事件ファイル2 黄泉坂大学殺人事件
プロローグ 事件の前触れ
『……おいおい、暇だなぁ』
さて、先日の亡霊島事件の後に医者送りにされた僕だが……平和な日々を過ごしていた。
一応、頭部のレントゲンも撮ったし経過をみたがそっちは大丈夫だった。まあ、腕にとんでもない大傷を負って失血死寸前になっていたのだ。せめて他の場所は問題なしでありたい。
後遺症も残らなそうで安心した。切れ味が良かったのが逆に幸いしたらしい。とはいえ、当然ながら医者からはしばらく安静にしてなさいと言われた。
『暇だよなぁ! なあ、暇じゃあねえか!?』
「うるさいよ、マガツ」
なので探偵事務所でゴロゴロとしている。色々あって、ここが家代わりなのだが……本当に平和な日々を過ごしていた。
自炊をしてみたり、読書をしたり、普段あんまりやらないゲームをやってみたり……なんとも優雅な悠々自適な生活を送っている。
平和万歳。今日も一日何もせずのんびりとしていて気分がいい。死ぬような苦痛を味わなくていいだけで幸福とすら感じそうだ。
『暇だぁ! ああクソ! 暇すぎる!』
「うるさいなぁ……映画でも見る?」
『そんなの退屈しのぎにならねえんだよ! ああ、事件! 事件が必要だ!』
僕の周囲で飛び回りながら、体を変形させて退屈だとアピールする邪神が一柱。
マガツ。僕へ殺人事件を解決した後に、巻き戻して犠牲者を0人するゲームを持ちかけてくる邪悪な神だ。このまえの亡霊島では、他の邪神らしい何かを食ったとか言っていた後々面倒なことをしでかさないかちょっと不安である
まあ、こうして退屈のあまり部屋中を飛び回るアピールをしてる様子からはそんな事できそうにもないが。
「いいじゃないか、平和。このまえの亡霊島で散々楽しんだんだろうし」
『確かに、楽しめたぜ……でもなぁ! 退屈ってのは毒みたいなもんだ! ドンドンと俺を蝕んでいくんだ! せめて俺が自由に動けるってんなら楽しみも探せるが……それも出来ねえしよぉ』
「亡霊島のときみたい、僕から離れて行動すればいいんじゃない?」
『ありゃ、お前とのゲームの最中だからできるんだよ。普段はお前からあんまり離れられねえんだ……まあ、俺みたいな存在は縛られるからな』
「そうなんだ……それって、亡霊島の神様も同じだったの?」
ふと気になって聞いてみる。
亡霊島に存在した神様。皐月さんが呼び出そうとしていた死者を呼び出す神……あの島に縛られていたのだろうか。
『そうだな。あれも島に縛られてた神だ。まあ、あいつも消える寸前だったけどな。俺が見た時にはボケて、自分でも起きてるのか寝てるのか分かってねえ状態だった。とはいえ、信仰すら無くなった神ってのは大抵ああなるんだけどな』
「……なんというか、悲惨な老後って感じだね」
『まあな。どうせ曖昧な存在なんだ。俺みたいな特例でもなけりゃ、最後には忘れられてボケて消滅する。その前に上手いこと死んだり消えたり別の存在になれなきゃ悲惨なもんよ』
「神様にも色々あるんだ……ふと思ったんだけどさ。最初の殺人事件の時には皐月さんは神様に会えたのかな?」
終わった事件を掘り起こすようなことは普段はしないのだが……ふと、気になった。
あれだけの事件を起こして、皐月さんが神様に出会うことすら出来なかったのなら悲しい。
『あー、まあ出会ってたんじゃねえか? あんだけ条件を整えて、生贄まで使えばボケた死にかけでも叩き起こされるだろうからな。とはいえ、消えかけの電球が最後に光るようなもんだ。多分、呼び出した後には消滅するだろうな。とはいえ、ボケたまま消滅するよりはマシだろ』
「そうなんだ……最後に出会えたんだね。皐月さんは」
それはせめての救いかと考えて……ふと、思い直す。もしも成功していたのなら……何を知ってしまうのだろう。
知らなかったとは言え自分の血を分けた兄妹を殺して、誰も望んでいなかった結末のままに自死をしてしまったのだ。その事実を死者から聞いて……
『ひひ、なーに暗い顔してんだ。どうせ終わった話だ。気にした所で得るもんなんてねえんだ。今は何も起きなかった。それでいいんじゃねえか?』
「……それもそうだね」
……ああ、まさか邪神からフォローされるとは不覚だ。
と、亡霊島の件で思い出して事務所の外に出る。そして郵便受けを開いて……
「……あー、やっぱり」
『ん? どうした?』
答えを出さずに回収して、事務所の中に戻ってから手紙を机の上に広げる。
大量の手紙の宛先は全部僕。探偵事務所でも父さん宛でもない。
『ひひ、モテモテじゃねえか。んで、誰から貰ったんだ?』
「……八割は皐月さんだね。予想通り」
それを聞いてゲラゲラと腹を抱えて大爆笑するマガツ。お前のせいだぞという視線を向ける。
中を開いてみてみる……内容はマトモなのだ。近況やこちらを気遣うような内容が書いてある。まあ、ただ問題があるとすれば物量がとんでもないということだけか。
『げほっ! はー、ああ、面白え……いやー、俺、いい仕事したなぁ!』
「……まあ、それに関しては何も言わないけどさ。皐月さんが元気でいるらしいし。それに、他の人からの手紙もあるんだよ。ほら」
『ん? ああ。確か……あの島に居た息子か?』
「そう。それとお医者さんの斎藤医師からも」
皐月さんの手紙に紛れて、他の二人からの手紙もある。
内容としては彼女の近況や、僕が居なくなった後の亡霊島についての内容が書かれていた。全部を読みながらマガツに説明をする。
「……あの後、亡霊島の形見分けについては特に揉めることもなくすんなりと終わったみたいだね。まあ、元々はそんな騒動になる内容でもないから事件が解決すれば当然か。それで、結局亡霊島にある屋敷は残すみたいだよ」
『ほー、残すのかい』
「皐月さんのためらしいよ。まあ、無くなった厳島桜人の思い出もある場所だからね」
息子さんは、突然の父親の秘密に混乱はしていたようだが……やはり、もうすでに不和の原因だった母親も父親も居なくなっていたのが大きかったようで、皐月さんを全面的に支援することに決めたようだ。
日記を見て、自分の父親の秘密を教えてもらったことで自分と同じ父親の被害者だと皐月さんに対して同情的になったらしい……まあ、腹違いの妹だと判明したのも理由の一つか。
『なんだ、つまんねーな。自分を殺そうとした相手だってのに揉め事もなしか』
「まあ、元々殺すほど恨んでたと言うよりも……自分が死ぬのだから主人の恨んでいた相手もって考えてたからね。息子さんたちも殺されかけたことはまだ完全に納得はできてないけど、事情を考えて自殺するほど追い込まれてたなら仕方ないってさ」
この先も色々とぎこちない関係は続くんだろうが……まあ、いずれは和解できるだろう。だからこそ、あの亡霊島の屋敷を残したのだろうから。
「あ、皐月さんは学校に通うんだ。しばらくはそっちで忙しいから手紙が一日一通になるって書いてる」
『ひひ、もしかして毎日何通も送るつもりだったのか? いやあ、面白えねーちゃんだな』
「……今度メールアドレスでも教えておこうか」
皐月さんの手紙の内容で、学校に通う理由が明らかに僕の事務所で雇ってもらうための技術を習得するという理由なのに目を背けて他の手紙を見る。
そういえば、斎藤医師の手紙はなんだろうか。
「えーっと……? まずはお礼と……ん?」
『お? どうしたんだ?』
斎藤医師の手紙をみて……さて、どうするかと悩む。
「……いやさ。斎藤医師から来た手紙が……仕事の依頼なんだよね。探偵として見込んだ依頼」
そう、彼から内密に頼みたい依頼があるのだという。
僕のことを探偵として見込んでいるのは嬉しいが……さて、一体どんな依頼なのか。
『おいおい? 悩むより行動あるのみじゃねえのか? なあ、探偵さんよぉ!』
「……それもそうだけど、君絶対に事件が起きそうで面白いからで煽ってるでしょ」
『あ!? 当然だろうが!』
悪びれずにそういい切るマガツにため息を吐きながらも、詳しい日程について調整をするために返信を書き始めるのだった。
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