みんなのリズム地獄リミックス

ちびまるフォイ

カクテルパーティ効果

ピピピッ。


ピピピッ。


ピピピッ。


急患を知らせるアラーム音が聞こえる。

しかし体がまったく動かない。


「な、なんだ……金縛り……!?」


ピピピッ。


アラームはなり続ける。

鳴っている間はわずかに体を動かせた。


なり続けるアラームが止まる頃にはついにメカニズムを解明した。

なぜなら私は医療大学を卒業している高学歴なのだから。


「リズムに合わせないと体が動かないだと……!?」


アラームが止まってからも、今度は外からビートが聞こえてくる。

ドン・ドン・ドン。


音に合わせて一歩、一歩と体を動かしていく。

まるでだるまさんが転んだでもやっているようだ。


「わ、私を待っている、患者が、いるのに!」


声もリズムに合わせなければうまくしゃべれない。

さっきの急患の状態も気になる。まずは病院に向かわなくては。


ドン・ドン・ドン。


「タクシー、を、呼ぼう」


ドン・ドン・ドン。


音に合わせて番号を押していく。


ドン・ドン・ドドドン・ドン・ドドドン。


「んあ! ミスった!」


急に変調したリズムに合わせられなかった。

番号は水を鼻から飲んで体を浄化するという宗教へつながった。


ドン・ドン・ドン。


「俺は、リズム感、ないんだよ!」


学校で行われた体育にて「ダンス」の課題がある日は休んでいた。

絶望的なリズム感を先生どころかクラスメート全員に晒せるほど青春を捨てきれない。


そうして自分の弱点を克服せずに逃避した結果、

苦手なものは苦手なまま今こうして障害として立ちふさがっている。


ドン・ドン・ドン。


「いったい、どうすれば、いいんだ!」


ドン・ドン・ドン。


「このままじゃ、救える命も、救えない!」


リズムに合わせて克服の方法を調べる。

そこにあったのはリズム感がない原因の多くは"周りの音が聞こえていない"とのこと。


このままリズムに乗れなければ手術でもいちいち手が止まる。

手術では1秒でも気を緩めることなどできない。

出血しているのに、リズムに乗れないから止血できないなんて大惨事。


ドン・ドン・ドドン・ドン。

「周りの、音が、聞こえれば、いいんだろ!」


冷蔵庫のありあわせの材料で耳に取り付ける集音装置を作り上げた。

これができるのも高学歴の為せる技。


ドン・ドン・ドン・ドドドン。


「すごい、前より、はっきり、音が拾える!」


ドン・ドン・ドン。


「これなら、もう、外さない!」


周囲の音を広く耳に届けて、体への反応を促してくれる。

ほとんど無意識にリズムに合わせられる。


リズムに合わせてタクシーを呼んだ。

以前はあんなにもたついていたのに、集音装置つけるとスムーズ。


リズムに合わせてタクシーが来ると、カーラジオの音に合わせて車が発進。


次の曲がはじまる前にタクシーは病院へ到着した。


ドドン・ドドドン・ドドン。

「急患は!? どの手術室、行けばいい!?」


ドン・ドドドン

「先生、こちらです!」


リズムに合わせて歩を進める。

集音装置をつけているからリズムも外さない。


ドドドン・ドドン・ドドドン・ド。

「それでは、手術を、はじめる、よ!」


耳と手元に神経を集中させる。


ドド・ピ・ドドピドン・ドピドン。


「ん、んん!?」


ピドドン・ピドドドン。ピッドドピドン。


「ちょっ……リズムに……のれない!」


急に入ってきたノイズで合わせるビートがわからない。

集音装置が音を拾ってしまうので、ますます乱される。


(くそ! これじゃ手術ができない!!)


急に差し込まれた雑音の元を断つために目をつむる。

耳にすべての意識を集中する。


ドンの中に挟まれるピを聞きわける。



ドン・ドン・ドド"ピ"ン。



「そこだーー!」


目をつむりながらノイズ発信源へとチョップを入れた。

バン、と壊れた音が聞こえてノイズは止んだ。


改めて患者に向き直る。


ドドン・ドンドド・ドドン・ドドドン!

「ノイズも、消えたようだ、手術を、はじめる!」



「先生、手術は必要ありません」


「はぁ? それはどうして?」


手術助手はリズムに合わせてそっと指差した。



「すでに患者さん、死んでいます」



指の先にはチョップで壊れた生命維持機器が、ピーと鳴りながらまっすぐの心電図をうつしていた。。

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