第12話 縛りプレイはマゾの象徴
「ん? なんすか? 自分に聞き込みっすか!? いやー、なんか刑事ドラマみたいでドキドキするっすね! 何でも答えるっすよ!」
「……やる気があるのはすごく助かるよ」
「まあ、先輩たちは制作で忙しいっすからねー。ちなみに自分も作ってるっすけど、スクラップアンドビルドっす! ぶっ壊して作る! これの繰り返しなんで新鮮な刺激はいつだって大歓迎っす! まあ、ぶっちゃけると詰まってて気分展開したいっす!」
「やる気もあるのか怪しくなったね……」
冬樹ちゃんに声をかけると、今にも飛び上がりそうなくらいにテンションを上げて話しかけてくれる。まあ、内容はこれだがこちらの気分を軽くするために明るく話してくれているのかもしれない……多分。
さて、何を聞くべきか……そういえば。
「盗まれたっていうアクセサリーについて聞いてもいい?」
「ん? 説明した通りっすよ? なんなら、自分でなくした可能性だって否定できないなーって思ってるくらいっすけど」
そういいつつも、思い出しながら答えてくれる。
「自分が盗まれたか無くしたアクセサリーは、ネックレスなんすけど……まあ、ちょっと変な形をしてる奴っすね。現代アートっぽいっすよね? なんか面白いんで買ったんすよ。わりかし一時期付けてたけど不評だったんスよねー。ねえ、先輩方?」
「あれを付けてくるくらいならバケツでも被ってきたほうがマシ」
「うーん、僕はノーコメントで」
「……むしろ、無くなって良かったな」
「私は嫌いじゃないですよ? 自分でつけろと言われたら絶対に付けませんけども」
……散々な評価だった。猫かぶってる間時さんですら拒否するってどんなアクセサリーだったんだ。
現代アートみたいな形をしたネックレス……まあ、他のメンバーも知っている物だったと。
「それがなんで盗まれたんだろうね」
「いやー、さっぱりっす。ちと高価っぽく見えないこともねーっすけど、別に宝石がついているわけでもないっすからねぇ。むしろ、自分としてはここに置いて忘れたんで盗まれてそういえばあったなーって思い出したくらいっすよ」
「なるほど……」
参考になるかならないかで言われると……あんまりならないかな。
(ただ、冬希ちゃんが犯人の可能性は薄いかな)
『お、犯人じゃないって結論早くねえか?』
(まあ彼女を疑いにくいっていうのはあるけども……ただ、今回の盗難事件の犯人はやっぱりあの三人の誰かだね)
そういって目線を向けたのは、このサークルの上級生である代表の小沢さん、副代表の凪都くん、仏像みたいな相葉さんの三人だ。
『ほー、なんでだ?』
(元々、嫌がらせであるなら彼女の制作を邪魔する方向性で考えていたんだけど……そうなる場合に、ここで邪魔をする理由が必要になる。冬希ちゃんが犯人の場合にはこんな盗難事件なんて大事にするメリットがない。それに、創作の方向性が違いすぎるのも大きいね)
まあ、周回してる僕のメタ的な視点で言うのであれば……間時さんが、冬希ちゃんへの質問を許可している。つまり、情報源の彼女は犯人候補として優先度が低くなる……まあその思考込みでの誘導かも知れないが。
……ならば、動機という点で掘り下げるべきだろう。
「冬希ちゃん、聞きたいんだけど……忙しいってことは、なにか事情があるのかな?」
「忙しいのはコンクールがあるからっすねー。うちのサークルが毎年出展を希望してるコンクールがあるんっすよ。結構良いところまで行くんスけど……」
「冬希、ちょっといいかな?」
「ん? なんすか?」
と、そこで間時さんが冬希ちゃんに声をかけて呼ぶ。
さて、会話を打ち切られてしまったが……まあ、そこが要因の一つか。
(コンクールね……それに対して、間時さんの絵が評価されるから選出されてしまう……つまり、枠が減るってわけだ。コンクールだって場所の制限があるだろうからね)
『あー? 全部飾りゃいいんじゃね?』
(場所もあるだろうし、コンクールだから相当な数が出るんじゃないかな? 毎年ってことは恒例。つまり歴史があるってことだから……)
と、そこまで考えて冬希ちゃんが申し訳無さそうな顔をして僕の所にやってくる。
「探偵さん、申し訳ないっす! ちょっと席を外すっす!」
「ああ、いいよ。質問に答えてくれてありがとうね」
「いやいや! この程度全然構わないっすよ!」
そう言ってパタパタとサークルをでていく冬希ちゃん……そして、間時さんはこちらを見ている。
なにか話すことがあるのかと思い近寄ってみる。
「なにかあるのかな?」
「ええ……それで、探偵クン。質問はどうだったかな?」
周囲の視線が外れているのを見て、ニヤリと笑みを浮かべてそう聞いてくる。
「まあ、悪くないよ。冬希ちゃんの教えてくれた情報は役に立ったからね」
「へえ、やるねー! あんまり妨害は効果なかったかな?」
「……いや、もっと情報がほしいよ。そう言う意味でも十分に妨害の効果はあるよ」
絞っても現状では三択。そして、ちゃんと理由まで推理しなければ納得などさせれるはずがない。
だからもっと情報がほしいのだが……
「ま、私からどう言おうと探偵クンからしたらそう言うしかないからねぇ?」
「……まあそれはそうだけどね」
ニヤニヤと笑いながらそう言うが、まあ絶対僕の情報が足りていないことは分かっている顔だ。
うん、やっぱりマガツじゃん。探偵である僕を虐めて楽しむ姿は横にいる邪神とそっくりだ。
「あ、ちょっと嫌かな」
「えっ? いててっ……!」
そういうと、僕のほっぺを引っ張られる。痛い。
「ゲーム中なのに、相手の顔を見てないのはマナー違反だと思うけど」
「……ごめんごめん。やっぱりそっくりだと思っただけだから」
「ふーん? まあいいけどね。そっちから誘っておきながらホストが客を無視するならこっちだって考えはあるよ?」
「……そこまでないがしろにしたつもりはないけども」
……自分とのゲームに集中しろってことか。
いやまあ、こういうのを気になる女の子に言われたら嬉しいんだろうなぁ……でも相手は殺人鬼だ。いやまあ、ある意味ドキドキはするのだが。命の危機的な意味で。
と、外から声が聞こえる。それを聞いて風花さんが外を見る。
「あれ……? あの、探偵さん。冬希先輩が呼んでますけど」
「ああ、行っていいですよ」
一瞬で猫をかぶってそういう間時さんに促されて、窓の外へと歩いていく。
そこには、冬希ちゃんが立っていて何かをしていた。
「探偵さん、見てくださいっす! これ、証拠になるんじゃないっすか!」
そういいながら何かを指差している。
「……証拠?」
「そうっすよ! ほら、見てくださいっす! ここに何かを埋めた形跡があるっすよ!」
そう言われてみてみれば、確かに何かを埋めたような跡がある。
……処分をせずに、どこかに隠したのだろうか? だとして、なんでこれがここに……?
「どうするっすか!? いやー、ワクワクするっすね!」
「……冬希ちゃんは、これをどうやって見つけたのかな?」
「彩子ちゃんから頼み事をされた時に見つけたんっすよ! いやー、これは大手柄っすね!」
「頼み事って――」
視線を向けると、窓には間時さんがコチラを見ていて……僕の視線に気づいてニコリと笑みを浮かべるが、退屈そうな笑っていない視線を向けて僕にバイバイと手を降った。
それを見て、僕が次の言葉は言う前に頭上からなにかの衝撃を感じ……突如として意識が喪失する。
そして、灰色の世界に戻ってきた。
『ひゃはははは! いやー、マジでいい死にっぷりじゃねえか』
「……失敗しても良い計算で仕込んでいたのかもね……まさかこれで死んだのか……」
『ひひひ! まあ、やり直しはするか? もう嫌になったんじゃねえか?』
「……やるよ。今回に関しては死んだ後の光景を見なくてよかった」
目の前で命を失う瞬間を見た冬希ちゃんを想像すると……気持ちが曇ってしまう。そういう意味では、さっさと死んでよかった。
そして、気づけば体は拘束され……足元には、ゾワゾワとした感触が襲ってくる。
『ひひ、トラウマになったら悪いな! さあ、虫のご飯になる準備はいいか!』
「……本当に最悪だよ」
そのまま、うぞうぞとした感触は痛みに変わっていき……僕は生きたまま貪られた。
……正直、この感触についてはあんまり思い出したくない。
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