第5話オレンジの口紅①

『ファンにいっぱい手を出してたの~彼女、あたしだけじゃなかった……もうバンドやってる女とか信じない……』


 そう言って、ボロボロ涙で綺麗な顔を濡らして消え入りそうになる鈴川さんをファミレスで私と石野君で慰めたのは1ヶ月程前だったかな。


 1ヶ月の間はピンクのグロスをしていた鈴川さんは今日、オレンジの口紅をして大学にきた。

 校内有名人の彼女の口紅がかわるたびに一部がざわざわするのはもう風物詩みたいなもの。


「新しい彼女できたんだね?どんな人?」

「ちょっとだけ年上のアパレル店員なんだ~雑誌モデルもしてるの、ほら見てこの雑誌に彼女載ってるの~」


 女性誌で好感を持たれるような適度にハツラツとして明るい表情をした雑誌に写った彼女は自分が販売員をしているアパレルショップの服を着て、明るいオレンジ色の口紅をしていた。

 きっとショップの宣伝も込みなんだろう。


「幸せになってね!」

「うん!ありがと~、茜ちゃん大好き!」


 心からの友人としての祝福、少なくとも人妻とか遊んでるバンドのボーカルよりは幸せになれる可能性は高いだろうから。


 今の私は、この気持ちが友情だけじゃないことどこかで気づいていたけれど、それを蓋して。

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