。ちょっと小腹がすいて、それを丸かじりにしてしまう。美味しい。




 アッポーという赤い果物は、とても美味しいのだ。甘くておいしくて、私は嬉しくなる。

 こうして自分が一から育てたものがこれだけ美味しいものを実らせてくれるのが心から嬉しい。

 私には子供もいないから、こういう育てている植物たちがまるで自分の子供のように感じてしまう。








 そう思いながらちらりとクロの方を見たらクロは寝息を立てて眠っていた。

 このままクロに近づけば、きっとクロはすぐに飛び起きてしまうだろう。なんとか穏やかな眠りの中にいるクロの邪魔をしないようにしないと。

 私はそんな風に思う。






 クロはすやすやと眠っているけれど、やっぱり時折苦しそうに見えたから私はオルゴールを家の中から持ってきて、流しておいた。






 オルゴールの音色を聞きながら、畑仕事をするとなんだか落ち着く。

 このオルゴールの音色ってやっぱり落ち着くのよね。気持ちを落ち着かせることが出来て、やる気が出てきて私はまた畑仕事に精を出した。














 クロの表情が少しずつ、穏やかに変わっていることが私は嬉しくなった。クロがいつでももっと落ち着いた眠りにつければいいけれど、そんな風になるためには時間がかかるだろう。






 私が畑仕事を終えたあとも、クロはすやすやと眠っている。






 クロにはなるべく近づかないようにしながら、外においている椅子に腰かける。クロの顔が見える位置で気持ちよさそうなクロを見ていると、私も眠たくなってきた。










 オルゴールの音や温かな日差しも相まって私に睡魔が襲ってくる。

 これだけ日差しが温かくて、睡眠に適した日だと本当に眠くなってしまうものだ。クロがこれだけゆっくり眠ってしまっているのも、この自然の温かさが故だろう。クロがこれだけ眠ってくれているのならば、この周りの自然に感謝したくなった。












 クロのことを見つめながら、私は気づけば眠ってしまうのであった。

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