第5話 なぜオレには無いものが お前にはあるんだ!

先ほどから『アベル』と『ノエル』の対決を見るにつけ―――私にとっては驚きの連続だった。

二人とも、私の領地の端にある町にいたとはいえ、冒険者の類なのだろうけど……その戦闘技能の一つをとってみても、私が抱える軍の将軍並みの技能を兼ね備えている……。

なのだとしても、彼、彼女の事は私の耳にも入ってこなかった。

軍部の人事は一体何をやっているのだろう……との疑問も浮上する中、益々対決は白熱ヒート・アップしていた―――


「ははア~ン、中々やるようになったじゃないか―――ノエルちゃあん?w」

「この……ッ! フン……そうやって煽って、私の冷静さを奪おうっていうんですか。 あなたのその戦法たたかいかた、ある程度こなしていくと陳腐の外なりませんね。」


「……フッ―――ある程度こなさないと慣れもしないのが、お前がオレに勝てない限界ってヤツだ。」

「―――戯れ言ざれごとをっ!  『忍法―――≪影遁:影分身≫』」


対決が白熱ヒート・アップしていく中でも、彼と彼女の舌戦は止まない。

それにあれはあれで、互いに牽制し合い相手を先に動かせる―――と言う、高度な戦術なのだろう……。

そうしている内にノエルと言う獣人の少女が先に動いた―――しかも、彼女自身を何人も増やして??


「えっっ……なに、あれ―――?」

「手前ぇの“分身”作って、数での優位に立とうってか? そう言う考えがそもそも甘ぇんだよ!残念だが“そこ”―――罠張っといたぜw」

「なッッ!しまっ―――!」


「はあ~いw オ・ワ・リw 残念でちたね~~w そもそもお前がオレに勝とうなんざ、56億光年早えぇんだ・よ!」


数人に増えた彼女にも驚いたが、そんな不利をものともせず、数々の手管で翻弄していくアベル……それも、あの町で私をシャドウから救った“応用”でもあった。

それに戦闘に於いては、相手の背後を取るというのは最もな常道とされ、それをアベルは難なくこなしていた……しかも私が見たように、急に背後から現れるのだ、あれでは並みの達人では堪ったものではないだろう。

あと付け加えるなら、対戦相手の動きをよく見ている―――いや、関係者レベルなら幾度も腕を試し合ったこともあるはずだ、だからこそ、その癖を読みやすいのだろう。

しかし同時に疑問が浮かび上がる……ならばどうしてアベルの動きはノエルに捉えられないのだろう―――


         * * * * * * * * * *

決着は―――着いた。

多少以前よりは腕を上げているとはいえ、まだまだノエルのヤツには負ける予感すらしない。

だからと言って……負けたヤツに情はかけられない容赦はしない―――


「また負けちまったなあ―――? ノエル。  これで通算何敗目だ?w」

「くうぅっ……兄ちゃんのバカっ! もう少し手加減してくれたっていいじゃないですかっ!!」


「ハッ!バ~カか? お前……戦場で兄妹の情でも通じるとでも思ってたのかよ。  こいつは飛んだお笑いだ!ww 仲良しこよしでこのゲームをプレイしてただなんてなあ。 だーから手前ぇは、所詮“そこ”止まりなんだよ―――」

「バカは……あなたの方じゃないですか―――なんですかその言い草、『戦場で兄妹の情でも』? 『通じるとでも思っていたのか』?? はッ!そっちの方が全くのお笑いですよ。 全く……そんなんだから、仲間達以外から『魔王』と畏れられ、『魔王プレイ』じゃないとやっていけなくなったんでしょうが!!」

「えっ……ちょっとまって? あなたたち、きょうだいなの? それにあべる―――あなたも、まおうなの?」


「バカが……余計な事を喋りやがって―――ああそうだよ、オレはそのプレイの有り様から『魔王』として畏れられ、また忌避されてきた存在だ。 だから何だってんだ―――嫌な事を思い出させやがる……。」


やはり―――そうだった……彼、アベルも魔王と呼ばれていた存在だった……。

だから私も、そこへ惹かれた―――私と同じ……魔王だから―――


「だったら―――だったらなおさら、わたしのおねがいきいてちょうだい!」

「ああ~? そう言やお前―――さっきも同じことを言おうとしてたな……。」

「アベル……この子は一体何なんですか。」


「聞いて驚けよ?ノエル。 この“ちんちくりん”なエルフ様はな、魔王シェラフィーヤ様と同じ名前をお持ちなんだとw」

「魔王……シェラフィーヤ―――確か、運営が公式で認定しているボス・キャラの一体ですね。 しかし……そんな存在が?NPCの子供の名に割り振れているとは考えにくいのですが……。」


「……言われてみればそうだな―――おい、ガキ、お前本当の名前あるんだろ! 正直に言え!」

「そのまえに!わたしのはなしをきいてよ!」

「判りました、私が聞きましょう。」


「ありがとう……それでね―――」


ようやく……ようやくここにきて話しの本題を切り出す事が出来、私は安堵の胸を撫で下ろした。

これで上手く伝わるといいのだけれど―――……


         * * * * * * * * * *

ノエルのヤツあのバカが自分への点数上げる為か、幼女エルフからの頼み事を聞いている。


全く―――冗談じゃないんだよなあ……どうせ幼女からの頼み事って、『飼っていた猫なんかが迷子になったんで探してほしい』とか、『一緒に遊んでほしい』とかが関の山だ。

大体オレには、そんな遊び事をしている余裕はないってのに……。

一刻でも早くこの不可解な状況から脱出する手立てを考えなくては……。

それにしても―――……ノエルのヤツがここにいるってことは……他のプレイヤーもいるってことか?


なんんっ―――と言う事だ!! 気が動転してて全く気付かなかった!

このオレともあろう者が、その事実に気付かないなんてっっ!!

だがしかし―――オレは常に冷静だ……そして冷酷だ。

例えノエルがオレの実の妹であろうとも! 有効に活用させてもらうぜ……


そして粗方内容を聞き終わったのか、何かを確認するように、ノエルはある特定の動作をしようとしていた。

それは、左手を上から下へ―――丁度動作的には「手を拱くこまねく」ような感じだ。


ふふん―――ぶぁ~かめい……参考までに教えてやろう―――その動作はやるだけ無駄だ・よw なぜならオレが一番最初に試し、“そうならなかった”からだ!ww

さあ~お前も絶望の淵へと立たされるが―――


「ふむ……この近くですと、「ダーク・エルフの国」の町が一番近いですかね。」

「ほんとう?ふうん……それじゃ、とりあえずそこへといってみましょう。」


「ちょおおーーーっと待て?ノエル……。 え?お前今なにしたん?」

「は?『なにしたん』って―――そんなの見れば判るじゃないですか。 メニューを見るためのコンソールを開いたんですよ。 そんな……『魔王プレイ』をたしなんでいたあなたが、よもや初心者でもあるまいに―――」


い……いや、何でお前にそれが出んの―――?

出ないの分かってたから、注意なんかしなかったのに……


しかし、この時のオレは、よほど冷静さを欠いていたのだろう。

そうした表情を一瞬にして読み取られ……


「あれれぇ~?まあ~さか、兄ちゃんのは出ないのお~? あ、出ないんだいんだあ~~w あっははは―――ザぁ~マああ~~!!www」

「手っん前ええ~~このヤロウ~~!!!」


「はッ!どーせ、出ないもんだろうと思って注意すらしなかったんでしょうよ。  日頃の行いが悪いから罰が当たったんです。」


実の妹から耳の痛くなるようなことを聞かされ、仕方なく項垂れるオレ―――

しかし、そんな打ちひしがれるオレを慰めたのは意外にも……


「あなたたち、ほんとうのきょうだいなのでしょう? だったらつまんないことで、いいあらそわないで。 それにあなたは、もうちょっとおにいさんを、うやまうべきだわ?」

「……幼いのによく出来たエルフだ、兄ちゃんも、もうちょっとああいうのを見習うべきです。」

「う……うるせえぇ~~」(しくしく)


まさか幼女エルフから慰められる日が来ようとは―――このオレ一生の不覚!

しかし……何でオレには出てこねえんだあ?コンソール……まさかノエルの言うように、随分悪辣な事をしてきたから「ペナルティ」なのか??

―――と、そう思っていたら……


「それより……ノエルさっき、てをこまねいていたけど、なにをしていたの?」

「えっ? ああ……メニューと言うのを呼び出す為の所動作ですよ。 右手か左手かのどちらかを、―――……」


…………? あっ、でた―――」


…………はああ~~? ヲイ―――ちょっと待て、百歩譲ってプレイヤーであるノエルがを呼び出すのはいいとしよう……だが、何でNPCの幼女エルフが呼び出せるんだああ~~?!


そう……オレには決して出せなかったモノが、なぜかNPCの幼女エルフの方に出てしまったのだ。


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