第30話 (空くん久しぶり、サブタイトルに帰ってきたよ)
「空、おはよ」
「……おはよう。森子さん」
毎朝起きるとすぐ、リビングの方からいい匂いがした。というか、その香りで虚ろだった脳は覚醒する。
今日の朝食は、パンと目玉焼きとベーコン、サラダだ。
森子さんは平日であろうと今日みたいな土曜であろうと日曜であろうと、毎朝決まった時間に朝食を作ってくれる。
俺は大きく伸びをしてから、朝食の前に座った。
昨日全力疾走をしたせいか、もものあたりがズキッとして痛い。筋肉痛はダイチと遊んでて何度も経験しているが、これほど痛みを感じる筋肉痛は始めてだ。
「大丈夫そうだね」
森子さんは、俺の向かいの椅子に座ると、唐突に安心したような目で俺を見つめてきた。なんの話だろうか?
「ちゃんと友達に会えたんだろ? 昨日より顔色がよく見える」
「あ」
そのことか。
そういえば昨日は、大分頭と体を使ったせいか、帰ってすぐ寝たんだっけ。
ハナやウミ姉と話しながら布団に入っていたら、そう長く話さないうちに寝てしまったようだ。朝起きたらハナがちょっとだけむっとしていた。
「森子さん、昨日はありがとう。なんだか吹っ切れたっていうか、なんていうか。友達って大事だなって、思ったというか」
「そっか。ところで、昨日あった友達って女の子かい?」
「え? あーいや、えーっと」
やばい。あらぬ誤解をさせられる。
そもそも夜中に男女が会うって、普通に考えたらやばいよな。
いやでも、あの場にはダイチもいたし……。
「それ以上はいいさ。空が青春してるって知って、私はほっとしているよ。夜にこっそり会おうとするのは、感心しないけどね」
「あー森子さん、そろそろ食べようっ!」
俺は、これ以上変な誤解をされる前に、食事の前に手を合わせた。
森子さんは「わかったよ」と呆れたように言うと、俺と同じように手を合わせた。
「「いただきます」」
* * *
「よう、空!」
「おはよ」
俺は短く返事をすると、公園のブランコに腰を掛けた。ダイチは俺の座った目の前の手すりに座る。本気で漕いだら蹴りそうな位置だ。もちろん、ダイチを蹴ることは不可能なんだけど。
「ダイチくんおはよー!」
一緒に来たハナは俺の隣のブランコに座る。ハナが本気でブランコを漕いだら一回転しそうだ。ブランコが動くことは無いんだろうけど。
「二人とも、昨日の続きなんだが、その、相談してもいいか?」
これはできるだけ、俺自身で考えたいことだった。でも、これ以上一人で抱え込んでいたら、本当にそれしか考えられなくなって、ハナたちを消してしまうかもしれない。
「一人で考えなきゃいけないことなのに、巻き込んでごめん」
(謝る必要あるのかな。確かに空くんにとって私たちは他人だけど、私たちは空くんのことを欠片も他人だなんて思ってないよ)
「そらくん、私はそらくんのこと、ずっと見てきてる! 誰よりもそらくんの相談相手になれるよ!」
「おう! 女子に話しづらいことなら親友の俺に任せろ! 空、お前の周りにはこんなにも頼れる友達……いや、親友がいるんだぜ?」
ウミ姉と、ハナとダイチは、当然のことのように言う。
ああ、そっか。馬鹿だなあ俺は。
なんで一人で考えようとしたんだろう。
俺が一人にならないために生み出した友達を、頼っていいのは当たり前のはずだ。
誰よりも近い友達を、俺は持っているんだからな。
外でもない、俺自身の分身だ。こいつらは。
(不本意だけどそうだよ。私たちは空くんの一部なんだ。不本意だけど)
不本意だけ強調して言うな! そんなに俺が嫌いか!
(空くんのことは、大好きだよ)
「…………っ!」
(なんちゃって)
おい、からかうんじゃねえ!
……いや、まてよ。
これは実は好きな流れか? ウミ姉こそツンデレとは言わないが、隠れデレ的な気がしなくもないような……。いやでも、俺のこといじめてくるし……いやいや、いじめたくなるほど好きということで……?
(あの……真剣に考えないでくれるかな……。しかも当たってるし……)
ん? なんか言ったか?
(え、普通頭の中の会話でそのセリフ出る?)
なんか、ウミ姉がツッコミに回ってる気がするような……。なんでこうなった?
(もうどうでもいいかな……。それよりも相談、聞いてあげる)
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