第216話 ディレイト王からの依頼
宣戦布告があった翌日
「ディレイト王から話しですか⋯⋯」
「そうだよ~」
ダリアさんが俺の部屋へと訪れ、ディレイト王からの言付けを伝えられる。
「ティアリーズ王女やバルト宰相も待ってるよ~」
相変わらず気が抜けそうな声を発しているが、ルーンフォレストにいた頃と比べて、何だか楽しそうに見える。
それもそうか。
ルーンフォレストの王族や貴族は、自分達のことが優先で、下の者のことは考えない奴が多く、死のうが何しようが気にすることはない。貴族主義の国だからな。
騎士ともなればそんな奴らとの付き合いも多かっただろう。そこから抜け出せたなら楽しそうにしているのも納得だ。
「わかりました⋯⋯すぐに行きます」
王の呼び出しとなると遅れる訳には行かないので、俺は急ぎ身支度を整え、ダリアさんと玉座の間へと向かう。
「ダリアさん何か良いことがありました?」
王の元へと向かう途中、先程のダリアさんの楽しそうな顔が忘れられず、俺は思わず声をかけてしまった。
「それはそうだよ~」
メルビアの人達は良い人ばかりですからね。わかります⋯⋯その気持ち。
しかしダリアさんの口から、俺の予想とは違う言葉が返ってきた。
「会えない時もあるけど~、ここにいればヒイロくんやリアナちゃんの顔を何時でも見ることができるからね~」
「⋯⋯そ、そうですか」
「な~に? 嬉しくないの~」
思っていたこととは全然違う言葉が返ってきて、返事に詰まる。
「嬉しい⋯⋯です」
ダリアさんはストレートに好意を言ってくるから、正直照れてしまった。
「ほら~、着いたよ~」
しかし動揺する暇もなく、俺達は玉座の間の部屋へと辿り着いた。
「それじゃ~、私はここまでだから~」
「ありがとうございました」
こうしては俺はダリアさんと別れ、扉の前にいる兵士の案内で、玉座の間を進んだ。
「おお! ヒイロくん⋯⋯突然すまんな」
「いえ、ディレイト王のお呼び立てとあらば」
「今この場には我らしかおらん。堅苦しいのは抜きにせんか」
玉座の間にはディレイト王、ティア、バルト宰相がいる。
王の言葉に一瞬バルト宰相の顔が強張るが、溜め息を吐き、すぐに諦めた表情に変わった。
「それでどのようなご用件でしょうか?」
「昨日のルーンフォレストの宣戦布告に伴い、各国々へ同盟についての書簡を送っているのだが、最も重要な国であるアルスバーン帝国へはティアが直接赴くこととなった」
ティアが?
けれどそれも納得がいく人選か。
アルスバーン帝国はルーンフォレスト以外で唯一隣国となっている。ルーンフォレストを攻めるにしろ、メルビアを護るにしても協力は不可欠な国だ。
王族であるティアがアルスバーン帝国へ行けば、メルビアの誠意が伝わるだろう。
残念ながらルーンフォレストやアルスバーン帝国は、メルビアの10倍以上の国土を持つことから、こちらとしてはどうしても同盟を取り付けたい所だ。
「ティアも世界の平和のために身を粉にしてこの使命を果たすと自分から立候補してくれた⋯⋯だが私としては、以前ルーンフォレストの手の者に襲われたことがあったので心配なのだが⋯⋯」
娘を持つ親として当然の気持ちだな。
前回も、もし俺達が近くにいなかったら⋯⋯そんなこと考えたくもない。
「それでヒイロくんに頼みがあるのだが⋯⋯アルスバーン帝国までティアを護衛してくれないか」
「俺が⋯⋯ですか⋯⋯」
「君の強さはゼヴェルとの戦いで実証済みだ。そしてアルスバーン帝国に到着した後、転移魔法ですぐにメルビアへと戻ることができるから、少なくとも危険は行きだけで済む」
ディレイト王にはお世話になっているし、断る理由はない。けれどティアの身の安全を考えるなら⋯⋯。
「わかりました⋯⋯その依頼お受け致します」
「ほんと⁉️ お兄ちゃん⁉️」
ディレイト王を押し退けてティアが返答する。その声や表情は滅茶苦茶嬉しそうに見えた。
「もしティアリーズ王女の身の安全を考えるなら良い方法があります」
「それはなんだ?」
「まず俺がアルスバーン帝国へ行って、その後転移魔法でティアリーズ王女をお連れするのはどうでしょうか?」
そうすれば行きも帰りもティアを危険に晒すことはない。
「おお⋯⋯それは名案だ! なあバルトよ!」
「はい! これで我らの心配事がなくなりましたな」
良かった。
ディレイト王だけでなく、バルト宰相も賛成のようだ。
よし⋯⋯すぐにアルスバーン帝国へ向かう準備をするか。
「お待ち下さい!」
ティアが王女とは思えぬほど大きな声で俺達を静止させ、プレッシャーを向けてくる。
「そ、そのような案はダメです! 却下です!」
「な、なぜだティア⋯⋯」
ティアから放たれている威圧に、メルビアの王であるディレイト王が後退っている。
「大国であるアルスバーン帝国に比べ、メルビアは小国⋯⋯同盟を強固なものにするためには歩いて行くことに意味があるのです!」
「すまんティア⋯⋯意味がわからない」
「ディレイト王⋯⋯私もです」
いや、ディレイト王とバルト宰相だけじゃなく俺もわからないです。
当の本人であるティアは溜め息をついて、やれやれといった表情をしている。
「転移魔法で楽に来た王族など、ありがたみも何もありません。王女がわざわざ険しい道を通り、10日ほどかけて帝国へ行くからこそ、こちらの誠意が伝わるのではありませんか?」
「う、うむ⋯⋯」
ディレイト王はティアの気迫に押され、おもわず頷いてしまう。
転移魔法は関係なく、王族が来ることに意味があるような気がするが、ティアが殺気染みたプレッシャーでこの場を制圧下に置いているため、口を開くことができない。
「お父様からの許可も頂きましたので、お兄ちゃんよろしくお願いしますね」
「あ、ああ⋯⋯」
まさかティアは旅に出たいがために、アルスバーン帝国への任務をやるといったのか。いや、そんなはずはないよな⋯⋯ティアは一国の王女としてメルビアのために働こうと思っただけだ⋯⋯たぶん。
こうして俺はティアと共に、アルスバーン帝国への書簡を届ける任務をディレイト王から承るのであった。
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