第201話 魔界獣ゼヴェル(6)

 翌日早朝


 俺達は新しい策を思いつくことができず、初めに考えた遠距離攻撃ができるマーサちゃんとレナを中心に少数精鋭で戦うことにした。

 だけど誰1人諦めた目をしている奴はいない。みんなメルビアを護り、そしてレナを助けるために闘志を内に秘めている。


 西門の城壁で各自所定の場所にて待機しており、ゼヴェルが来るのを今か今かと待ち構えている時。


「ヒイロ⋯⋯」


 そんな中、ラナさんが声をかけて来たので俺は返事をする。


「どうしたの?」


 だがラナさんからその後の言葉が続かない。決戦を前に何か不安なことがあるのだろうか。


「⋯⋯ありがとう」


 突然の礼に俺は驚く。


「いきなりどうしたんだ」

「昨日の夜、会議から抜け出した時⋯⋯姉さんに何か言ったでしょ? 2人で戻ってきた後、姉さんの様子が違ったもの」


 さすが姉妹。よく見てるな。


「何かこう吹っ切れた感じがして⋯⋯昔の⋯⋯昔の姉さんに戻った感じだった」

「別に俺は何もしてないよ。ただゼヴェルを倒すって言っただけだ」


 だけど結局あの後、良い作戦が思いつかなかった⋯⋯情けない。レナも不安に思っているかもしれない。 


「⋯⋯姉さんって今じゃおしとやかに見えるけど、昔はお転婆だったのよ」

「そうなんだ」


 なるほど⋯⋯今のラナさんに似ているということか。


「何? 私の顔をじっと見て⋯⋯何か言いたいことがあるの?」

「い、いや何も⋯⋯」


 ラナさんがジロリとこちらを睨んで来たので、俺は慌てて目をそらす。


「いいわよ⋯⋯どうせ私はお転婆ですぅ」


 一応自覚はあったのね。


「まあ私のことは置いといて⋯⋯今思えば紋章をもらった時から姉さんは変わってしまった気がするの。仲良かった友達を遠ざけ、わがままを言わなくなったし、それに⋯⋯私にすごく優しくしてくれた⋯⋯」


 自分はもしかしたらゼヴェルを封印していなくなるから、両親や妹のラナさんに迷惑をかけたくなかったのかもしれない。普通は逆に自暴自棄になったり、好き勝手やりそうな気がするけど。このことからレナがいいひとだと言うことが改めてわかる。


「当時の私は、ただ姉さんが大人になったからだと思っていたけど、本当は巫女の紋章の意味がわかっていて、全てを諦めていたからなのね⋯⋯だから性格は変わってしまったけど、今の姉さんは昔の姉さんに戻ったみたいで、本当に嬉しいの」


 そう言葉にしたラナさんは、とても良い笑顔を浮かべていた。

 やはりこの姉妹は仲がいいな。この笑顔を曇らせることは絶対にしてはいけない。


「じゃあこのままのレナでいてもらうためにも、今日の戦いは勝たないとな」

「そうね⋯⋯」


 ん? これで話が終わりかと思っていたけど、ラナさんはまだこの場にいて、何やら顔が赤くなってモジモジしている。


「そ、その⋯⋯ヒイロには私も助けてもらって⋯⋯か、感謝してるから。ゼヴェルを倒したら何かお礼をしてあげるから楽しみにしてなさい!」


 最後の方は捲し立てるように話、ラナさんはこの場から立ち去っていった。


 顔を紅潮させ、お礼か⋯⋯まさかアダルトなお礼とか⁉️ いや真面目そうなラナさんに限ってそれはないか。だがどんな時でもエロに対する期待を持つのが漢という生き物だ。


「こら⁉️ 人の妹で何エッチなことを考えているの⁉️」

「ぎゃっ!」


 突然背後からレナが現れ、俺の耳を軽く引っ張ったため、思わず声を出してしまった。

 しかも俺の心の中を読んだ言葉を口にしたことと、服装が下は赤の緋袴ひばかまで、上半身は白の白衣しらぬぎの巫女装束を着ているため、ダブルでドキドキが止まらない。


「もしラナに手を出したら⋯⋯まあいいよねラナなら⋯⋯」


 後半の部分が何を言ってるのかわからなかったけど、可愛い妹に手を出したら殺されるということか。最悪巫女の力を使われて封印されてしまうかもしれない⋯⋯だがレナの身体の中に封印か⋯⋯それも悪くないかも。


「べ、べ、別に⁉️ 変なことなど考えてないぞ」

「もうそのどもり具合で、嘘だと白状しているようなものだけど⋯⋯」


 な、なん⋯⋯だと⋯⋯。

 この俺がポーカーフェイスが出来てない⁉️


「まあいいですけど⋯⋯それにしてもラナは変わったわね」

「そうですね。前はもう少しツンツンしていましたから⋯⋯俺なんて出会った時に回し蹴りをされました」


 まあパンツを見たからだけど。


「ふふ⋯⋯そうなの? あの娘らしいわね」


 どうやら今の話が面白かったのか、レナはお腹を抱えて笑っていた。


「けれどラナと再会した時はビックリしたわよ。あの娘が人族と一緒にいるなんて思わなかったもの」

「ああ、それはあそこにいるリアナのお陰ですよ。冒険者学校でクラスが同じだったので仲良くなったみたいです」


 俺が言葉を発するとレナがジーとこちらを見てくる。


「なるほど⋯⋯ラナも大変だ」


 ん? 何が大変なんだろう?


 俺はレナの言葉の意味がわからなかった。


「ラナはあなた達と出会って、良い意味で変わっていったわ⋯⋯もし私に何か⋯⋯」


 レナの言葉が言い終わる前に、俺は右手の人差し指でレナの唇を塞ぎ、話を遮る。


「俺達は勝って全員無事に帰ってくる⋯⋯誰かが欠けることなんてありえない」

「⋯⋯そうね。みんなでゼヴェルを倒しましょう」


 レナに巫女のスキルである封印は絶対に使わせない⋯⋯必ずゼヴェルを倒す。


「おい! 何か黒い物が見えるぞ!」


 突如グレイが大声で叫び、皆が城壁の外へと視線を向ける。


 堂々来たか⋯⋯ゼヴェルお前を倒し、みんなを救ってみせるぞ!


 こうしてメルビアの西門にて、ヒイロ達とゼヴェルの戦いが今始まろうとしていた。

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