第22話 その“口”は災いの元

およそ、1ヶ月もの長期に亘って展開された「夏休み」の期間中、オレ達は「花火大会」や「夏祭り」、「キャンプ」以外などで“アオハル”を謳歌したものだったが、やはりこの期間中ゲーム内で開催される「夏休みキャンペーン」も洩れなくやり込んだものだった。

なにしろ期間中は総てのイベントにおいて、獲得する経験値やドロップするアイテムのレアリティやその数は通常の2.5倍と言う大盤振る舞いだ。 こういう機会を逃して泣き寝入りなんざ真っ平ゴメンだもんな。

「し~っかし、旨い話しもあったもんだよなあ~。 これで当分一党の活動資金には困らなくていいだろう。」


準備は万端仕上げを見て御覧ごろうじろ―――の、はずだったんだが……


「え゛っ、あんなに溜め込んどいた活動資金が?一夜にして無くなっている―――って、どういうミラクル??」


早速、オレはこれから必要となる物資(各種ポーション類やらアイテム)を補充する為、一党内で保管している金庫を開けてみたら、あれだけあったはず(5000万前後)の活動資金がほぼ底をついていたのだ??(現在高1万ちょい)


おかしい……こいつは本格的におかしい。 現在でのオレ達一党の活動拠点としているのは「エルフの国」だ。 まあここ最近までは割と騒動の中心にあった場所ではあったのだが……今ではその騒動もほとぼりが冷め、一時期の“熱”はなくなったと見込んでそこに活動拠点を据えたのだったが……ううむう、見込みが甘かったのだろうか。

「ちゃわあーつす。 あれ、兄ちゃんもう来てたんですね。 それよりどうしたんです、いつになく真剣…というか渋い顔して。」

「ああノエルか……いやな、オレ達が日頃からコツコツと貯めてきた活動資金あっただろ。」

「ええまあ。 なにしろ「夏休みキャンペーン」のお蔭でウハウハですよ。 それが―――なにか?」

「これ見てみろ。」

「……は?たった―――たったこれだけぇ? 昨日まではあんなにあったはずなのに……」

「ああ、それが今ではこれだけしかねぇ。 この拠点に入れるヤツはオレ達団員と、あとは数えるしかいねぇ……としたらだよ、一体誰の仕業―――」

オレ達一党の活動資金が5000万前後あったと言うのは、この前日一党の団員全員が知っている事だった。 だからノエルがオレより後に来て現状の確認をした時、驚いたのは至極まっとうな事なのだ。 それに先程も言ったように、オレ達の拠点内に入れるのは、『悪党』の団員全員と、団長であるオレが入る事を許可した団員以外の者なのである。(例を挙げるとミリアムちゃまや箱入りお嬢(エメス)、『サンダルフォン』や『ヤハウェ』がそうである。) しかしこの“部外者”に容疑をかけるのも何と言うかーーーオレ達の目を盗んで金品の強奪をするような面子じゃないんだよなあ。

だとしたら一体―――…


そうした疑問はオレやノエル―――だけに留まらず、やがてインしてきた他の団員達にまで波及した。

「うおぉぉおのれえぇい!このわたくしが汗水流して稼いできた金銭を゛お゛お゛ぉ゛……見つけたらロハただじゃ済ましませんわ゛よっ!!」

「クローディア、その様な具体性のない懲罰は意味を成し得ません……そこで!私が考えましたのは、そやつの生皮を剥がしてひたすら粗塩を刷り込ませてやるのですわあぁぁ…」

「普段ならば姉さまの行き過ぎたやり様を諌めるのがそれがしの立場……なるが、他人様ひとさまの金に手を出しおるとは不届き千万! 即刻素ッ首刎ねて、両の目玉をくりぬき鼻を削ぎ落してくれよう!!」

その憤慨たるやオレやノエルの比ではなかった。 まあ確かに、盗ったヤツからしてみれば『所詮は仮想の……それもゲーム内でしか通用しない貨幣だから』と言う言い分もあるのだろう。 だが、突き詰めた事を言ってやれば、このゲームの内だけでしか通用しなくても“お金”はお金なのだ。 窃盗が判ってしまえば当然罪に服する必要性がある。

ただこの時オレは、ひじょぉーに重要な事に目が向いていなかったみたいだ。 まあ「お察し」の事だとはお思いだろうが、その事は後に表面化する事になるのだが……


        * * * * * * * * * * *


そうこうしている内に、オレ達の一党内で起きた出来事は、関係各所に漏れ伝わったようで―――…

「聞いたわよーなんでも一党内で保管していたお金、盗られたんだって~?」

「ふむ、一党の拠点に出入り出来る者は、概ね当団員か一党の団長が見極めた者でしか出入り出来ぬはず……だったように思うのだが?」

「これは少しシステム内を調査してみない事には何とも言えないかな……それで尚不具合が生じるようなら、“一”から見直さないといけないかな。」

「(はあ~~)それにしても、こういう肝心な時にシェラフィーヤちゃんはどこ行ったのかしらねえ?」


―――ん? 何だか今、壮絶なまでの不安感にフラグが立ってしまったみたいだぞ?


そう言えば―――そうだった……なぜオレは今まで、「ヤラカシ」体質のポンコツ魔王を何気にスルーしまっていた……出来ていたのだ??


そうだ……あいつが―――あいつが――――あ・い・つ・がっっ!!


「ただまあーーあれ?皆してどうしたの?」

「ヲイ、こら、ポンコツ―――正直に言え。 何をして帰って来た?」

「ええっ?どうしたと言うのよぉ……一体。 なんだか今日のアベル怖いわよ?」

「ちょっと今な、この拠点内で大事件が起こっちまったんだ……」

「ここで大事件??! そ、それはちょっとただ事じゃないわね……それで?何が起こったと言うの。」

「今まで私達がせっせせっせと稼ぎ、貯めてきた大金が一夜にして無くなってしまったのですよ。」

「えっ―――大金?? それ……って、おいくら万円?」

「それはあなたも知っているはずですよ、シェラフィーヤ。 約5000万です。」


その、あまりにもな金額に、さすがのこいつも驚いてしまって次の言葉が出てこないようだ。

……じゃあ違うな?容疑者だったら容疑を晴らす為にやたらと雄弁になってくるのがこの世の常というものだ。 それがこの異変を知ったこいつら(団員)と同じ様に、目が点になりどことなくアホ面を晒している―――…

「あ……あのう~~~ちょ、ちょっと聞いていいかしらぁ?アベルさん。」

「なんだ、どうした。」

「あなた昨日言ったわよね?

『この金はいずれ、このオレ達がこの世界をモノにする為に必ずや必要となる「資金」だ。 だから昨日明日で無駄遣いするのも勿体ない話し。 いいかシェラフィーヤ、この世界にも「銀行」ってものがある。 そこでだ、お前は明日この5000万を担保に新規に口座とやらを開設して来るのだはあ~!』

―――って。」


……って、あれ。 そんな事言ったっけ? 言ったあーーーーーーーーーーーーーーーーーーー覚えがあるような?ないような……


「ねえ、クソDT、ちょっと話しがあるのでこっちへ来てもらおうか。」

「旦那様ったら……この愛しい妻であるわたくしの目を欺くようにして―――何を為されようとしていたのです?」(飽くまでもニコヤカぁ~)

「団長様―――おいたもほどほどに…」

「―――クズめ…」

「ねえ?アベルぅ? 私怒らないから正直に述べて頂戴な? あなた………私を疑ったわね。」


うぐぐっ……まぁるで修羅が夜叉の様なお顔をしたのが5人……に、その他容疑を掛けられた部外者合わせると4人―――こ、こいつはオレの人生の中でも最大級のピンチだぜ。

しかし……この前日に、よりにもよってポンコツに指示を出してたのを忘れるなんて、もし過去に時間を巻き戻せる特殊戦闘技能アビリティあるんだったら、この凡ミスを帳消しに出来るんだがなあ~~。

{*それは無理と言うモノ、だって『特殊戦闘技能アビリティ』とは、文字通り、つまり戦闘時でないと発動しませんので―――悪しからず。}


ぐぬう、『天の声』から釘を差されちまったが、まあいい―――ここは己の非を認め、ちゃんと頭を下げといた方がいいかな。

「すまん!悪かった。 お前に指示を出していたのをすっかりと忘れてた。 これこの通ーり《とぉーり》頭を下げてやるから……な? これでなんとか怒りを収まらせてくれよ~シェラフィーヤ様ぁ~。」


「(うーわ、敢えて謙遜へりくだってシェラフィーヤ様におもねる気ね?)」

「(ヤレヤレ……彼にも困ったもんだよねぇ。 『イラストリアス』がどうなのかを知ってて……)」


「ふぅ~~ん…それだけ?アベル、私に容疑を掛けたんだよねえ?5000万着服したっていうーーーー」

「判ったーーー判ったよ、何でも言う事を聞いてやるから……」


今にして思えば、この言葉がいけなかった……のだと、後悔して已まない。

この時のオレは本当にどうにかしていたのだ。 自分の失態ヤラカシもそうなのではあるが、どうにかこの事態を早く収まらせようと口から出任せてしまった事。

それにこの時、オレはその言葉の重要性というものが判らなかった。 まーーーあよく言い逃れる為に使われる事なので、あまり深くは意識していなかったのだが。

そうした言葉はある意味、こうした事態で一番使ってはならない―――と言う事を、この後まざまざと思い知らされたのだ。


「(……)まあいいわ。 今回はで許してあげる。」

「ほ、ホントか!?いやあ~助かったぜ…」

「うふふっ、どういたしまして。 さあーーーて、何をしてもらいましょうかしらねえ~?」

「ん?何を言っているんだい?」

「えっ?だってアベル言ったわよねえ。 『何でも言う事を聞いてやる』って。」


えっ?? あっ??? し、しまったあ!!


と言っても、こう言うのを「あとのまつり」と言うのだろうか、けっして吐いた言葉は取り消す事など出来はしない。 しかも、状況としては最悪……そう、これがオレとシェラフィーヤと対一でやったことなら、後でどうとでも言い逃れ出来るものなのだが、今ここには9人もの証人が……証人があぁぁああ~~~っ!!

「え……ええ~~~っとぉ―――あの、あのな?」


「くうぅぅっ、お、おのれ!わたくしたちの娘と言えど、なんとうらやまけしからんことを! シェラフィーヤ、その権利母であり妻であるわたくしに譲渡しなさぁ~い!」

「シェラフィーヤ様、ここは独占禁止法にのっとり、その権利をあまねく私達団員に与えるべきであると、ここに意見具申奏上致したく思います。 ただぁーし!受け入れられないと言う事であれば……」(ギラギラ)

「姉さまは相変わらずよのう―――その様な強硬な態度を取れば、うなずけるものもうなずけられぬではありませぬか……ささ、そう言う事より、シェラフィーヤ―――その権利拙それがしに渡すのだ。 なに、悪いようには致さんて…」

「あっ、そおーいえば私もDTに“貸し”がありましたよねえ。 丁度いい機会です、ねえシェラフィーヤ、あなたの権利と併せて行使致しませんか?各々おのおの一つずつだけでは効力が弱いものですが……ここに『何でも言う事を聞く』と言う権利を有する者が2人いるのです。 ふっふっふーーーどうやら詰めを誤ったようですねえ?兄ちゃあ~ん♡♡」


「ふむう、気の毒に思う反面、この我等にも容疑を掛けてしまったのだからなあ……自業自得と言うべきか。」

「うふふふふふふふふふふふふふふふ…」


そう言えば、すっかりと忘れていましたノエルの件―――(重要な報告をすっぽかしてしまった…って言うアレね。)

てか、おいおいちょっと待ってくれ? 確かにあの件はオレも悪かったが、何も『何でも言う事を聞いてやる』なんて一言も発してやしないぞ??

だがいやしかし―――言ってはいないのだが、あの報告は今後のオレ達を左右するものだったから、あの時ノエルはもう少し強めにオレを追及してもおかしくはなかったのだ。 けれどそこであいつは深く追及してこなかった―――その事にオレは胸を撫で下ろしたものだったのだが、あのヤロウ腹の底でとんでもねえことを考えてやがったとはな!


まあ……あとそう言う事でもないのだが―――足腰立たなくなるまでヤリこめられました。(あまり深い意味はない)

{*と言う表記している時点で「意味深」ナノデスガーーー(笑)}



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