わたしは何が何でもこのラブコメに勝ちたい!

白野さーど

プロローグ

プロローグ 一大決心の告白のはずが……

 体育館裏の桜の木の下。


 高校生活の集大成、卒業式を終えたわたしは、彼が来るのを待っていた。


 人懐っこくて、誰からも慕わられていて、そして誰よりも優しい。


 自分より一つ年下だというのに、落ち着きがある子だなと思いきや、時折見せる少年のような無邪気な笑顔に、わたしは魅了された。


 そんな、わたしの心を奪った男の子。


伊織いおりくん……)


 すると、


「遅れてすみません、おと先輩」


 わたしを『おと先輩』と呼ぶのは、伊織くんだけである。


 それはつまり、待ち焦がれていた瞬間がやって来たということだ。


「……だ、大丈夫よ。わた、わたしも、今来たところだからっ」


 人生で、これほど緊張したことは初めてかもしれない。


 それほど、わたしの心臓はドキッドキッと高鳴っていた。


 彼の名前は、黒瀬くろせ伊織くん。


 これから、わたしは、いま目の前にいる彼・伊織くんに…………自分の思いを伝える。




 ――あなたのことが、好き……と――。




「…………い、伊織くんっ!」

「は、はいっ」


 急に大声で名前を呼ばれて、驚いた表情を浮かべる伊織くん。


「あ、あのね。わ、わた、わたしは……」


 大丈夫、大丈夫。


 落ち着くんだっ! わたしっ!


「わた……わた…………綿菓子わたがし、美味しいよねっ!?」

「え、綿菓子ですか? それはまぁ、美味しいですけど」


 ――し、しまったぁぁぁあああぁぁぁ!!!


 緊張が限界を超えると、人はここまでテンパってしまうものなのか。


 はぁ、私としたことが……。


「あの……」


 !?  …………一回、落ち着こう。うん。


「ちょっ、ちょっと待ってねっ!?」

「は、はぁ」


 わたしは、一度自分を落ち着かせるために、伊織くんに背を向けた。


(はぁ…………ふぅ〜…………)


 深く深呼吸をして、高鳴る鼓動を落ち着かせる。


 …………よしっ!


「待たせちゃってごめんねっ!!」

「あ、いえ。それで、先輩。用ってなんですか?」


 と言った時の彼と、再び目が合った。


 ドキッドキッ。


「そ、それはね……っ!」

「――あ、こんなところにいたんだ。黒瀬君、ちょっといい?」

「……ん?」


 まるで言葉の続きを遮るように、突然、校舎の方から伊織くんを呼ぶ声が聞こえた。


 えーっと……。


「あ、今行きます」


 えっ?


「それじゃあ、おと先輩。ご卒業おめでとうございます」


 えっ、ちょっ……。


 彼を呼び止めようにも、緊張のせいで口からうまく言葉が出てこない。


 そうしている間に、伊織くんは、声をかけてきた女子生徒の元へと行ってしまった。


 私の告白は、まだ…………。




「い……伊織く~んッ!!」




 こうして、わたしの一大決心の告白は、突如、幕を下ろしたのだった――。

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