ドラゴン・トラベラー

アキちゃんズ!

終わらない昼の村

プロローグ

 ――なにを、どうすれば。


 肩で息をしながら眼前に立つ人物に、焦点を合わせながらなんとか立っている。足の裏に感覚が残っている、それだけが立っていると自覚させる最後の頼りなのだ。

 拳を握る左手からは、痺れと痛みを自ら放つほどに力を入れている。そうでもしないと自覚したくない、感覚のない右手に意識が向きそうで。

 だが、そんなことを考えている時点で意識は徐々に向いているのだ。そして視点を僅かに下ろすと見えてくる。


 ――手首から先がない右手が。


 身体の中から声を上げようとするよりも先に出てくるのは嘔吐物だ。

 膝を折って地面につき、視線だけでなく頭全体を下に向けて身体の中にあるものを外に吐き出す。

 黄色の液体やドロドロになった固体からはさらなる吐き気を呼ぶ臭いを放っている。もちろん、口内にもまだその一部が残っているので気持ち悪さにもう一度だけ吐いた。

 また吐き出さないように、今度は口内に残った吐物を吐き切った。

 吐き気は治った。しかし、次に襲ってくるのは自覚してしまった右手だ。先程まで痛みなど一切はなってなかったそれが、少し、大きく、そしてのたうち回るほどに肥大化する。そして――。


「熱い、ゔぅ……熱い熱い熱い」


 痛みは熱さへと変わった。

 まだ立てていない。普段感じることのない部分から熱いと悲鳴を上げている。その熱さを冷やそうと左手で押さえると痛みが暴走する。暴走した痛みに反応したのか赤黒い血液も、絞ったタオルのように出てきて滴る。


 頭がクラクラする。右手がない衝撃や失った血液が原因だと思われるそれは、生命をこれ以上営むのに危険だと本能が感じている合図だ。

 だが、それを無視して立ち上がって、眼前にいた人物まで到達する必要がある。それは今まで出会った人々や緑髪の彼女のため。その記憶を糧に立ち上がろうと足に力を入れるが。


 ――立てない。脚が笑っている。


 力を入れて立つ、その動きが出来ない。だからせめてと目だけでも見ようと動かすがまともに焦点が合わない。頭のぐらつき、ぼやけ、息が荒くて瞬きも早い。それに加えて身体中から嫌な汗が湧き出てくる。


 ヤバい。本当にヤバい。なにを、どうすればこの状況を変えれるんだ。


 相手を見ても変わらない。そもそも見えない。

 自分を見ても変わらない。汗が更に増えていて気持ちが悪い。

 周囲の状況を見ても、みても。

 上空を見てみると赤い球体がそこにはあった。赤い、赤いそれはぼやけている。

 その時、自分にかけられているものが消え熱さだけが身体中を支配した。


 ――熱い、熱い熱い熱い熱い熱い。


 身体を大の字にして倒れ込む。もう指一本動かすことすら億劫だ。

 焼ける。その感覚を身体中に刻みながら、一人の少女がそれでも必死に抵抗しているのが見えた。

 赤い球体に抵抗するがそれもいつかはなくなり、廃となって消えていった。

 ただでさえ、苦しい過去を背負っている彼女がこんなところで熱さに支配されて終わっていいはずがない。そんな不幸だけで終わっていいはずがない。

 そして時期に、焼けて焼けて焼けて。廃になる前に1つだけ、消えた彼女と世界に誓った。


「世界が例え壊れたとしてもお前だけは、幸せだと言わせてやる……!」


 ――そして、黒い廃になって消えた。

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