第218話 護衛メンバー

 リアナの部屋にて


「ティアちゃんの護衛⁉️」


 仲間を集め、先程ティアに話した通り、アルスバーン帝国までの護衛をグレイとルーナにお願いをする。


「私はもちろんお引き受け致します」

「ティア王女を護る役目を頂いて光栄だぜ」


 良かった⋯⋯2人とも快く受けてくれて助かった。


「ルーナさんとグレイさんに来ていただければ私も心強いです。ありがとうございます」


 ティアはドレスの裾を掴んで優雅にお礼を言う。


「俺達は仲間だろ? 気にしないでくれ」

「それに奴隷として旅先でヒイロくんのお世話をしなければならないので⋯⋯」


 ルーナには【聖約】の奴隷については気にしなくていいと言っているのだが、こういう場で俺の奴隷であることを強調することが多くなった。

 このままルーナに奴隷奴隷言われたらご主人様だと錯覚に陥り、本当に何か命令してしまいそうでちょっと怖い。


「ヒイロくんどうしました?」


 そんな俺の思いを知らず、ルーナは首を傾げて下から覗き込むような形にで、こちらを見てきた。


 くっ! 可愛いじゃないか。

 もしルーナに命令するなら、みんながいる場所ではなくて、二人っきりの時にしてみたいものだ。

 俺の奴隷だったらどんなことをしてもいいよな⋯⋯。


 しかし今は護衛について話をしている所なので、俺は邪な考えを振り払う。


「お、お兄さんどこかに行っちゃうの?」


 天使のような容姿を持つエルミアちゃんが、不安そうな表情で邪悪で汚れきった俺の目に視線を向けてくる。


 子供には見せられないことを考えていた後なので、エルミアちゃんの澄んだ目をまともに見れない。


「ねえ⋯⋯何で目を逸らすの? エルミアのこと置いて行っちゃやだよ⋯⋯」


 エルミアちゃんは、ウルウルした瞳で俺に懇願してくる。

 思わず「置いていくわけないよ」と答えたくなってしまうが、俺は何とか口にすることを堪える。


「ちょっとヒイロ! エルミアちゃんが泣いているじゃない!」


 ラナさんが俺の方をジロリと睨んで問い詰めてくる。

 相変わらずラナさんはエルミアちゃんラブなんだな。


「いや、そんなことを言われてもどうすればいいのか⋯⋯」


 ここでもし置いていくなんて言った日には、おもいっきり泣かれそうだし、危険なことが起きるかもしれないから安易に連れて行くとも言えない。


「し、仕方ないわね⋯⋯ヒイロがいない間は、私がエルミアちゃんの面倒を見て上げるわ」


 ひょっとしてラナさんはこれが言いたかったのか?

 しかしラナさんの想いは通じず、エルミアちゃんは俺の後ろに隠れてしまう。


「そ、そんな⋯⋯」


 ラナさんはエルミアちゃんに避けられて、ガーンと音が聞こえてきそうなほどショックを受けている。


「な、なんで私には懐いてくれないの⋯⋯」


 だからと言ってエルミアちゃんは、他の人に懐いているわけじゃないが、最低限挨拶とか話すことはできる。だがラナさんに至っては、会話することが全くない。いつも俺やアリエルの後ろに隠れてしまう。


「これ、あまりヒイロに迷惑をかけてはいかんぞ」


 アリエルが、わがままを言うエルミアを諭すように優しく声をかける。


「ヒイロ⋯⋯エルミアの面倒は妾がみる。安心して任務を果たしてくるがよい」


 えっ? アリエルが俺を気遣った⋯⋯だと⋯⋯。

 今まで俺を陥れることしかしてこなかったアリエルが⁉️

 ひょっとしたら今までゼヴェルを長い間封印していたことで、アリエルに悪き心が宿っており、悪さをしていということか⁉️


「何もしゃべってはおらんが、少なくとも妾に対して失礼なことを考えていることはわかったのじゃ」

「な、なんのことかな」


 なんでわかるの? さすがは神の神託を受けると言われている巫女の職は伊達じゃないということか。


「せっかく妾がヒイロの為を思って、名乗り出たのにひどいのじゃ⋯⋯」


 やばい⋯⋯俺が疑ったせいでアリエルが落ち込んでる。


「どうせ妾はこの時代の者ではないから、除け者にされる運命なのじゃ⋯⋯」


 傍から見ると俺が小さい女の子を泣かしているかのように見える。


「ヒイロくん⋯⋯お姉ちゃん悲しいわ。子供を泣かしちゃうなんて⋯⋯」


 レナがお姉さんぶって、俺の行動を非難してくる。


 みんな忘れているかもしれないが、この中で一番年上なのはアリエルだからな! だがそんなことを言えば、さらに批判される可能性があるので黙ってる。


「アリエルお姉さんが一緒にいてくれるなら⋯⋯私⋯⋯お兄さんがいなくても我慢する」


 エルミアちゃんまで、アリエルの話に乗ってしまったら、もうこの場に俺の味方はいない。


「ほれ⋯⋯ヒイロは妾には言うことがあるのではないか?」

「くっ!」


 アリエルは勝ち誇った顔で俺を見上げてくる。


 ちくしょう! まさかアリエルはこれを狙っていたのか!

 俺がメルビアを離れるとなると、エルミアちゃんが懐いているのはアリエルしかいない。そうなれば結果は必然的に限られてしまう。


「アリエル⋯⋯エルミアちゃんを頼む⋯⋯」


 だが、ここでアリエルにへそを曲げられたらエルミアちゃんがまた泣き出してしまうため、俺は断腸の思いで頭を下げる。


「しょうがないのう⋯⋯先程の件は水に流してやるか」


 このアマ! いつか必ずヒーヒー言わせてやるからな!



 さて⋯⋯色々あったがとりあえず後は旅の準備をするだけだ。


「明日の早朝にメルビアを発ちますので、三人共よろしくお願いしますね」

「ちょっとまって」


 ティアからの言葉でこの場は解散かと思われたが、リアナから声が発せられた。


「ティアちゃん⋯⋯ヒイロちゃん⋯⋯私も行っちゃだめかな」

「リアナさんが?」


 声を出したティアだけではなく、この場にいるみんなが驚きの表情を浮かべる。

 それもそのはず、リアナは自分のせいで戦争が起こると思い、倒れてしまったのだ。

 とても護衛に行ける状態ではないはず。


「お願い⋯⋯」


 リアナはすがるような目で俺に視線を向けている。


 誰が見ても今のリアナは本調子とは程遠いと感じるだろう。


「リアナ大丈夫なの?」

「ここはヒイロさん達に任せた方が⋯⋯」


 ラナさんとティアもリアナを心配して声をかけている。


 正直俺も反対だ⋯⋯だけどリアナはじっとしていると余計なことを考えてしまう性分だから、体を動かしていた方がいいのかもしれない。


「どうしても行きたいのか?」

「⋯⋯うん」


 どうやら決意は硬いようだ。

 俺はティアに視線を向けると、ティアは頷いた。


「わかった⋯⋯ただし条件がある。もし調子が悪いと感じたら、すぐに転移魔法でメルビアに戻す⋯⋯それでいいなら⋯⋯」

「うん⋯⋯それでいいよ⋯⋯」


 こうして仲間達との話し合いの元、アルスバーン帝国へは俺とティア、ルーナ、グレイ、そしてリアナを入れた5人で向かうことなった。

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