ワンドロ 薬
へりぶち
薬
呆れた顔を向けると、そこには全裸の主治医がいた。
あまりにも謎な状況なので最初から話させてもらおう。
木枯らしが吹く頃に咳が始まり、まぁただの風邪だろうなと市販の薬を飲み誤魔化しつつ仕事をしていたが季節は秋の終わりから年明けを過ぎ、成人の日を迎える頃になっても治らなかったので、重い腰を上げ病院に行った。
諸々の手続きを終え待合室で適当な雑誌をパラパラと斜め読みするのにも飽きた頃、ようやく名前を呼ばれたので指定された診察室へと向かった。
そうして診察してもらうと、
「まぁ風邪でしょうが、少し長さが気になるので検査をしましょう。」
とのお言葉をいただいてしまったので、
面倒くさいな、何故早く病院に来なかった等と過去の自分に逆恨みしながら何個かの検査をした。
検査結果が出るまで時間が開くとのことなので、病院内の食堂で昼食としてカレーを食べた。
咳が出るのにカレーなんか食べてよかったんだろうか、まぁ病院に来たし別に大丈夫だろう。とよくわからない納得をして少し取り過ぎた福神漬けの味を水で流した。
昼食を取り終え、午後の診察の開始時刻までまた待合室で興味のない雑誌の巻末にある今月の占いを斜め読みしていると、ザワザワと医師と看護士が騒ぎ出していた。
それを他人事のようにボーッと眺めていたらまだ開始時刻でもないのに診察室に呼ばれ、私はひっそりと難病認定をされた。
人に感染するようなものでよかったなぁとのほほんとし、時は2週間ほど過ぎた頃。
私はいきなりベッドから起き上がることができなくなっていた。
暇だし、体も思うように動かせないのでもう何度も挑戦しているあの時待合室で読んでいた雑誌の占いの内容でも思い出そうと天井を見つめていると、主治医が回診に来た。
主治医は低く唸った後厳しいですねとだけ言った。
厳しいも何も難病なのだから厳しいのは当たり前だろう、と呆れた顔を向けるとそこには全裸の主治医がいたところで話は冒頭に戻る。
変態だー!と叫ぶ体力もなく目を見開くほどの筋力もなくなっていたので、藁にもすがる思いで主治医の後ろの看護師さんに視線で助けを求める。が、
ある看護師さんは主治医の脱いだ服を回収。
ある看護師さんはガラガラと謎の器具が乗ったステンレスの医療用ワゴンを押してきた。
エリ・エリ・レマ・サバクタニ……そう心の中で強く叫ばずにはいられなかった。
おお、神よ。
今まで一度も信じたことはないが、八つ当たりをする為に今だけ信仰させておくれ。
頭の中のイマジナリーゴッドに張り手を食らわせていると全裸の主治医に看護師がビニール素材の全身タイツのようなものを着せていた。
ああ、とんでもない病院に来てしまったようだという気持ちをひしひしと感じる。
本当に感じる。
どうして私はこんな病院に来てしまったんだ…
もう弱りきっていて涙も出ない身をふるふるとかすかに震えさせていると看護師さんが近寄ってきた。
要約すると、今からこの難病の専門である私の主治医が秘密の手段を用い極小化し、私の体へと入り核となる病原体に直接メスを入れて治すと言う。
まぁお医者さんが薬として作用すると思ってくれれば。との事で…
さすがにトンデモすぎるだろ!!!と叫びたいが、もう内心ですら叫ぶ事に疲れた。
なぜならこの後主治医に、
自分は忍者の末裔で、秘術により体を小さくしたり影分身をすることができる旨。
この方法でこの難病を何人も救ってきたので安心して欲しいということ。
この手術後秘術を守るため君の記憶は一部取り除かせてもらうが副作用はないので大丈夫。
と、もう何をどうとっていいか分からない情報量の台詞を矢継ぎ早に話される事になるからである。
ああ、早くこのとんでもない手術が終りますように。
早く記憶が失われますように。
そんな気持ちと、もう1秒だってこの現場を見たくないという気持ちで私は目を閉じる。
ワンドロ 薬 へりぶち @HeriBuchi1
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