クリスマス限定の美味しいラーメンが食べたいがゆえに、異世界ファンタジーのような食材を調達して、貴女(あなた)の元へとお届けしちゃいます

ぴこたんすたー

第1話 ネギから全ては始まった

 今年高校2年になる僕の名は上智じょうちガイ。

 アメリコ人の父と日本人の母から生まれたぞくにいうハーフというやつだ。

 

 しかし、外国人の父の血筋を引いてるからと言っても特に目立ったイケメンではない。

 どうやら僕は素朴な顔立ちで大和撫子の母に似たようだ。


 そんなどこにでもいそうな、ごく普通の顔つきに背丈も160と小さめで、しかも貧弱な体形。


 これなら周りの人に紛れこんでもアイスクリームのように見事に溶け込み、誰も気づかれないだろう。


 また、よく周りで噂されるボッチでもあった。


「おい、上智、そんなところでボーと突っ立って何をしているんだい?」


 まあ、こんな話よりこちらが優先だったか……。


「はい、満里奈まりな店長、何でしょう?」

「アンタ、私の話、ちゃんと聞いていたか? 今、何て言ったか言ってみな?」


 彼女は美人女性でなおかつ巨乳で、色気ムンムンでパッツンなOLスーツを着た30代半ばの板竹代満里奈いただけよまりな店長だ。


 店長がネクタイを緩めて胸元のボタンを外し、円型のパイプ椅子に足を組んで座り、煙草に火をつけて一服する。


「店長、ここは禁煙です。それにその体勢だとブラとパンツが見えそうです」

「いいじゃないか、ここの厨房は私とガイの二人しかいないし」

「僕は対象外ですか?」

「まあ、ささかな犠牲者君1号だな」


「はあ、理解してわざとやっているんですか。バイトがすぐ辞めるのも分かる気がします……」

「みんな、私のこの美貌びぼうに引っかかるからね。そしてこれを見て衝撃を受けると♪」


 店長がこれ見よがしに大きなダイヤがきらめく結婚指輪を見せつける。


 一体この人の旦那さんは、どうやってこんな貪欲な魔女のハートを射止めたのだろう。

 この10カラットのダイヤからして、やはりお金で釣ったのだろうか。


 僕の頭の中で、海老で金のシーラカンスを釣るような情景が思い浮かぶが、将来、年金暮らしでお金を切り詰めていくと、あまりの不甲斐なさに別れたりとかしないだろうか。


 この真冬の今、イン○ルエンザもだけど、熟年離婚も流行っているからな。


 僕は少なからず店長に淡い恋心を抱いていただけに、それが気がかりでならなかった……。


****


 ──季節は12月。

 学生にとって喜びの冬休みが近付く矢先。

 聖なる日にちのクリスマスがいよいよ数日後に近付いていた。


 特に今年は寒波が厳しく、ホワイトクリスマスになるかもとテレビの天気予報でもささやかれている。


 まあ、年齢=彼女なしの僕には関係ないイベントだ。

 年に1回の美味しいケーキに顔を埋めて、腹一杯食べれたらそれでよし。


「──それでさ、私に1つ案件があるんだけど、クリスマス限定ラーメンを作ろうかと思うんだけど?」


 ちなみに店長は、ここで個人のラーメン屋を経営していて、コッテリ濃厚の鶏ガラのラーメンをメインに作っている。


 店は、まあまあ繁盛していて毎月の売り上げは中の上くらい。


 日頃、外食をしない人でも、店長の顔見たさに寄ってくれるお客さんもいるほどだ。


 そう、かくなる僕も彼女の美貌にコロリと騙されて、雇用契約を結び、放課後や休日にバイトとして働くことになったのはいいが……、


「──だからアンタさあ、美味しくなるような材料、これから探して来てよ」

「……はあ、夏のかき氷ラーメンに続いて、この季節もですか?」


 このように彼女は人使いが荒く、何かがあるたびに僕をパシリにするのだ。


「はい、材料はここにメモしておいたからさ」

「あの……店長は何で行かないのですか?」


 悩ましげの格好から立ち上がった店長から四つ折りのメモ用紙を受け取り、おのずと聞いてみる。


「何言ってるの。私は雪女の末裔まつえいじゃないのよ。こんなに寒いのに私をこごえさせる気?」

「やっぱりそうですよね……」


 駄目だ、自己中でワガママなこの人には何を言っても通用しない……。


 僕は何も言いわけもせずに無言の面持ちで厚手の青いダウンジャケットを羽織り、北風が冷たい外へと飛び出した。


****


「さてと気になる材料はと……まずはネギか」


 まずは、ファイルNO.1『ひっこネギ』。

 近くの畑で採れる最近栽培された新種のネギ。


 独特の癖がなく、生で食しても辛味がなくむしろ甘さが引き立ち、みずみずしい食感。


 まさにこの世界ではなくてはならないラーメンにも重宝される薬味の1つだ。


 幸い、ここから3分も歩けばその畑に着いてしまう。


 ──だが、このネギには注意事項がある。


 この地中に深く根を張り、強引に引き抜くさい、人の悲鳴のような音を出し、場合によってはその時に神経を狂わすような状態にさせるのような特徴をもっている。


 だから運が悪ければ、その言葉に発狂して命を落とす恐れもある恐ろしいネギでもあった。


 元々、この地方は植物が育ちにくい粘土質の土地からに、高値で売れるネギだけに農家の人が工夫して、荒れた土でも育ちやすいマンドレイクに白ネギの遺伝子を交配し、品種改良をしたらしい。


 でも、詳しいことはまだ学生の僕にはよく分からない。


「さて、これをどうやって収穫するかだよな……」

 

 いつもは物産館で販売された商品を購入すれば何も問題はないのだが、店長のメモには味を優先させるために現地調達と書かれており、骨が折れる……。


「何でい、それなら問題いらねえだべさ」


 その畑の隣にそびえ立った1つのほったて藁葺わらぶき小屋。


 そこの庭にあるわらを運び、何頭かの馬にその餌を食べさせていた農家のお爺ちゃんに思いきって相談すると意外なアイテムを貸してくれた。


「ささ、それならこの耳栓すれば問題ねえだべ」


 出だしから生き残れるかどうかの試練のような難しい問題は、いともあっさりと解決した。


「心配ならばワシが抜こうかい?」

「いえ、どこで鬼畜きちく店長が監視してるか分からないですから」


 両耳に耳栓を付け、あっさりと引っこ抜いたネギに付いた泥を払い、それを丸めたアイドルポスターのように黒のリュックに差しこむ。


「どうもありがとうございました」

「いんや、ええってことよ。また欲しくなったらいつでもんしゃい」

「はい」


 そしてお爺ちゃんにお金を払い、丁寧に頭を下げて挨拶を告げ、その場を後にした。


「さて、次は八方味噌か……っていつもの鶏ガラベースのラーメンのダシじゃないのか?」


 続いての食材のファイルNO.2は『八方味噌』。


 僕は次の食材を目指して最寄りのスーパーへと歩き出すのだった。




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