第2話 俺のペットが… 🐾
「佐藤さん、さっき頼まれた書類終わりました」
「あっ、ありがとうね島崎くん。今日はもう帰っていいわよ」
「はい、お疲れ様です」
俺の名前は島崎幸平。27歳の普通のサラリーマンだ。そう、普通の。俺は昔から普通だった。小中高と特になにもなく、普通の大学に行き、卒業し、こうしてそこそこ良い食品会社で働いている。
そして俺には、好きな人がいる。
チラッと自分のデスクから斜め横に座っている綺麗な女性を見る。
多分、100人中100人は『美人さん』というだろう。佐藤さんは見た目もそうだが中身も完全に仕事が出来る女性アンド頼れる上司だ。ほぼ全員の社員から信頼されている。それに俺みたいに好意を抱いてる人も少なくないはずだ。
この会社に入り、彼女が上司になった日からずっと好き……だったが。
先月、俺は手を洗いにトイレに行くとそこには同僚の男性二人がいた。俺は会社ではまったく人と話さないので気にせず手を洗っていると、
「てか、聞いたか?佐藤さんに男が出来たって?」
「ああ、同期の女性たちがその話で盛り上がってたからなぁ」
なんと、佐藤さんに恋人が出来たという話を聞いてしまった。確かに驚きはしない。あんな美人に彼氏がいない方が逆におかしい。ビビって飲みにも誘えない、彼女いない歴=年齢の俺なんか眼中に入るわけがない。
そんなこんなで特に思いを伝えたわけでもないのに人生で初めての失恋というものを俺はした。
そして、今の俺はというと、
ガチャ、
「ただいま〜」
玄関を開けるが誰からも返事はない。だが、奥のリビングのドアの向こう側で何者かが床をカリカリしている。まるでドアの下を掘り、こちらへ来ようとしてるように。
俺はリビングのドアを開くと、勢いよく俺にへばりつくその正体とは、
「おー、よしよし。いい子にしてたか、ひな?」
「わんっ!」
そう、犬のひなである。小柄で茶色い毛並みの可愛いらしい女の子だ。ビーグルって言う犬種らしいが小さいわりには顔立ちがしっかりしていて、ひなを買った店の定員さんは多分もうこれ以上大きくはならないでしょうとも言っていた。俺は小柄のままの方が可愛いと思うから、それは良かった。
「わかった、わかったから落ち着け。まなはどうした?」
すると、俺の呼びかけに返事をするように、
「にゃっ」
「おーまなもいたか。お前もいい子にしてたか?」
猫のまなだ。ひなと同じくらい小柄で白っぽい毛並みに黒の模様でこちらも可愛いらしいアメリカンショートヘアの女の子だ。二匹とも2歳半くらいだ。
「じゃ、俺はお風呂入ってくるから大人しく待っとけよ」
「くぅーん…」
あからさまに『行かないで』みたいな声を出す、ひな。
「にゃ〜」
あからさまに『あっそ』みたいな声を出す、まな。
二匹とまさしく犬と猫だなぁって反応だ。そういうところも可愛くってたまらないがな。
先月、佐藤さんに恋人が出来たという話を聞いた夜、帰り道に俺はなんとなくペットショップに入った。今思えば心のどこかで癒しや慰めを求めていたのかもしれない。そんな時、目に入ったのがひなとまなだった。しばらくの間、二匹を見つめ、俺はこの子達を飼うって決めた。昔から動物は好きだったが飼った事は一度もなかったし、俺のマンションもペットはオッケーだし。
飼った初日は二匹とも少し警戒していたらしく、家の周りを歩き回ったり、匂いを嗅いだりしていた。
でも、すぐに慣れたみたいで、ひなはもうすっかり俺にべったりの甘えん坊さんだ。家の中で俺が移動したらずっとついてくるし、手を差し伸べるとごろんとなり、『なでなで』という顔で見つめてくる。ツン度0、デレ度100と言ったところだろう。
一方、まなはひなほどベタベタではないが、たまに膝の上で寝たり、仕事中、俺の手を肉球でちょこんと止めたりする。ツン度25、デレ度75と言う感じだ。
そんな二匹を俺は大好きだし、いつも癒されている。こんな日々だずっと続くのだろうな…
だが、そんなある日、
いつも通り仕事を終えて帰宅した俺だったが、
ガチャ、
「ん?」
俺はいつもとは何かが違う事に気づく。リビングのドアを誰もカリカリしていない。ひなは毎日俺が帰ってきたらするのに今日は静かだ。不審に思いつつもリビングの方へ歩いていくと、誰かの話し声が聞こえる。そんなはずはない。俺は一人暮らしだし、合鍵も誰にも渡していない。
「ど、泥棒?…」
思わず小声でそう呟いてしまった。そして、もう少しリビングに近づくと、話し声がよく聞こえて、中では二人の人が話しているらしい。
俺は腹を括り、リビングのドアを恐る恐る開ける。
……
「ご主人様はひなの事が大好きだもん!」
「
俺は言葉を失った。目の前にいる二人の少女。思考が停止していて、彼女らがなにを話しているのかは分からないが、なにかを揉めているようだ。
そして、俺は周りを見渡し、ある疑問が頭をよぎる。
ひなとまなはどこだ?
すると、二人の少女のうちの一人が俺に気付き、
「あっ、ご主人様!」
「ご、ご主人様?!」
彼女は一直線で俺の方へ飛んできて、抱きつく。俺は何がなんなのか分からなくなってきた。やば、警察に捕まってしまう。そんな事ばかりを考えてしまう。
「き、君は誰なんだ?」
俺が彼女にそう質問すると、
「ご主人様、ひどい…ひなだよ!わんっ!」
少女は悲しそうな顔をしたっと思ったらすぐに元気いっぱいな声で『ひな』と名乗った。最後に全然犬っぽくない、『わん』を言った。少女はダボダボのT-シャツを着てる、見るからに俺のT-シャツだ。それにこの小さな体、茶色い髪に少し垂れた獣耳、後ろには尻尾まで…ま、まさか…
「ひな、
「ガルル、まなったら自分がご主人様にくっついきたいだけでしょう?」
「そ、そんな事ないです!」
後ろからもう一人の少女が声を上げる。
その少女もダボダボのワイシャツを身にまとっている。見覚えのある黒い髪にピンっと立ってる獣耳、それにまたまた尻尾…
「き、君はじゃ、もしかして…」
「そう、まなです。にゃん」
俺のペットが人間に!?そんな事があり得るのか!!??
それから俺の人生は普通の人生とは違うものになった。
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