山小屋
津嶋朋靖
第1話
今にも雨の降りそうな空の下、少年はスマホ片手に山道を
スマホで現在位置を確認しているのだが、どうも様子がおかしい。
スマホの地図によれば、少年は道のない森の中にいることになっている。
しかし、少年の目の前には一本の山道が続いていた。
小さな山道だから、地図には載っていないのかもしれない。
そう思った少年は、地図をずらしてみた。
「おかしいな」
地図には、今歩いている山道よりも、はるかに細い山道が載っている。
この辺りは、まだ測量されていないのだろうか?
そう思った時、少年の持っているスマホから着信音が鳴り響いた。
電話の相手は、この山に一緒に登り、途中ではぐれてしまった友人の津嶋。
『今、どこにいるんだ?』
「それがさあ、さっぱり分からないんだよ。一応、山道を歩いているんだけど、地図にはそんな道載っていないし……」
『GPSが狂っているのかな? 近くに標識とかない?』
「標識?」
『山道の名前とか書いてある標識だよ。山道にはよくあるけど。標識を見つけてそこに書いてある道の名前を検索すれば、現在位置が分かるかもしれない』
「分かった。探してみる」
電話を切って、しばらく歩くうちに標識が見つかった。
しかし、そこに書いてあったのは……
【山小屋 この先百メートル】
少年はイラっと来て標識を蹴飛ばす。
「山小屋だけじゃ分かんねえよ! ん?」
少年の頬に冷たい物が触れた。
程なくして、それが雨粒だと気が付く。
「ちょ! マジ!? 今日は降らないって、天気予報で言っていたじゃん! 気象庁の嘘つき!」
気象庁を罵りながら、少年は山小屋に向かって走った。
走っている間に、雨はどんどん強くなる。
山小屋に着いた時には、少年はびっしょり濡れていた。
「ごめん下さい! 雨宿りさせて下さい!」
山小屋に入ると先客が二人いた。
一人は七十ぐらいの爺さん。一人は三十歳ぐらいの髪の長い美女。
二人は不気味な笑顔で少年を出迎える。
(な……なんだ? この人達?)
あまりの不気味な雰囲気に一瞬逃げ出したいと思ったが、外へ出れば豪雨が待っている。
「あらあら、こんなに濡れちゃって可哀そうに。お姉さんが拭いてあげるわね」
女はバスタオルを取り出して、少年の頭を拭いてくれた。
(なんだ。優しい人じゃないか……)
少年は内心、ほっと胸を撫で下ろした。
「あの……あなた達も雨宿りですか?」
「そうよ。お姉さんも、突然雨に降られてここへ逃げ込んだの」
女は少年の顔を拭きながら答える。
「わしも雨宿りだ。しかし、少し長居をし過ぎた。少年よ。ゆっくりして行ってくれ」
バタン!
バスタオルに視界を遮られて見えなかったが、今確かに扉の閉る音が聞こえた。
タオルが顔の前から退くと、老人の姿はない。
「あの……お爺さんはどこへ行ったのですか?」
「出て行ったわ」
「この大雨の中を?」
「ええ。でも、雨はもう止んでいるわよ」
「え?」
言われてみれば、さっきまで聞こえていた、屋根を雨が叩く音が聞こえない。
少年は外を見ようと、扉に手をかけた。
だが……
「あ……開かない?」
「無駄よ。次の人が入ってくるまで出られないの」
「どういう事です?」
「そういう小屋なのよ。ここは……」
「え? そういう小屋って?」
少年は、女の言った意味をようやく理解した。理解したが、納得いかない。
扉を何とかこじ開けようと、あらん限りの力を込めた。
だが、扉はビクともしない。
扉に体当たりを始めるが、まったく効果はなかった。
「分かったでしょ。何をやっても、ここから出られないのよ」
「他に出口はないんですか?」
「ないわ」
それでも、少年は女の言った事を納得できず、小屋中探し回った。
だが、出口はどこにもない。
「そんな……」
「だから、諦めて、次のマヌケがくるまでここで暮らす事ね。ああ、言っておくけど、次にこの小屋を出られるのは私だから」
「そんな馬鹿な!」
少年はスマホを手に取った。アンテナは立っている。しかし、電話は繋がらない。
諦めてネットのニュースを見ようと操作している時、女が背後から声をかけてきた。
「ところで、坊や。今年は昭和何年?」
「え? 昭和? 何を言って……!」
少年はスマホのニュースを見て愕然とした。
そこには、男子高校生、○○山で行方不明というニュースが……
日付は、少年が家を出た日から一週間後を示していた。
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