第2話 ハイカカオ

「よし、できた!」


私は目の前にあるチョコトリュフを見つめて満足気に微笑んだ。


今日はバレンタイン、だが今年は日曜日に当たり渡せるのは明日になる。


「喜んでくれるといいなぁ。」


そう呟いてチョコトリュフを慎重に包装して冷蔵庫に入れた。



翌日、高鳴る鼓動を抑えながら学校に行った。


教室に入ると、男子達は「チョコもらった?」と話しながらソワソワしている。


「男子もよくやるよね〜、イケメンでもないくせに期待してんじゃねーよ。」


私の前に座ったのは同じクラスの友人だった。


「あんたは渡す人いるでしょ。早く行ってきな。」


「わかった、行ってくるね!」


頑張れよ。と手を振ってくれた友人を背に、

私は手に持ったチョコレートをぎゅっと握って彼のクラスへ向かう。


「ここ、これ!受け取って!!」


「えっ、あの、」


「返事は!放課後でいいから!!」


恥ずかしさでその場を後にして自分のクラスへ走った。


教室に戻ると友人がゲームをしながら帰りを待ってくれていた。


「渡せた?」


「ばっちり!応援してくれたおかげだよ〜!」


「返事は?どうだった??」


「恥ずかしくて逃げてきちゃった……」


「このヘタレ!ちゃんと聞いてこいよ!」


そう言って友人は私のおでこにデコピンをした。


その日の授業は覚えていない。

ずっと付き合えたらどうしようとか、最初のデートはどこに行こうとかそういうのばっかり考えていた。


でも、期待していた答えは全く違った。


「ごめん、受け取れない。」


放課後、誰もいない教室で告げられた。

突き出されたチョコは私が作ったものだった。


「な、なんで?義理でもダメかな?」


「俺彼女いるんだよ。みんなには言ってないけど。」


信じられなかった。

彼女がいるような素振りは1度も見たことが無かった。

朝も、昼休みも、帰りの時もずっと一緒にいたのに。


「そっ、か。ごめん。」


私は震える手でチョコを受け取った。


「ごめん、でもありがとう。」


そう言って彼は教室を出ていった。


その後はどうやって帰ったかも分からない。

ただぼーっとして、ベッドに横たわっていた。


ゴミ箱にはチョコトリュフが入った袋がクッシャクシャになって詰められていた。


その夜はハイカカオよりも苦い思い出になった。


翌日、学校に行くと友人が目を輝かせて私を待っていた。


「どうだった?付き合えた??」


「ふられちゃった。彼女いるんだってさ。」


友人はすごく悲しそうな顔をした。


「これ食べて元気出しなよ。バレンタインに贈るつもりだったんだけど、渡しそびれちゃって……」


そう言って友人が差し出したのはキャンディだった。


「見る目ないよそいつ。こんなにいい子なのに。」


「ありがとう。」


「あたしの方があんたのこと楽しませられるし、あんたの事1番よくわかってるから!」


「うん。大切なお友達だよ。」


そう言うと彼女は泣きそうな顔で笑った。



その日帰ってからふと目に止まった「バレンタインに贈るお菓子の意味」という記事を見た。


そしてキャンディの持つ意味を見て、やっぱり友人は私の事を大切に思ってくれてる優しい子だと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る