第24話 凛々しい護衛の女性たち

 グレースは周りの説得に負けて店を二日休んだが、三日目からは元気に働いた。

 医者が付けてくれた、ノリのように傷を貼り合わせる薬がよく効いたらしく、今では幾分かゆみが残る程度だ。「縫ったわけではないので禿げないわよ」と言われて笑い転げる。面白い女医さんだ。


 例の男たちは来ていない。常に人が複数いるから諦めたのかもしれない。護衛の女性たちは交代で来てくれるのだが、皆とても麗しい。


「グレース様、なんだか目の保養になりますね!」


 コソコソッとモリーがグレースに耳打ちするので全力で同意する。

 何者なのかはよく分からない。聞いても「レディ・グレースの護衛です」と笑顔でかわされてしまう。わかるのは、みなさん優秀で美しくて、こんな借金まみれの令嬢の護衛になんて宝の持ち腐れ過ぎだということだ。


(ほら、あれよ、あれ。美古都のママが好きだった、女性だけの劇団の人みたい!)


 こんな女性たちをぽんと寄こしてくれるリーアはいったい何者なのか。

 護衛の女性たちは、簡易ではあるが制服のようなものを着ているため、客の一部は女性たちの正体が分かっているようだ。しかし誰も何も教えてくれないので、いつも通り詮索するのはやめた。


(ここでは身分も立場も関係ないんだもの。私の作るものを食べてくれる人はみんな平等だわ)


 実際彼女らは、カフェのコーヒーや料理を心から楽しんでくれているらしい。

「実はここに来るのは、競争率が激しいのです」

 と、何人かがこっそり教えてくれた。


 最新のキッチンの中でも、グレースの魔法と相性がいいオーブンをフル活用して作った、シフォンケーキやカスタードプリンはすこぶる受けがよかった。どちらも代替クリームをホイップして添えているのだが、これがコーヒーにも合うと評判になっている。


 仕込みのあいだに作って振舞うクレープは思った以上に好評で、

「手で持って食べられるクレープですか! なんて斬新なことを」

 と、まず驚かれた。

 キャロルお気に入りのキャラメルナッツはもちろん、軽食として作った野菜や油漬けの魚を巻いたクレープには絶句からの絶賛といった具合で、「クレープに不可能はないのか」と大真面目に言われた時は、笑うのをこらえるのが大変だったくらいだ。


 持ち帰りできたらいいのにという呟きを耳にし、具を包んだクレープを用意すると、護衛後の土産の定番になってしまう。

 カフェでも通常メニューにしてはと言われたが、正直にまだ難しいと話すと、「今のままでも特別感はありますね!」と微笑まれ、その笑顔の美しさにしばしぼーっとなってしまったのは言うまでもない。


 貴族の女性が通える学校というものがない世界だ。社交界デビューしていないグレースにとって、お客様相手とはまた違う、同世代の女性と関わるのは楽しい日々だった。



 そんなある日。


「今日はモリーさんを連れて外で食事をしますね」


 護衛の女性たちからそう言われ、自分は? と一瞬寂しく思った日。閉店間際にオズワルドが訪れた。


「外は男性が警護してますのでご心配なく」

 と女性護衛の一人が片目をつむって、皆でぞろぞろ出ていく。


 何が起こったのかわからないまま、二人きりになった店内で、グレースは急に恥ずかしくなってもじもじし始めた。

 こんなに長く会えなかったことは初めてで、会ったら言おうと思っていたことが全部頭から消えてしまう。

 それでも平静を装いながら普段通りコーヒーを淹れていると、今日のオズワルドは雰囲気が違うことに気づいた。何が違うのだろうと、カップを置きつつさりげなく彼を一瞥し、その髪の生え際が白っぽい金色になっていることに気づく。


(あ、逆プリンになってる。地毛はあんな色だったのね)


 濃い色に染めることもあるのかと特に疑問も持たず、むしろ、地の髪の色がヒヨコみたいで可愛いなどと思いきゅんとする。

 コーヒーには女の子たち用に焼いていた絞り出しクッキーを添えた。


「食事はどうされますか?」


 あくまで客として扱うと、オズワルドは座ってくれないかとグレースに目の前の椅子をすすめた。

 最初に礼が先だったと気づき、頬を染めて口を開こうとすると、彼が複数の書類をテーブルに広げた。


「これは、君の実家の借金が完済されたという証明書です」

「えっ?」

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