門出。
外は明るかった。それは、先ほどに比べればという意味で、じっさいにはそれほど明るくなかった。木陰くらいの丁度良い暗さかげんだった。
まるで船着き場のようだ。とユリは最初に口にした。
船着き場という場所がどういう場所なのか、私にはさっぱり分からなかったが、目の前に海が広がっていることは分かった。
天井はかなり高い。そして、床の終わりの部分、つまり地面と海とのさかいめのところの左右に、大きくて太い柱がのびている。
私たちはできるだけ海のそばまで寄ってみた。ひざが光に照らされている。
「すげぇな。てっきり地下施設か何かだと予想していたが、まさか海とは」ユリが呟く。
そして左側を見た。私も見る。
そこには、崖があった。低い崖。海面から数えて、人間二人ぶんくらいの高さの崖。奥には草原が続いているけれど、その奥は分からない。
まるで、もともとあった海に、上からオモチャの大地を置いたような、そんな光景だった。
「さ、行こう」ユリは浮かんでいるボートのうち、真っ白なボートを選んだ。彼女はそっと足を伸ばしてボートに体重を預ける。
しばらく私はその場でぼうぜんとしていると、ユリが手を差し伸べて言う、「早く。乗った乗った」
「うん」
私もボートに乗った。ぐらぐらと揺れて怖い。落ちて海に沈んでしまうのではないかと不安になる。
それに、海はひどくとうめいだ。近くで見ると、真下に地面があるように思える。けれど私たちはしっかいりと浮かんでいる。おかしくなってしまいそうだから、すぐに目をそらした。
ユリはボートにあったオールを手にして、それを一組分、私に渡した。
「やり方、分かる?」とユリは言う。
「忘れたわ」私はあくまで笑顔で答えたと思う。
ユリはため息をひとつついて、オールをこぎ始めた。
白いボートは、ゆっくりと出発した。
ところで、あくまで、というのはどういう意味だっただろう?
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