第255話 勇者の盾

新作【限界を越えた時に真の力を発揮する】も5月3日から連載中ですので読んで頂けると幸いです。


―――――――――――――――


 無事に? リアナ達へプレゼントも渡せたことだし、そろそろ宿へと戻るか。


 俺達は歩いて宿へと向かっていると一画の場所で賑わいを見せている所が目に入る。


「ねえねえヒイロちゃん⋯⋯最後にあそこへ行ってみない?」


 今までバザーを回って見て、あそこまで人が集まっている所はなかったため、俺も興味が生まれた。


「わかった。行ってみるか」


 俺達は進路を変更し、人が多く集まっている場所へと向かうと何やら男達の大きな声が聞こえてくる。


「ちくしょう! ダメだったか!」

「絶対あそこだと思ったのによ!」

「次は俺だ! 俺にやらせてくれ!」


 男達の声の内容を聞くと何やら賭け事っぽいな。

 だがここからでは人が多過ぎて何をやっているか見えない。


 俺達は人垣を割って入り、前の方へと移動する。

 そしてようやく店が何をしているか見える位置に辿り着くとそこには台の上にカップが5つ置かれていた。


「さあさあお立ち会い! こちらは勇者様のみが装備できる最強のシールド⋯⋯アルテナ盾! この世界の神の一員であるアルテナ様が勇者様にさずけたと言われる一品だ!」


 勇者の盾⋯⋯だと⋯⋯。中年の男性がそう口にしてるが、見た感じどう考えてもそれは指輪にしか見えない。


「本物か?」


 グレイが耳元で呟いていくる。俺もグレイと同じあの指輪は偽物だということが頭に過った。


 もし本物であるなら勇者アレルが持っているか、国が保管していてもおかしくない。


 俺は指輪に鑑定魔法を使って詳細を確認してみる。


 アルテナの盾⋯⋯女神アルテナより授かりし聖なる盾。使用者の意志により光の盾を展開することができる勇者専用の装備。


「ほ、本物だ」

「マジか!」


 こんな所になぜ勇者の盾が。


「古代遺跡の罠を潜り抜け手に入れたこの代物。皆様の手にわたるチャンスがあります」


 アルテナの盾が遺跡から発掘したならありえない話でもないが、やはりここにあることが信じられない。


「人が増えて来ましたので再度説明させて頂きます。これから私がこの5つのカップの1つに当たりのついた紙を入れます。そしてカップを素早く動かして位置を変え、皆様が当たりのついた紙の入ったカップを当てればこの勇者の盾を差し上げましょう」


 なるほど⋯⋯シンプルなゲームだな。しかしこれだと確率的に5分の1で当てられてしまう。いくらなんでも店側が不利なのでは? それとも当てられない自信があるのか。


「参加費は金貨100枚⋯⋯我こそはという方は挑戦お待ちしております。そしてもし当たりの紙が入っているカップを選ぶことができましたらかけ金もお返しいたします」


 金貨100枚⋯⋯だと⋯⋯。

 俺の手持ちの金は、レナさんを奴隷オークションで買うために使ってしまったから挑戦することができない。だがこれは勇者であるリアナ専用の盾⋯⋯なんとしても手に入れたい。


「よし! 俺がやるぜ!」


 1人の商人が金貨100枚を支払い、ゲームに挑戦する。


「グレイ手持ちの金は?」

「⋯⋯銀貨3枚」

「無理だ」

「無理だな」


 そうこうしているうちにゲームが始まり、店主は当たりのついた紙をカップに入れ逆さまにしてゆっくりとカップを混ぜ始め、段々とスピードを上げていく。


「何とか金を集められないかな? 時間があれば魔物を討伐してギルドに報酬をもらうけど⋯⋯」

「そんな時間はないだろ。今はティアちゃんの護衛中だぞ」


 全くもってグレイの言うとおりだ。


「リアナやルーナは金貨100枚⋯⋯」


 俺が言いきる前に2人は首を横にふる。


 そして店主のカップを混ぜるスピードが目にも止まらぬ速さになっていき、手の動きがストップする。


「さあ、どのカップを選びますか」

「う~ん⋯⋯」


 商人風の男は唸りながらカップをじっと見つめている。


「魔法や魔道具は使わないで下さいよ。もし使ったら倍額頂きますから」


 確かに探知魔法を使えば、どのカップに入っているかわかるかもしれないが禁止されてしまった。


「ヒイロはどれかわかるか?」


 一応俺は最後まで当たりのカップがどれか追うことができた。


「私は途中でどれかわからなくなってしまいました」

「私もです」


 ルーナとティアは当たりが入っているカップを見失ってしまったようだ。


「たぶんだけど左から2番目のカップじゃないかな、かな」


 リアナは俺の考えと同じカップを口にする。


「俺も左から2番目だ。グレイは?」

「さあどうだろうな。俺も2人と同じカップに見えたけど答えるのをやめておく」


 どういう意味だ? 俺はグレイの心理が読めない。


「ひ、左から2番目だ⋯⋯」


 商人は自信が無さそうにカップを選んだが、答えは俺とリアナと同じだ。


 そして店主はゆっくりと左から2番目のカップを開けるが中には何も入っていなかった。


「ちくしょう!」


 商人は外したことが悔しくて大きや声を張り上げる。


 だがなぜだ。正直に言って俺は当てる自信があった。しかしカップの中に当たりの紙は入っていない。


「グレイは左から2番目のカップに当たりが入ってないことがわかっていたのか?」

「まあな。こういうのは素直な⋯⋯リアナちゃんには特に難しいだろうな」


 リアナには? なぜだ?


「くそっ! モーリーの野郎うまいことやりやがって」


 俺達の隣にいる少しガラが悪そうな商人が悔しそうな声を上げる。


 モーリー? 今モーリーって言ったよな。確かナッシュくんのお父さんが、ボルチ村に偽の種籾売ってきた遊び人の紋章を持つ男の名前がモーリーと言っていたはずだ。


「あんたあの男を知ってるのか?」


 グレイがガラの悪い商人に店主のことを聞いている。


「ああ⋯⋯以前は違法ギリギリのことをしてセコく儲けていたが、今は金貨100枚も手に入れる奴になりやがって」


 今の話し方からして、この人はモーリーのことが嫌いなようだ。

 そして種籾の話が出たからやはりこいつがボルチ村の皆を騙したモーリーの可能性が高い。俺は鑑定魔法を使い確認してみる。


 名前:モーリー

 性別:男

 種族:人間

 紋章:黒塗りの顔

 レベル:8

 HP:68

 MP:22

 力:E

 魔力:E-

 素早さ:D-

 知性:C+

 運:C


 紋章が遊び人じゃないけどおそらく闇落ちして変わったのだろう。


「ヒイロどうだ?」


 グレイは少し逸る気持ちで俺に問いかけてくる。


 グレイはナッシュに懐かれていたから、ボルチ村の皆を騙したモーリーに対する気持ちが人一倍強いのかもしれない。


「たぶんだけどナッシュくんが言ってたモーリーで間違いないと思う」

「ちっ! やはりそうか! きたねえまねをしてやがるからそうだとおもったぜ!」


 汚いまね? ということは今のゲームは何かイカサマをしたってことか⁉️


「ティアちゃん頼む! リアナちゃんの為に盾を手に入れてあげてえ! 金を貸してくれないか」


 俺達は金を持ってないから後は王族であるティアに頼るしか方法がない。


「私もそんなお金持っていませんよ⋯⋯メルビアは貧乏ですから」

「そ、そうだな⋯⋯すまねえ」


 いくらティアでも一般家庭が25年暮らせる金貨は持っていなかったようだ。


「それよりグレイさんはあのゲームに勝てるのですか?」


 確かにティアから金を借りても負けたら元も子もない。


「勝てる⋯⋯必ず当たりが入ったカップを選んでやるぜ」


 グレイは自信があるのかティアの問いに力強く答える。


「これでもう4連勝してるぞ」

「そろそろ誰か当たるんじゃね」


 辺りからモーリーの強さを伺わせる声が聞こえてきた。


「わかりました⋯⋯金貨は持っていませんが挑戦者になる方法はあります」

「本当か⁉️」

「ええ⋯⋯グレイさんの仲間の為に勇者の盾を手に入れようとする想いと⋯⋯ボルチ村の人達への想いは受け取りましたから後は私に任せてください」

「べ、別にナッシュやミドリさんのためとかそんな考えはこれっぽっちも持ってないぜ。勇者の盾をリアナちゃんにプレゼントすれば俺の好感度が爆上がりするからだ」

「そうだな」

「そうだね」

「そうですね」

「そういうことにしておきましょうか」


 皆ニヤニヤした顔でグレイの言葉に同意する。


 誰がどう見てもナッシュくん達の為だということがまるわかりだ。


「や、やめろ! そんな目で俺を見るな!」


 グレイの動揺した姿など滅多にないから皆ここぞとばかりに弄る。


「では本日は次で最後に致します。挑戦する方はいらっしゃいますか?」


 モーリーから最後の挑戦者の募集がかかる。


 まずい⋯⋯今はグレイをからかっている場合じゃないな。とりあえず挑戦権を得ないと。弄るのはまた後でにしよう。


 それにしても店じまいするのが早いな。おそらく勝ちすぎると何かイカサマでもしているのではないかと疑うものが出てくるので、早々と立ち去る気か。


「すみません⋯⋯挑戦してもよろしいでしょうか?」


 この場に似合わない小柄で可憐な少女であるティアが現れたため、辺りは一瞬静まりかえる。


「よし! 最後はこのお嬢ちゃんにしよう」


 子供からなら余裕で金貨を巻き上げられると思ったのか、モーリーは最後の挑戦者にティアを指名してきた。


「しかし私は金貨100枚も持ってはいません」

「それじゃあこのゲームには参加できねえな。お嬢ちゃんあきらめな」


 だがティアは引き下がる様子はない。


「私は代わりにこちらを賭けます」


 そう言ってティアは左手の袖を捲ると大きな宝石のついた腕輪が見えた。


「こちらを売れば金貨100枚以上の値打ちはあるかと」

「ほ、ほう⋯⋯これが金貨100枚以上ねえ」


 モーリーは値踏みをするように腕輪を手に取り観察する。


 本当にティアは腕輪を賭けてもいいのか?

 だが、ティアはグレイを信じた。そしてグレイは勝てると言ったんだ。ここで止めるようなまねをすることはできない。

 それにもし万が一負けたとしても、闇夜に紛れてモーリーから取り戻せばいいことだ。


「よしわかった! 特別にこの腕輪で勝負をしてあげよう」

「ありがとうございます。ですがゲームをするのは私の友人でもよろしいでしょうか?」


 ティアの紹介でグレイが一歩前に出る。


「2人で結果を話し合うのは禁止だが、そっちの青年1人で答えるならいいぞ」

「承知しました」


 モーリー的にはイカサマをしているなら誰が来ようと関係ないってことか。


「ティアちゃんありがとうよ。後は俺に任せておけ」

「御存分に」


 こうしてグレイはティアのお膳立てで、モーリーとカップの中にある当たりを見つけるゲームを始めるのであった。

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