完璧な無音からの脱出。それと母性。

 唐突な静寂。


 さっきまでも比較的静かだった。けれど、俺っちと目の前にいる少女を別にしても、数種類の音が存在していた。


 それはたとえば機械の音。この部屋全体を包み込むように、モーターが回るような音が鳴っていた。

 あとはケーブルの音や、子供たちの寝息。


 でもそれらは急にどこかへ離散し、まったくの無音が訪れた。


 モーターの駆動音は無くなり、ケーブルが擦れる音は消え失せ、子供たちの寝息はぴたりと止まった。


 あまりに静かで、自分の耳が吹っ飛んだのかと思った。


 咳ばらいをして、この世界にまだ音が残っていることを確認する。


「出よう」と俺っちは言う。これまでの会話の中で、何かしら彼女の方から提案をしたことがないと気づいた。まったく、この少女はどこまで消極的なのだろうか。といっても、自分の名前すら忘れてしまったんだから、こいつはつまり、コンピューターでいうところの初期状態なのだ。大目に見るべきか、と俺っちは思う。


「出るって?」


「あんた、ここにずっといたい?」


 彼女は首を振る。


「じゃあ、出よう。ここから」と、俺っちがそう言ったとき、赤色のランプが消灯した。


 俺っちと名前のない少女はその部屋から出た。


 一度も後ろを振り返らなかった。


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