滅鬼の刃

武者走走九郎or大橋むつお

第1話『ジェット推進十万馬力』


滅鬼の刃 エッセーノベル    


1・『ジェット推進十万馬力』   




 あやかりものと申しましょうか、パクリっぽいタイトルで申し訳ありません。わたしなりの思い入れはあるのですが、最初に書くと、なにか言い訳っぽくなってしまいます。お読みになっているうちに「ああ、そうなのか」と感じていただければ幸甚です。感じられなかったらごめんなさい。


 とりあえず、エッセーかラノベか判然としない、そういう虚実皮膜的な駄文を、どこまでいくか分かりませんが、とりあえず鞘から抜いてみることにしました。



 部活の同窓会を南森町のイタ飯屋でやった時の事です。


 還暦前後のおっさん・おばはんの話は子どもや孫の話題になりました。


「こんどのガンダムは動くらしいで(^▽^)/」


 ワインに酔ったT君がスマホを出します。


「ああ、東京のどっかにあるやつやなあ」


「横浜や」


「せやったか……あれはポリさんの人形みたいに立っとるだけで動いたりせえへんぞ」


 警察を定年で辞めたY君が遮る。


 生徒だった頃から、人の間違いは正さずにはおられない性格で、その正義感が災いして、警部補止まりでの定年。いまだに定年後の再就職先が決まっていないY君。


「ガンダムて、うちの息子がガンプラ集めてるわ」


「うちは、亭主が集めてる」


「エバンゲリオンと双璧やねえ!」


 ん十年前のJKたちも身を乗り出してくる。


「これ見てぇ! 孫といっしょに日本橋(大阪なのでニッポンバシと発音します)行ったらさあ、お店丸ごとガンプラいうのんがあったのよ。ほら、これこれ、店の看板がガンダムの上半身! なんや、ずぼらやのフグ提灯みたいや思わへん?」


「そんなんちゃうねん、東京のは全身像や。これこれ」


 Y君は画像をつぼめて全身像であることを強調する。


「それは古いやっちゃ、これこれ、こっちを見いや」


 空き瓶やら空き皿を押しのけて、テーブルの真ん中にスマホを据える。


「え?」


「あ?」


「どんなん?」


「こんなん」


「「「「「おおおおお」」」」」


 テーブルを囲んで盛り上がる。


 横浜の山下ふ頭の実物大ガンダムが動き出すのを見て、どよめきが起こる。


 見てくれは還暦前後だが、こういう珍しいものへのリアクションだけはン十年前のままだ。


 そういうジジババ予備軍の好奇心に還暦を七年過ぎたわたしは着いていけない。この数年の歳の開きは、意外に大きい。


「俺はアトムとか鉄人28号やさかい、ガンダムはよう分からへん」


「ああ、アトムやったら、あたしらも観てましたよ(^▽^)/」


 バランス感覚のいいKさんが、現役のころと変わらぬエクボを浮かべて話を継いでくれる。


「そうや、アトムの主題歌て、ここ一番いうときに浮かんでけえへんか」


 T君が受け取って、自然に話題を膨らます。


 そうや、アトムの主題歌なら、俺も歌える!


 わたしの高揚を察してくれて「先輩、歌ってくださいよ!」とマイクを差し向けてくる。


「よし、ほんなら、みんなで合唱や!」


 カラオケメニューを呼び出すのももどかしく、合唱の音頭を取る。


 いち に さん ハイ!



 で……歌が違った(;゜Д゜)



 空を超えて~ ラララ 星のか~なた ゆくぞ~アトム ジェットのかぎ~り♪


 後輩たちは陽気に空を超えた。


 わたしは。


 ぼーくは無敵だ 鉄腕アトム 七つの力をもーっている♪



 わたしのアトムは実写版だった(-_-;)



 子役の少年がマンガのそれとは全然違う昆虫を思わせるウェットスーツみたいなのを着て、アトムヘッドを被って活躍するというものだ。当然、アニメのそれとは主題歌が違う。


「あ、いや、アニメのんも知ってるからね(^_^;)」


 自分でフォローをして、みんなに合わせて、事なきを得ました。



 人生、ここ一番という時に口ずさんでしまう歌が、一つや二つはあるもんですよね。



 それが、後輩たちの場合は『ゆくぞアトム ジェットのかぎ~り(^^♪』で、わたしの場合は『ジェット推進十万馬力~(^^♪』になるわけであります。


 昭和もガンダム世代や平成生まれの若い人には「どっちも同じ(^▽^)ジジババ」のノスタルジーなのでしょうが、この差は団塊の世代の境界面になるのです。


 アニメアトムの世代は、心情では左翼っぽくとも、デモに行ったり集会に参加したりはしない人が多いように思います。


 実写アトム組は、団塊の世代の尻尾の先で、雰囲気にのまれてデモの最後尾に付いたり、校長や学長への大衆団交の末席におりました。いわば現場の端っこに居ましたので、その後の団塊本流の、よく言えば行く末、悪く言えば変節を目の当たりにしてきました。


 大正生まれの親たちが「わしら、子どものころは江戸時代生まれの人が生きてたでぇ」とか言うのと似ているように思います。


 同窓会の帰り道、みんなの話をニコニコ聞いていたX先輩が地下鉄の階段を下りながら言いました。


「実写アトムはシーズン1とシーズン2があってな、君の言うてたのはシーズン2のほうや」


「え、そうなんですか!?」


「シーズン1は、カチカチの外骨格みたいなん着とった……こんど写真見せたるわ」


「そんでも、アトムの主題歌は『ジェット推進十万馬力~』でしょ?」


「う~~ん……俺はアトムよりも『赤胴鈴之介』かなあ、山東明子のナレーションで、吉永小百合が子役で声やってた」


 うう、それは知らんかった。


 改札に入るころは、まだ決着の付かない大統領選挙の話題に替わり、当然の如く先輩はバイデン押しでありました。


 長幼の序を旨とするわたしは、あいまいな返事をしてイコカを改札機に認識させたのでありました。


 


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