第65話 事実上の「最終話」なのに、「プロローグ」って事でいいですかぁ?

アベル達が、元の世界に戻るまでの一週間。 私は彼らと顔を見合わせていない。

それは、永遠の別れとなるかもしれないと言う惜別の念から―――と、言いたくもなるのだが、実はそうではなく……

「えっ―――私に……「話し」?」


        * * * * * * * * * * *

それは、私への裁定が下り、アベル達が本来の世界に戻る―――と言う、あの話しの直後の出来事だった。

私と共に来ていたアベルを帰させた後、『秩序』側の代表である『ヤハウェ』から、ある話しを貰ったのだ。


「ええ~、あなたも不思議に思った事でしょう。 単なる罪人でしかないあなたの裁定を下すが。」

「は、はい。 そんな事は私に罪を与えてきた『メタトロン』か『サンダルフォン』でもできることですから……ね。」


「それじゃ、どうして私がこんな事をやっていると思う?」

「えーーーーっと……それは~~~」


「実はね、の方も興味を示してきたのよ、あ・な・た・に。」(にこにこにゅふふふ

「(あ゛ーーー)そう……ですか。 つて、“彼女”ぉ?? あのっ……まさか??」


「ええ、あなたも会うのは初めてになるのかしらね、『混沌』の代表者『オプスキュリテ』に。」


そう―――そこは私も疑問としている処だった。 魔王とは言え一介の罪人たる私を直接裁く為、勢力の代表が出てくる話なんて前例がなかったからだ。


そしたら~~~まあ、なんてことでしょう!! 『秩序』側だけでなく『混沌』側からも興味を持たれてしまったなんてッッ!!

あああ~~~……悪い事なんてできやしないのねーーーーと、後悔したところでどうにもならなかった処に。


「おはー、みなのもの元気にやっとるかあーーー」


えっ、なんですか?この……まるで私以上に「自堕落」を絵に描いたような―――


「あら、寝起きだったみたいね?」

「うむーーー、デス・マーチ進行後の惰眠を貪っていたかったのだが、マクスウェルのヤツからこの予定の事を聞かされてな。」


「全く困った人ねえ。 この日の予定は1ヶ月前に入れておいたでしょうに。」

「わしに、予定なんぞあるようであったもんじゃないぞ。 それより面倒臭いことは早く済まそう、わしはねみたい…」


うわあーーーーなんかこの私以上にやりたい事をやっているみたいね。

でも……待ってよ? ここには2人の代表が集まって、いるうぅぅーーーー!!

これだわっ! そうよ、これはいい機会なのよ!! たった今思いついちゃったことなんだけどぉ~~~ここは一つぶっつけ本番でやっつけてみるしかないわねッ!


しかし驚きだったのは、上の方では1ヶ月も前からこんな計画を着々と進めていたなんて……けど、たった今思いついた私の計略を、見破れるものかしらあ?

「あの……1ヶ月も前から計画されていたって言うのは―――」

「まあ、彼らの処遇はその時点で考えられていたのよ。 だけど、それでも尚私達が出しゃばるまでもない……」

「要はあれだ、お前サンだよお前サン。 お前サンがまた聞き分けのない事を言いだしたりするから、わしら2人が動かざるを得なくなったのだ。」


「私の……所為? なんで―――どうして―――…」

「あなた、今の自分の状態がどうなっているのか、判らないって訳じゃないんでしょう?」

「お前サン達エルフの、そもそもの属性アライメントは“善”―――だが今は……」


そう―――今の私は“悪”になっている。 それに考え方そのものが、目の前にいる2人の内の1人、『混沌』の『オプスキュリテ』寄りになってしまっている。


つまりは―――……


「まあ、判っている事でしょうけれど……『交換トレード』よ。 『秩序』から一人、「エルフの魔王」を勤め上げた『イラストリアス』を、『混沌』に『交換トレード』することをここに提言いたします。」


嫌われ者の私は、ついに『秩序』からも切られてしまい、『混沌』にその身が預けられる事となってしまうの―――でした……が??


「ふむーーー、こちらとて同志が増えるのはいいことなのだが、このアホ女のこれまでの所業を見させてもらうと、なんかどうも……それに、ミリアムのヤツも言うておったでな。 『シェラフィーヤをこっちに入れるな』って。」


あ゛ーーーー忘れちゃっていたわ、その存在。 それにそう言う事なのね、ここ最近アベル達に付き纏っていたのは、自分に合う「椅子」を探すだけじゃなく、私の動向にしっかりチェック入れちゃってていたのね。

なら私の本音を聞かせてあげるわ、私だってそんなの願い下げよ!!


「そんな好き勝手な事言ってちゃ、纏まるモノも纏まらなくなるでしょう?」

「とにかく、こちらはこちらでよく熟考をした上で出した答えなのだ。 その話しは受け入れられん。」


「だけどよく考えて頂戴、ネビュラス。 シェラフィーヤは、『歪曲ディストーション』を彼に譲渡したけれど、『全種属対応魅了スピーシーズ・チャーム』はいまだ健在……そんな危険極まりない災禍ディザスター級の権能を持っている存在を、“野”に放っていいと思っているの?」

「(ん゛ーーーむ゛ーーーー)し、知らんッ! そもそもはお前サンの勢力にいたんだろうが、こっちに面倒を押し付けるなッッ!!」


まあーーー私がいうべきなんじゃないとは思うけど……なによ、この「たらいまわし」感は!!

しかも2人とも好きな事を言いたい放題言ってくれちゃってぇええ!

「あ゛、の゛! お言葉ですけど、そんな事は私だって願い下げです!」


そう言い放った途端、現場は“ピリッ”と凍り付いた……


       * * * * * * * * * * *

「あらあら?なにを勘違いしちゃっているのかしら?」

「そうだぞ、今のお前サンには発言権などない。」

「判っています。 だけどなんですか?この私を巡っての「なすり付けあい」―――そんなに私って厄介者なんですか?鼻つまみ者なんですか??」


「そうだぞ?自覚がなかったのか、お前サン。」


ぐっはあ~~~ッ!! わ、判っていたわ―――判っていたけど、こうハッキリ言われちゃうとクるものがあるわ!!


「ダメよ、ネビュラス。 この「空気読まないおバカさん」でも女の子なのよ? そんな事を言うにしてもオブラートに包んであげないと。」


辛辣!辛辣だわ!! 『ヤハウェ』って、意外と根に持つタイプのようね! 今も『オプスキュリテ』に「オブラートに包むように」とアドバイスしてる本人が、私がいる事も忘れて「空気を読まないおバカさん」だなんてっッ!!

……ええ~~そうよ、私は私の気の向くままにしてきただけ、そこを否定したりしないわ。 だけどね、私だって反省しているのよ?そこを「空気を読まないおバカさん」だなんて……あああ~~~そうですか、そうですよ、私ったら「空気を読まないおバカさん」デ・ス・ヨ!!

「あの……私、いい案が浮かびました。」

「あら、そう? この行き詰った状況を打開させるのだったら、もうなんでもいいわ。」


ちょっとこれは賭けになるけれど、ええいここは当たって砕けろよ!

「私は今回、私が引き起こした騒動の所為で「エルフの魔王」ではなくなりました―――が……私はこのまま「エルフの魔王」を僭称し続けたいと思います!」

「(……)ふう~ん……そう、よく判ったわ。 もう思い残すことはないみたいね。」(にこぉ~~イッラぁ~~


うわはあ~~~なんだか、見えてはいけないモノが『ヤハウェ』から立ち昇っちゃっているんデスケド……けど、私の弁護のために言うけれど、この人達も十分悪いと思うのよ!

私のいる目の前で「たらいまわし」にはするわ、「空気を読まないおバカさん」だなんて言うわ、おまけに「厄介者」だの「鼻つまみ者」だなんて言うわ!!

だから言ってあげたの……もう既にウインスレットが私の代わりに「エルフの魔王」に就いたけれど、「エルフの魔王」を僭称したらどうなるのかしら?


「お前サンは自分の感情を抑制するの、また下手だのう~~。 それによ、エルフの子よ―――お前サンもまた、自分が何を口にしたのか判っておるのか。」

「ええ……十分に。」


「やれやれ、判っててやったのかい。 全くどうなっとるのかのう。

まあよい、それより『ヤハウェ』よ、やはりわしらではこの者を管理は出来ん。 ゆえに、やはり『お断り』をするしかない。」

「全く……どうしてこうなっちゃったのかしら。 こんなの初めてだわ。」


そう、私は『天は二つとして要らない』この大原則にも背く行為を口にしてしまったのだ。 それだから『ヤハウェ』の身体からは『秩序』としては相応しくもない“殺気”を立ち昇らせてしまうし、自由と放埓を愛する『混沌』の『オプスキュリテ』も半ば呆れ顔となってしまったのである。


        * * * * * * * * * * *

だけど、これで今回の問題が解決したわけではない。 私が口に出した「問題」は立ち待ちに波紋を呼び……


「判っているの―――『イラストリアス』……あなたは、とんでもないことを口にしてしまったのよ。」

「いかにも、天が二つとあっては、またしても混乱を呼び寄せる。 お前サン判っておるのか、お前サンはあの一言で、『秩序』『混沌』『中立』のどこにも属せなくなったのだぞ。」


―――やはり!私が思っていた通りだったわ……

「へえ……だったら私はどこへ行けば?」

「『どこへ行けば?』 そんなの、どこへとでも行けばいいでしょ! もう私の手には負えないわ。 それじゃあね、さようなら―――」

「へそを曲げおったか……しかし本当にどうするつもりだ。 もうこの世界には、お前サンの行く宛てなどないのだぞ。」


「あの……ここで一つ提案、いいですか。」

「提案?とな。」


「はい……この世界での私の居場所は無くなってしまいました。 ならば―――「この世界からの追放」……これが私が負うべき罪過だと思うのですが。」

「(………………。)また突飛な考えをしおって。 しかしな、そうそうお前サンを受け入れてくれる世界など―――」

「いいんじゃない、もう、別に。 こんな「厄介者」で迷惑でしかない者の事なんか私は知らないし、そんな者がどうなったっても『秩序わたしたち』には関係ない事だわ。」


「だ、そうだが……本当にそれでいいのか、お前サンは。」


かつては私が所属していた『秩序』の代表者にもそっぽを向かれてしまった、これ程までに嫌われてしまったなんて逆に好都合だわ。

それに、もう私にはこの世界に居場所なんてない……だったら―――

「はい、この私も皆から嫌われてまでこんな世界に居たくはありません。」

「判った、あとは追って沙汰を待つがよい。」



こうして私の―――この世界の「追放」は、決まった……


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


これは―――その後の出来事……だったらしい。


私が『混沌』と『秩序』の代表者2人の前で啖呵を切って、その場から帰された後の2人のやりとり……


「あれで良かったのか。」


「―――――――…うふっ、うふふふふふふふふふふ。 ええ、すべて計画通りよ。 あの子の事だから今回の事を理由に追い詰めれば、きっと、必ずに踏み切るだろうと思っていたしね。」

「お前サン、根性悪いのう~~」


「違うわよ、ネビュラス。 これもあの子を愛するがゆえに……! だって、よく言うでしょぉう~? 「可愛い子ほど旅をさせよ」だとか、「獅子は子を千尋の谷に突き落とす」―――とか。

それにあの子も判っていないわよねえ。 所詮彼らはどう長く生きられた処で100年をすぎない、だけどあの子は現時点でも1700年の時を紡いでいる。 今回の“患い”なんて一瞬の出来事よ。 あとあと思い出した処で「気の迷い」と思える位の……。」

「やれやれ、お前サンには毎度の事ながら敵わんわい。 だいたいよ、お前サンの遊興たのしみはお前サンだけで愉しめばよかろうものを、この世界全体を巻き込んでの騒動にする必要なんてあったんかい?」


「必要……だったのよ。 それは「プレイヤー」だったあの子達に対しても、そして……退屈を持て余していた私達に関しても。

あなたの方でも好いデータが収集出来たのではなくて?ネビュラス。」

「ま、贅沢は言わんでおこうよ。 それと言っては何だが、例の事に関してはそちらの『サンダルフォン』に一任まるなげすると言う事でよいかな。」


「うーーーーん、万事オッケーよ。」(にたぁ~り)



{*この直後、『サンダルフォン』を原因不明の怖気おぞけが襲ったのは、言うまでもない…}




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