アオス・スピレ自治区がどのうように滅びたかについての報告書
白金桜花
本文
これは■■■■年の十二月に発生したアオス・スピレ自治区について起きた大量自殺事件についての記録である。
まず、アオス・スピレ自治区についての説明をしよう、この自治区はエリオン公国の庇護下の自治区として容認された都市国家である。
都市国家の形状としては典型的な地下シェルター都市……《災厄戦争》以前のものである。
住民満足度は100%を維持、本国からの移民も多数おり、犯罪率も極端に低い《調和都市》の異名を持っていた。
そんな都市が■■■■年の十二月二十四日から通信の途絶、そして公国元老院の名によって二十五日から調査チームが編成され即日調査開始、二十八日の自治区の全員の自殺を確認した。
都市の状態としては中央行政局が爆弾テロ
死体の自殺手段は多岐にわたり、首吊りから刺殺、拳銃自殺、恋人同士の心中など多岐に至っている。
この南方の熱帯気候であり腐敗が懸念されたため、まず私達は調査用のAI制御による無人ドローン群に防腐用マテリアルミストを装備し、片っ端から都市全域の死体に散布。
調査AIは自己拡張を求めたのでその案を承認、臨時調査防腐ドローン工場を都市の近くに建造し対応にあたる。
本格的な調査開始は二十六日、都市全域のスキャン終了は二十八日と短期間での状況把握を完了した。
生存者は零名、死者は都市の登録住人の七十二万六千五百八十二人、当然乳幼児も含まれており、それらは親がその首を捻り殺害してるパターンが多く視られた。
あまりのおぞましい事態に錯乱を起こすメンバーも発生しながらここから原因の調査となる。
死体の解剖調査、サイバネ化されてる場合は死ぬ直前の脳状態のシミュレートのサンプル、行政局都市内のニュースにより一つの結論は導き出された。
このアオス・スピレ自治区は都市内の住人全員にある《アヌジーク》と呼ばれる薬物を服用義務化させていた。
《アヌジーク》は統合亜細亜帝國が製造した医療用マテリアルミストの改造版であり、都市行政局地下の爆破された製薬工場によって作られていた。
この薬品の効果は服用中の身体の再生能力の増加、各種のウィルスへの免疫の構築、そして服用者同士の思考感情の緩やかなリンクによる連帯感の形成であると言われる。
『《アヌジーク》はこのアオス・スピレの『絆』です、みなさん『絆』を服用し、調和と平和と繁栄を謳歌しましょう』
行政局のキャッチコピーがこれである。
この薬は一年前から義務化され、最終的には他の各地の自治区やエリオン公国の本土まで流通させる予定だったのだという。
そしてこの《アヌジーク》の残った薬……行政局の地下、工場跡で奇跡的に回収出来たそれを調査することで、副作用を私達は確認する。
副作用は服用者とのリンクが切れる事などからのホルモンバランスの暴走による自殺衝動の増加、服用をやめた存在にあらゆる手段で薬を飲ませようとする暴走行為だ。
実際自殺者の多くは爆破された行政局に群がりそしてがれきの下の薬物を求めるも得られず自殺をしていた。
そこから更に私達は調査を継続、行政局の爆破事件は人為的なものと調査により結論を得る。
爆破の実行犯は自爆テロの形で小型対消滅兵器を都市内に持ち込み工場内で行ったと推定、これにより行政局と製薬工場は崩壊し、都市機能は破綻した。
そして《アヌジーク》の形成もままならず、薬物を求めての混乱の末に薬物の効果が切れた住人たちは片っ端から自殺をした。
爆破犯の容疑者は行政局の住民情報を死体と照合し絞り込みを行い、そして一人の容疑者を割り出す。
名前はサイ・バルロス、オアノス自治区出身の24歳、人種は黒人。
彼は一年前のオアノス動乱後に都市に移住したものの、本人の都市内ネットワーク履歴から《アヌジーク》を使用したものの効果がうまく発揮できず、不快感や嘔吐感等を訴えていた。
しかしそれでも服用を止めることを許されず『絆を手放さないで』と住人達に押さえつけられ無理やり《アヌジーク》を飲まされる事態を何度も行われてた。
事件の数日前に至っては療養センターと言う名の収容所に隔離されてる状態であったとされる。
彼はそんな中から脱出……監視映像によると、療養センターに忍び込んだ少女が助け出した模様。
少女については監視映像全てがモザイク化されており特定は不可能、声もまたノイズがかかっており、少女であると推測できるのみに留まる。
その後すぐに爆発事件が発生、そしてこの都市は破綻し、住人の全員死に至った。
調査の結果、この都市には問題を抱えていたのは確かだが、テロの実行犯対消滅爆弾の出所は恐らく少女のものであると推測。
この少女が主犯であると判断し、調査の次段階への継続支援を求める。
記録作成者:シャイナ・カデトラル
アオス・スピレ自治区がどのうように滅びたかについての報告書 白金桜花 @oukaocelot
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