クロスゲームシンフォニー(多重奏)~従姉は悪役令嬢、俺は好感度判定キャラ~RPG風味
Y.A
第1話 従姉の裕子姉ちゃん
「それでね、今はこのゲームが流行しているのよ。ちょっと聞いてるの?」
「俺、そんな名前のゲーム、聞いたことがないんだけど……そのゲームって、裕子姉ちゃんと極狭いカテゴリーの方々が好きなやつだよね?」
「別に狭くないし! むしろファン層は広いから! 弘樹もRPGばかりしていないで、こういう恋愛シミュレーションゲームをした方がいいわよ。彼女ができた時に練習になるじゃない」
「そうかな? 本物の恋愛とゲームって違うような……」
「今まで彼女ができたこともない弘樹が言っても説得力ないわよ」
「それって、裕子姉ちゃんも同じ……「シャラップ!」」
今は夏休み中であった。
高校一年生になって初の夏休みを満喫する俺に対し、近所に住む高校三年生の従姉が、お勧めのゲームとやらを熱心に俺の部屋で解説している。
この従姉、顔もいいし、スタイルも悪くないのになぜか彼氏ができないと伯母さんが言っていたが、その理由は俺からすれば言わずもがなだ。
彼女はいわゆるヲタク系女子と呼ばれる人物であり、イケメン男子キャラに人気男子声優たちが声を当てているゲームやアニメに夢中になっていた。
俺に、イケメン男子キャラの素晴らしさを説かれてもなぁ……と正直に言ったところで、裕子姉ちゃんの話は長くなるだけ。
俺は、仕方なしに彼女の話を聞き続けていた。
これも、人生修行の一環だと思うことにしよう。
「でね、声優の○○様は、○○○○の○○○○の声も演じているの」
「はあ……」
「そして、今一番のトレンドはこれよ!」
裕子姉ちゃんは、女性主人公が複数のイケメン男子を攻略するゲームにもハマっており、俺にそのゲームの素晴らしさを説くのだ。
そして俺にも、女性キャラを攻略する恋愛シミュレーションゲームでもして、いつか彼女ができた時のための練習をした方がいいと断言するわけだ。
言っていることは理解できなくもないのだが、問題なのは俺にそう力説している従姉が彼氏いない歴=年齢という部分だ。
なんというかこう……非常に説得力に欠けるというか……。
「俺、まだ高校一年生だからさ。焦る必要ないし」
「そんなことを言っていると、彼女もできない人生を送る羽目になるわよ」
「はあ……」
俺にどうこう言う前に、俺よりも二つ年上の従姉殿が先になんとかした方がいいと思う。
名刀イケメン男子や、超人気のイケメン男性声優たちは、絶対に裕子姉ちゃんの彼氏にはなってくれないのだから。
「私も暫くこの家に通うから……まあいつも来ているけど……その間に、弘樹に色々と教えてあげる」
「どうも……」
それは好きにしてくれと思うが、裕子姉ちゃん……我が従姉殿の名前ね……は高校三年生なんだから、夏休みは同年代の友達や彼氏と遊んだ方がいいと思うぞ。
俺にだって、男子ばかりだけど一緒に遊びに行く友人たちくらいはいるし……。
「友達? 大丈夫、今度一緒にコミケに行くから!」
大丈夫なのかそれ?
あきらかにその友達の中に男子は混じっていないだろう。
「裕子姉ちゃん、受験は?」
「あっ、私もう推薦で大学決まってるから」
裕子姉ちゃん、色々と残念な部分が目立つけど、勉強はもの凄くできるんだよなぁ……。
なんでも普通の俺とは大違いだ。
「それとね、弘樹。私がこの本家に滞在するのは、あんたの家庭教師のアルバイトもあるからなのよ。叔母さんが『弘樹は頭の出来がいまいちだから、少し叩き直してほしい』って」
あのクソババア!
頭の出来がいまいちで悪かったな!
遺伝って言葉を知らないのか?
「弘樹は夏休みの宿題も毎年チキンレースだから、早めに着手させてほしいって叔母さんが言うのよ」
「うっ!」
それについては反論できないな。
でも一つだけ言い訳させてもらうと、俺は追い込まれた方が宿題が捗る派なんだ。
計画的にコツコツ派とは、意見の相違というか、戦闘スタイルが合わないんだよな。
方向性が違う者同士がバンドを組んでも結局上手くいかないし、お笑いコンビでも芸風の違いですぐに解散してしまうようなもので……
だから俺に、早々から夏休みの宿題をやらせるのは悪手だと思うな。
「弘樹がなにを考えているのかは知らないけど、私もアルバイト代が欲しいから容赦しないわよ。アルバイト代があれば、コミケでアレもコレも買えてしまうわ。楽しみ!」
「そんなぁ……」
というわけで、俺は裕子姉ちゃんと二人三脚の夏休みを過ごすことになった。
毎朝同じ時間に叩き起こされ、夏休みの宿題に、二学期の予習に精を出す。
逃げようにも、隣にはアルバイト代に目が眩んだ、いつになっても彼氏とデートに出かけない……そんな人いないんだが……裕子姉ちゃんがいる。
まず逃げ出すことなど不可能であった。
勉強が終わっても、俺は裕子姉ちゃんのお遊び相手に指名された。
子供の頃から、慣れているといえば慣れているんだが……。
「えへへ、マクミラン様ぁ~~~」
俺の隣で、聞けば誰でも知っている有名大学に進学する予定の才女が、テレビ画面に映るイケメンアニメキャラを見て締まらない笑顔を浮かべている。
せっかく恵まれた顔に生まれたのに、これではどんな男性でも百年の恋も醒めてしまうであろう。
「いかにも王子様だなぁ」
「マクミラン様は、第三王子様なのよ。この『ドキッ! 君の瞳に乾杯しつつ、ツマミにスルメとかは止めてよね!』で一番人気がある攻略キャラなのよ」
「なんというか……どうしてそんなタイトルなの?」
そのゲームが、男性イケメンキャラを攻略する女性用恋愛シミュレーションゲームなのはわかるが、タイトルがどこかぶっ飛んでいるというか、開発スタッフの心の声が混じっているというか……。
もしかして、疲れているのかな?
スタッフの人たち。
「最近はこの手のゲームが増えてきて、タイトルに使える単語もネタ切れ気味だし、目立たせる意図があるのかも。問題は中身だから」
いつも思うんだけど、こういう趣味がある人って、全力でそれを楽しみつつも、どこか冷静な部分も残っている人が多いと思う。
「弘樹、あんた本当に知らないの? このゲーム」
初耳に決まっているじゃないか。
俺がやるゲームとはまるで分野が違うのだから。
「このゲームは、本当にいいゲームなのよ」
聞いてもいないのに、裕子姉ちゃんは勝手にゲームの解説を始めた。
この『ドキッ! 君の瞳に乾杯しつつ、ツマミにスルメとかは止めてよね!』は……何度聞いてもなんなんだろう? このタイトルはって思うな……ファンタジー的な世界で、没落貴族の娘が上流階級の子女たちが通う学校に入学し、そこで大貴族のお嬢様とその取り巻きたちに苛められつつも、学園内にいるイケメン男子たちと懇意になっていくという、定番の内容であった。
一番目新しいのは、その変わったタイトルというわけだ。
「で、このマクミラン君も攻略キャラであると?」
「そうなの。声優が○○さんで、声を聞いているだけで幸せなの」
「そうですか……」
声にもイケボってあるんだよねぇ……。
俺は声も普通だけど。
「いつ聞いても、マクミラン様の声はいいわねぇ。もうこれで十周目だけど」
「どんだけ好きなんだよ……」
さすがに、同じゲームを十回もクリアーすると飽きないか?
と思った直後、主人公である美少女キャラと王子様との会話シーンが終了した。
そして画面は、別の男性キャラとの会話シーンに移行する。
「やあ、セーラ。僕になんの用事かな?」
その男性キャラも結構なイケメンで、主人公とは気安い会話をしていた。
「ああーーーん、アーノルド様ぁーーー」
裕子姉ちゃん、あんたさっきの王子様に夢中なんじゃないのか?
もう別のイケメンに浮気していやがる。
「マクミラン王子との親密度だね。うーーーん、今の時点で75。かなり親密だね」
「あれ?」
このお兄さん、攻略キャラじゃないのか……。
これって、男性用恋愛シミュレーションだと主人公の同級生とかで、攻略キャラとの親密度を教えてくれる好感度判定キャラだよね?
「弘樹、アーノルド様は攻略できないのよ。このゲーム会社のスタッフ、頭沸いているんじゃないのかしら?」
「おい!」
好きなゲームなんだろう?
睡眠時間まで削って制作に勤しんだゲーム会社のスタッフさんたちに対し、それはないと思う。
「だって、没落して貧しい生活を送っていた主人公を引き取り、この学校に通わせた子爵家の跡取りで、主人公とは血の繋がらない兄のようなキャラなのに、出番は攻略キャラとの親密度を知らせるのみ。どうしてアーノルド様を攻略できないのよ? 血の繋がらない兄妹のような関係なのに、これはおかしいでしょう! ○chのスレッドでも、批判続出だったわよ!」
そういう事情があるのであれば、批判されても仕方がないのかなと思う。
こういうゲームだから、イケメン男子は一人でも多く攻略したいだろうし。
「でも、今度続編が出てアーノルド様も攻略可能になるの。もう予約したから、当日は寝ないでプレイするわ!」
そうですか。
裕子姉ちゃん、楽しそうでいいな。
というか、寝不足は美容の大敵だからちゃんと寝ようよ。
「ところで、あんたはしょうもないゲームをしているわね。『シャドウクエスト』か。ネットで見たわよ。典型的なゲー無だって」
「俺が好きだからいいんだよ」
俺が携帯ゲーム機でやっているのは、シャドウクエストというちょっと前に発売されたRPGであった。
発売当初から酷評されていたゲームだが、俺は結構好きで今でもプレイしている。
世間ではクソゲー扱いだが、誰にだってあるだろう?
周囲の評価は低いけど、自分はもの凄く好きで堪らないなにかが。
俺にとってのそれが、シャドウクエストだったわけだ。
ただ主人公を育てて魔王を倒すだけのお手軽ゲームだが、キャラの育成にコツがあってのめり込んだのだ。
とっくに魔王は倒していたが、クリアー後に倒せる裏ボスの最速撃破にハマっていて、今もキャラを育てている。
シナリオが薄っぺらいと批判されているゲームだが、俺は好きであった。
「人にはそれぞれ好きなものがあるのよ。だから、私がアーノルド様が大好きでも問題はないの」
「それはそうだね」
この日も裕子姉ちゃんに勉強で絞られ、ゲームにつき合わされてから就寝した。
明日も同じような予定だが、夏休みの宿題や二学期の予習は順調に進んでいる。
この点だけに関しては、裕子姉ちゃんに感謝しないといけない。
そう思いつつ、俺は布団に潜るのであった。
そして翌日……。
「アーノルドお坊ちゃま、起床のお時間ですよ」
「はい?」
朝、目を覚ますと、俺の視界に見慣れぬ外国人中年女性の姿があった。
メイド服姿の彼女は、俺を起こしにきたようだ。
「アーノルド?」
「まだ寝ぼけていらっしゃるのですか? アーノルドお坊ちゃま」
「俺がアーノルド?」
「決まっているではありませんか。さあ、朝食の前に身支度をいたしましょう」
突然の事態に、俺はなにがどうなっているのか理解できなかった。
大村弘樹、十六歳、高校一年生。
普通の日本人であった俺がアーノルドなんて洒落た名前のはずが……と思いながら、自分の体を確認すると……。
「俺、小さいぞ!」
「アーノルドお坊ちゃまはまだ三つではありませんか。すぐに大きくなられますよ」
よく見ると布団じゃなくて豪華なベッドに寝ているし、部屋も欧米風になっていた。
室内にはテレビやパソコンもなく、クラッシックな家具と内装のみとなっていたが。
「鏡だ!」
「アーノルドお坊ちゃま。鏡でしたら洗面所にもございますが」
室内で鏡を見つけ、俺は急ぎ自分の顔を確認しようとする。
ベッドから降りた時点で、俺は自分の背が異常に小さくなっていることを確認した。
メイドさんの言うとおり、俺は三歳の子供程度まで縮んでしまったのだ。
「うーーーん、欧米顔」
「オウベイガオですか? それは絵本に出ていたなにか特別な言葉でしょうか?」
「……」
そして鏡に映る俺は金髪碧眼で、将来はイケメンになりそうな可愛らしい容姿になっていたのであった。
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