星川ユズと、イマジナリーフレンド

第12話 (空くんは存在感皆無だよね)

「まさか、同級生と帰ることがあるとはな」

「わ、わたしも初めてです……」


 俺と星川さんは、途中まで帰る方向が同じらしいので、一緒に帰ることにした。小幅でちょこちょこと歩く姿が女の子らしい。ハナみたいに俺を置いていく勢いで兎のように跳ねながら進む姿も好きだが。

 星川さんを置いていかないように、歩くペースを合わせる。

 いつもはハナと自分のペースでスタスタと歩いていたが、ゆっくりと歩いてみると、世界がゆったりと進むように見えて気持ちがいい。

(二人きりで下校……傍から見たら彼氏彼女に見えるかもね)

 そうかな。星川さんにとっちゃ迷惑な話だな。

(ツッコミしてくれないなんて珍しい)

 今ウミ姉と会話してたら星川さんとの会話が疎かになるんだよ。ウミ姉の声はなんかこう、不思議な魅力があって思考が脳内へ吸い込まれる。


「空さん、どうかしましたか?」

「ん? ああ、ごめん。ちょっとウミ姉が――って、は⁉」


 星川さん、今俺のことなんて言った?


「な、なんで急に名前呼びに……?」

「あ、え、えっと、友達に名字で呼ぶのはよそよそしいと思ったので! それとも、呼び捨てのほうがいいでしょうか! いやいや、やっぱりJKはあだ名でしょうか! 空たんとか言ったほうがよろしいでしょうか!」

「そ、空たん⁉ ……普通に呼んでくれ!」


 いや、JKがみんなあだ名で呼びあってるかは知らんが。いやそれでも空たんはないだろ! むしろ名字呼びも多いのでは? リア充じゃないから知らないけど。


「わたし、リア充JKに憧れてるんです……!」

「リア充JKって、教室の真ん中でデカい声で喋ってるやつら?」

「わ、悪口言わないでください! 私みたいな存在感皆無な空気女とはわけが違うんです! コミュ力高いし美意識高いし協調性あるし存在感の塊ですし! あと、難しい創作用語も沢山知ってます! 結構頭がいいんですよあの人たち!」


 俺が嫌味っぽく言うと、星川さんは俺の前に立ちふさがり、グーにした両手を胸の前に押し当てて、早口で叫びだした。


「お、おう……」


 なんて返せばいいのかわからないほど、圧力のある演説だった。

 まあ、リア充JKつっても、いい奴らと悪いやつらで別れると思うしな。上から目線のリア充気取りはムカつくが、そうじゃない誰にでも平等に話しかけてくるやつらに対しては、確かに星川さんの言う通りかもしれん。

 創作用語作るのと頭いいはなんか違う気がするが……テストとかでは高得点とったりする人はいるよな。うん、わかる。

 ただ、一つ星川さんの言葉に共感できないところがある。


「星川さんが存在感皆無はないだろ」


 俺は立ち塞がる星川さんを避けて先に歩き出す。後ろからとことこと足音が聞こえる。少しだけ歩くペースを遅くした。

 話を戻すが、星川さんに存在感がないはずがない。

 確かに、星川さんは髪で目を隠しているせいで表情が見えにくいが、立ち居振る舞いからしてめちゃくちゃ存在感を放っているお嬢様って感じだ。

 男子はまず釘付けになるだろう。

 俺だって現実の人間に興味がないわけではない。むしろかわいい女子がいたら三度見くらいしてしまう。星川さんは五度見くらいのレベルだ。顔が見えないのにめちゃめちゃかわいいのがわかる。なんなんだこれ。オーラ?


「いえ、そんなことないですよ……! 今日だって誰にも話しかけられませんでしたし。話しかけてくれたのは空さんが初めてですっ」


 そんな上目遣いでかわいく言うな。ドキッとしてしまっただろ。

(空くんは誰にでもちょろいよね)

 いや、男子はみんなちょろいもんだぞ。

 星川さんは勘違いをしている。お嬢様全開オーラの彼女に気安く話しかけられる人はなかなかいないだろ。寝言を言うほどぐっすり眠る姿を見ていた俺くらいだ。あの時はお嬢様ってよりは、園児っぽい幼さがあった。現実の人間には関わらないと思っていた俺ですら、つい近づいてしまうほど母性本能(?)を刺激させられたものだ。

(空くん、母性本能は違うと思う)


「そ、空! なんだその可愛すぎる子は!」


 ブランコ公園の前を通ろうとすると、聞き覚えのある声がした。

 まあ、通り過ぎるつもりではなかった。星川さんについて脳内で語っていたから公園の存在に気づいていなかっただけだ。


「ダイチくんこんにちは! なんと、そらくんに現実の女友達ができましたー!」


 ハナが急に現れたと思ったら、勝手にダイチへ星川さんの紹介を始めた。


「…………」


 それを聞かされたダイチは、急に黙る。


「ハッハッハ……! ハハハハハハハ!」


 そして急に笑い出した。なんだこいつ怖い。

(なんだこの人)

 さすがのウミ姉も引いてる。


「現実の女子だと⁉ しかも超絶かわいい美少女だと⁉ 俺の気持ちがわかってここへ来たのか? ああ? おい空、聞けい!」

「聞いてる聞いてる。わかるわかる」


 言いたいことはわかる。つまり、コミュニケーションが取れないのが悔しいんだろ。


「あ、あの、誰かいるんですか……?」

「ああ。さっき教室で話したが、公園に来ると現れるダイチだ。俺の唯一の男友達のイマフレ。地縛霊の可能性もあるが」

「おい空、地縛霊って聞こえたが?」


 他人にイマフレを紹介するのって、なんだか恥ずかしいな……。


「そ、そうなんですね。え、えっと、こんにちは!」


 星川さんは、公園に向かってお辞儀をしながら挨拶をする。


「こ、コンニチハ!」


 視線は合っていないが、自分に向かって挨拶されたのに気付いたダイチは、カチコチに固まっていながらも挨拶を返す。

 うん。常に天然幼馴染の美少女と過ごしている俺と違って、ダイチは女子と関わる時間が極端に少ないからな。仕方ない。

(その自慢はさすがにダイチくんがかわいそうだね)


「それで、ダイチ。ちょっと荒いやり方なんだが、星川さんと話さないか? ハナも」

「……え? 空さん、お二人と話せるんですか?」

「まあ、少しだけなら可能だ」


 俺は自分の鞄から、ノートを出す。

 ほとんど手に付けていないノート。自主勉やらくがきをやるときに使っている。中学の頃は授業中に会話するのにも使ってた。

 そう。幼い頃、ハナが俺の身体を使ったのと似た方法で、または中学の時にやった会話と同じ方法で、現実の星川さんとも話せると考えたのだ。


「筆談だ」

「おう! その手があったか!」

「ダイチ、お前とは筆談したことなかったけど、字、書けるか?」

「待て待て待てーい! 仮にも同じ歳の俺に聞くか⁉ まさか空、俺のことを馬鹿だと思ってるのか⁉」

「ああ、もちろん」

「一切の躊躇なく言うなああ!」

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