鈴川さんのリップスティック
南野月奈
第1話ローズの口紅①
同じゼミの鈴川楓さんは付き合う女が変わると口紅が変わるらしい。
それはどうやら付き合っている女と同じ口紅をするかららしく、今日もいきなり昨日までの薄いピンクのグロスから大人っぽいローズ色の口紅をして登校してきて、めざとい女子はざわついていたらしい。
大学も三年にもなると、目立つ同学年の人の噂や情報というものはほぼ出そろっている。
ましてやマンモス校とは程遠い小さな私大のキャンパスでは……
私は可もなく不可もなくという存在なので二年のとき半年付き合っていた彼氏がいたこと、駅の近くのコンビニでバイトしてる位しか知り合い程度の人には把握されていないようだけど。
鈴川さんは一年の入学当初から目立つ美人だった。ロングのウエーブした色素が薄めの髪、大きな瞳、160センチ程のスラリとした身体に程ほどの胸もあって先輩や同級生男子は一生懸命アプローチしたけれども彼女の答えはいつも同じだったという。
『私、女の人としか恋愛しない人なの~』
それでも、もしかしたら?という希望を持った男性は友達になるのだけど、だいたい3パターンの経過をたどる。
それが彼女の断り文句なのだろうと思い込んで恋愛的アプローチをしつこく続けた挙げ句本当にビアンだと理解した途端逆ギレをかまして周りから白い目でみられる男、断り文句なのかもしれないしバイセクシャルである可能性にかけたもののビアンであることを理解し静かにフェードアウトしていくもの、最後に可能性が消えても恋愛に持ち込もうという気持ち自体が沈静化して、彼女の思いのほか明け透けなキャラクターを受け入れ本当に友達になる男だ。
「楓、また口紅かえたんじゃん?今度はどんな女の子なの?」
彼、石野君もまたそんな経緯をたどって鈴川さんと友人になった男の子だと、私は石野君本人から聞いていた。
「女の子っていうか女の人」
「年上なんだ?」
「ネットで知り合った人妻、大人の余裕みたいなのがあって~女の子も好きかもって結婚してから気づいちゃったんだって」
こっそり聞き耳をたてていたけれど鈴川さんのあまりにも自然な物言いに、思わず会話をしている二人の方を振り向いてしまう。
「やめたほうがいいでしょ、それは……また泣くよ、ねえ、原田さんもそう思うだろ?」
急にこちらに話を振ってこられると挙動不審になるのですが。
「……うん、いやでもわかってても好きになっちゃうこともあるし」
「茜ちゃん優しい~、ねぇ、あるよね~」
「原田さん、楓を甘やかさない方がいいよ、この人毎回次こそ最後の恋人にするっていって難しい人とばっかり付き合うんだから」
石野君は深いため息をついて資料に目線を向け、鈴川さんは売店におやつを買いに行くとゼミ室から出ていった。
一方の私は付き合っていた頃の元カレにも感じたことのない胸のときめきに戸惑いを感じていた。
はじめて彼女に原田さんではなく『茜ちゃん』と呼ばれたから。
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