第72話 レベル上げ

「初めて作ったにしてはまあまあかな? ちょっとばかり、炎の威力が低いかも。宿に戻ったら改良してみよう」


「俺ら、全然戦ってないな」


「ドロップした魔石とアイテムの回収しかしていないけど、経験値は早く貯まるわね」


「アーノルド君、『火炎放射器の燃料』を錬金したよ。補給してね」



 始まりの港町から徒歩で一時間ほど。

 アービーの町は、ゲームだと最初に拠点にする町であった。

 ここで雑魚モンスターを狩って経験値を貯め、ただレベルを上げてその時はいいが、あとで詰む。

 主に、基礎ステータスのせいってやつだ。

 俺たちは基礎ステータス(俺と裕子姉ちゃんは運も)を100にしたので、あとはモンスターを狩りまくって経験値を貯め、ただひたすらレベルアップを続ける作業の開始だ。

 レベル100になるまで、一つレベルを上げるのに一万の経験値が必要という鬼仕様なので、一匹一匹のモンスターに拘っている場合じゃない。

 特徴などは俺がレクチャーするけど、中盤まではこの火炎放射器が火を噴くのだ。


「サンドゴーレムは効率がいい」


「確かにな……ドロップアイテムはないか……」


「あるけど、別にいらない」


「あるのか?」


「あるよ、『砂』が」


「わかんないじゃないか!」


 宿を取ったアービーの町から北西に向かうと、小さな砂漠がある。

 そこはサンドゴーレムの巣であった。

 砂の人形がワラワラと湧いてくるのだが、ゲーム初期に相手をするとプレイヤーたちは確実に死んでしまう。

 どういうわけか、スタート地点であるアービーの町の近くに中級レベルのモンスターが次々と湧いてくるからだ。

 ろくな説明がないので、ここに入り込んでサンドゴーレムに袋叩きにされるのは、シャドウクエストあるあるであった。

 ただ、上手く利用すれば効率よく経験値を得られる。


 俺は火炎放射器を構え、他のみんなが誘き寄せたサンドゴーレムを焼き払っていく。

 倒したあとには魔石が残るので、これは確実に回収を忘れない。

 シリルがドロップアイテムのことを聞いてきたが、サンドゴーレムのドロップアイテムは『砂』であった。

 色々な錬金で使うことは使うが、ゲームを進めるのに必要なアイテムにはほとんど絡まない。

 それに基本安く買える素材なので、無理に集める必要はないというか……。


「砂漠の砂に混じってよくわからないわね、砂」


「混じったら素材として使えなくなりそうで、とにかく拾いにくいね」


 アンナさんとエステルさんが、砂漠の砂とサンドゴーレムの落とす砂の差を見極めようと、目を皿のようにしながら観察を続けて……諦めた。


「拾わなくてもいいですよ」


 ゲームなら、サンドゴーレムとの戦闘が終れば『砂』を入手しましたという表示が出て終わりだろうが、現実ではドロップした砂が砂漠の上に落ちてしまう。

 二つは似ているが異なるもので、混ざると錬金に大きな支障をきたす。

 汚水で錬金するのと同じだからだ。

 どうせ時間をかけて拾っても大した金にならないし、魔王退治で使う武具やアイテムの材料にもほとんどならない。

 放置で構わないのだ。


「それよりも、サンドゴーレムを誘き寄せてください」


「わかったわ」


「唯一拾える魔石は、かなり品質がいいんだね」


 サンドゴーレムは中級モンスターなのに、ドロップアイテムがショボイので、魔石に関しては高品質であった。

 これは集めておけば錬金の役に立つし、換金もできるので確実に回収してほしいところだ。


「アーノルド様、いつまでこれを続けるのですか?」


「全員、レベル150を超えるまでだね」


 そのくらいあれば、中級クラスのボスなら余裕で撃破できる。

 レベル100までは、レベルアップに必要な経験値が一万。

 レベル150までは、レベルアップに必要な経験値が三万。

 サンドゴーレムなら、数日で必要な経験値を稼げるはずだ。


「アーノルド様、サンドゴーレムって次々と湧きますね」


 格闘に才能があるリルルは、かなり効率的にサンドゴーレムを誘き寄せてくれた。

 ただし、サンドゴーレムに攻撃をするなとは言ってある。

 相手は砂なので、武器や拳による攻撃があまり効かないからだ。


「そうよね。無限に湧いてくる感じ。アーノルド、『燃料』を錬金したわよ」


「ありがとう、ローザ」


 ドロップアイテムである砂を拾っていないので、余計にそうかもしれないな。

 次々と大量に湧き、火炎放射器で簡単に一網打尽にでき、しかも経験値も悪くない。

 序盤の経験値稼ぎ場所としては上等であろう。

 前提として火炎放射器が手に入ったからなので、ゲームだと大して効率もよくないのだが。

 俺流の、シャドウクエストの設定を生かしたレベル上げというわけだ。


「夕方になったら宿に戻ろう」


 それから四日間、大量のサンドゴーレムを誘き寄せてから、火炎放射器で焼き払う作業に従事した結果、全員のレベルが無事に150を超えた。


「アーノルド様、他のモンスターと戦って経験を積んだ方がいいのでは?」


「じゃあ、一日はこの辺で戦おう」


 ビックスの提案を受け入れ、丸一日かけて色々なモンスター……とはいえ、弱いやつしかいないが……と戦うことにした。

 とはいえ、今の俺たちはレベルが150を超えた。

 俺は杖で。

 シリル、裕子姉ちゃん、アンナさん、エステルさんは槍で。

 ビックスは剣で。

 リルルはナックルで。

 俺以外はすべてミスリル製の武器を使い、ゲーム序盤の雑魚モンスターを相手にするのだ。

 最初だけは初めて遭遇したモンスターに少し戸惑った程度で、あとは虐殺タイムとなってしまった。

 戦闘に慣れるという目的は、無事に達せられたと思う。


「明日から北上しよう。次の目的は、アンドレイの村だ」


「その村になにかあるのか?」


「ある」


「アーノルドがそう言うのなら、だなぁ……。実際、今までも間違っていなかったしな」


 シリルの問いに、あえて俺は自信満々な態度で答えた。

 その方が話が早いからだ。

 とにかく、一日でも早く魔王を倒さなければならない。

 裕子姉ちゃん以外は、俺が初めて来たはずのマカー大陸の地理に詳しく、その行動がことごとく利益となっているので驚いているだろうが、その知識の素が、散々プレイしたゲームの設定だと教えるわけにはいかない。

 かえって真相を話さない方が、ある種の神秘性が出て言うことを聞いてくれる。

 という体で、俺は行動していた。


「急げば今日中に辿り着けるはずだ。急ごう」


「そうだな、急ごう」


 シリルは俺の提案を受け入れ、日が暮れるまでにアンドレイの村へと移動することにしたのであった。

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