第9話ピンクのグロス③

 落ち着いてやっと話ができる。ただの愚痴を聞くお泊まり会だったはずなのに。


「茜ちゃん、お願いがあるの、恋人になったんだから楓って呼んでほしいなぁ~」

「楓ちゃん、じゃあ、私にも楓ちゃんにお願いがあるんだけど」

「なんだろ~?」

「私も、楓ちゃんが持ってるピンクのグロスと同じのが欲しいの、楓ちゃんはいつも付き合った彼女の口紅にあわせてるけど、楓ちゃんには私がしてる適当リップなんか似合わないから……私があわせたい」


 重い女だと思われても、子供じみた独占欲だと思われても、楓ちゃんの今までの女達とは違うことがしたかった。


「いいよ、なんか嬉しいな、あたしから言うばっかりだったからな~でも女遍歴知られてるのやっぱりかなわないなぁ~」

「ふふっ」

「じゃあ、今からグロス塗って一緒に写真撮ろうよ~」

「えっ、お風呂入ったのに?」

「唇だけメイク落としシートで拭いて顔洗ったら大丈夫だよ~」


 戸惑う私をよそに楓ちゃんはバックからメイクポーチを取り出す。

 透明なリップクリームを下地にして、その上からピンクのグロスを楓ちゃんが丁寧に塗って仕上げてくれる。友達から恋人になったばかりの好きな人にメイクをされるなんてなかなかない。


「あたしにも塗ってくれる?」


 こくん、と頷いてリップとグロスを受けとる。手の震えをなんとか誤魔化して楓ちゃんの綺麗な唇にはみださないように塗る。


「は~い、撮るよ~」


 一緒に撮った写真は目は真っ赤、唇以外はすっぴん、パジャマとさんざんだったけど、二人の宝物になった。




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