隣の席の星川さん

第1話 (空くんは幼馴染のハナちゃんが大好きなツンデレさんです)

 緩やかで暖かな風と眩しく照らす日差しは、俺にゆったりとした眠気を誘ってくる。今日は大事な日だというのに、目覚めるのに時間がかかったのはそのせいだ。変な夢まで見てしまったのも、この暖かさのせいだと思う。

 新しく袖を通した制服はぎこちなくて、歩きなれている道ですら初めて通ったかのように感じて、なんだか変な気分だった。

 必死にあくびを噛み殺して歩いていると、横から元気のいい幼馴染の声がした。


「そらくんそらくん、今日から新しい学校生活だよ! ワクワクするね!」

「そうだな。ワクワクするな。――ところでなんで一緒に居る?」


 なぜちゃっかり俺のあとをついて来ようとするんだこいつは。


「へぇ?」


 華奢な体が跳ねるたびに揺れるポニーテール。

 くりくりとした大きな目が、きょとんとした顔つきでまっすぐと俺を見つめる。幼く見えるが、これでも高校一年生だ。

 クッ……かわいいな。

 だが、今日は大事な入学式なんだ。俺はめちゃくちゃかわいい幼馴染に対して心を鬼にする。


「あのなハナ。学校についてくるなって言っただろ? 今日はせっかくの入学式なんだから……静かにしといてくれ」

「あれ? それって学校には来ていいことにならない? 行っていいってことだよね! ありがとうそらくん!」


 まったく、俺の幼馴染はどこまでも自由だな……。

 まあ、そんなハナだから一緒にいて楽しいと思えるんだが。

 学校で目立ったらどうすればいいのやら……。いつも通りぼっちになるのだろうか。


「高校生になっても毎日登校しようね! そらくんっ」

「色々反論するのも面倒だから言っとく。……ああ、よろしくな。ハナ」


 ああ、なんだかハナを見ていると思う。高校生活もぼっちでいい、と。

 ハナが、いつも隣に居てくれるなら。それでいい。

(まったく。空くんはハナちゃんに甘いのね)

 何故だろう。頭の中で声が聞こえる気がする。きっと気のせいだ。

(まったく。空くんはハナちゃんに甘いのね)

 繰り返さなくていいから! ウミ姉!

(ふふふ。私を無視できると思ったの? もう何年空くんと一緒に居ると思ってるのかな~?)

 ああそうだな。おかげで脳内が毎日騒がしいよ。

(まったく。空くんはハナちゃんに甘いのね)

 ああ悪いかよ⁉ 何回繰り返すんだそれ!

 別に、甘いとか、そういうのじゃねえよ。そんなに優しくしてるつもりはないからな?

(これをツンデレと言うのかな)

 ちょっと静かにしてくれ。ウミ姉……。


「そらくん、桜が咲いてるよ!」


 ハナがきらきらと輝いた目でひらひらと舞う桜を見ている。その姿は、芸術と言ってもいいほど輝いている。


「ま、四月だしな」

「花びら捕まえようよ! 捕まえたらきっといいことあるよ!」


 本当にこいつ、俺と同じ一五歳か?

 歩くたびに楽しそうに笑うハナをみて、俺の心は満たされた。やっぱり新たに友達を作る必要なんてないな。俺はハナやウミ姉たちがいればもうそれで充分だし。

(全員空想のイマジナリーフレンドだけどね)

 いいだろ別に。友達であることに変わりはないんだしさ。


「そらくんそらくん、遅いよー! もうすぐだよ! 学校!」


 こんなにかわいい友達がいて、これ以上何を望めばいいんだ? いや何もいらないだろ。な?

(そういうものなのかなあ?)

 そういうものなんだよ。

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