第196話 魔界獣ゼヴェル(1)
俺とレナは世界樹の空洞から外へ出る。
「ゼヴェルを追いかけるぞ」
「はい」
幸いなことにゼヴェルは巨体のため、通常の狼の30倍くらいの足跡が残っている。そして何より、ゼヴェルが通った通った道は石化しているから、追いかけるのは難しいことではない。
「レナ⋯⋯ひょっとしたらゼヴェルは、早く移動することが出来ないかもしれない」
「私も同じ事を考えてました」
「足跡に対して歩幅が小さすぎる」
「元々なのか⋯⋯もしかしたら復活したばかりで、うまく力を使えない可能性があります」
これはチャンスかもしれない。ゼヴェルの力を確認するために偵察だけではなく、一発魔法を食らわせてみるか。
「ですがゼヴェルが動き初めてから少なくても2時間は立っています。このまま歩いて追い続けても、いつたどり着くことができるか⋯⋯」
「それなら良い案がある」
けどこの方法はラナさんとマーサちゃんに不評だったからやっていいものか⋯⋯。
「少し怖いかもしれませんがいいですか?」
「大丈夫よ」
「後で何かあっても俺のせいにしないで下さいね」
「そういう風に言われると少し怖いわ⋯⋯けど今は時間がないから急がないと」
「おしっこを漏らしても自己責任ですからね」
「えっ⁉️」
「さあ、行くぞ⋯⋯「【
俺はレナの手を取ると、魔法を使って空高く飛び上がった。
「凄い! 気持ちいいわ⋯⋯鳥になるってこういうことを言うのね!」
空を飛んでいるレナは御満悦のようだ。ラナさんとマーサちゃんの時とは大違いだな。
「ラナからも聞いていたけど⋯⋯ヒイロくんは色々な魔法が使えるのね」
まあ俺が魔法を使えるのはスキルのお陰だけど。
「これならすぐにゼヴェルに追いつくことができるわ」
ゼヴェルは北西に向かって動いている。北西といえばルーンフォレスト王国の方角だ。
正直ランフォースの奴には、リアナを生け贄にしたことで思うところがあるけど、そこに住んでいる全ての人達が悪いわけじゃない。なるべく犠牲者が出ないといいが⋯⋯。
そして数分進んだ所で、1つの村が見えてきた。
「ヒイロくん! あれを見てください!」
レナも気がついたようで、普段なら木の家や、牧草、人など様々な色彩がある村が、今は灰色一色に染まっている。
俺達は一度地上に降りて、辺りの様子を伺うことにした。
村全体が石化しているが、特に人間は、皆恐怖の表情で石になっており、化物が突如現れ、どれだけ恐ろしい目にあったか一目でわかる。
「⋯⋯っ!」
レナは悲痛の表情を浮かべ、人間の石像を直視することができず顔を背けてしまう。
「これがダライの村か⋯⋯」
だがもうこれは村ではない。ゼヴェルによって一瞬で廃墟にされてしまった。
「レナ、急がないと犠牲がどんどん増えていきそうだ。急ごう」
「え、ええ⋯⋯」
俺達は再び空へと浮かび、ゼヴェルの後を追う。
ゼヴェルが石化したであろう痕跡を辿っていくと、さらに村と街が1つずつ石にされていた。
「どうやらそろそろ偵察対象に会うことができそうだ」
見張らしのいい街道に入った時、遠目から黒い霧のような物が見えた。
「離れた位置からでもわかるほど、ゼヴェルは大きいわね」
レナの言うとおり、黒い霧の下にいる
そして堂々偵察対象であるゼヴェルが俺達の前に現れた。
「何かおかしくないか? 確かレナが言っていた話だと巨大な狼の姿で、闇よりも暗い毛は魔法を無効化し、そして生き物を石化する瘴気を放つって言ってたけどどう考えてもゼヴェルは白い毛だ」
「そ、そうですね。古い話ですから、どこか間違った情報が伝えられてしまったのかも知れません」
伝聞や伝承が本当のことと違うように伝えられることはよくある話だ。できれば石化するという所が違っていたら嬉しかったが⋯⋯。
ゼヴェルは北西に進みながら、口から黒い瘴気を近くにある木や草に吐き出す。
「えっ?」
しかし瘴気を受けた部分は石になることはない。
「ひょっとしたら石化させるためには、何か条件が必要なのか⁉️」
「もしかするとここに来るまでに街や村を石にしてきたから、疲労で石化することが出来ないのかもしれないです」
「それかまだ復活したばかりで、本来の力を取り戻していないかだ」
だからゼヴェルの毛も黒ではなく白なのかも、そう考えると千載一遇のチャンスだ!
だがこの後すぐに俺達の甘い考えが覆される。
「瘴気が触れた部分が⋯⋯石化されていく」
どうやら石になるには数秒のタイムラグがあるようだ。
「やっぱりそんなに簡単にはいかないわね」
「けど魔法を無効化するかどうかは確認すべきだと思う」
もし魔法が効くなら、ゼヴェルを倒すことは難しくないかもしれない。
「ヒイロくんお願いできる?」
「任せろ! ただ攻撃することによってゼヴェルが石化瘴気を放ってくる可能性があるから、レナも気をつけてくれ」
「わかったわ」
さて、本当に魔法が効かないのか⋯⋯出来ればこの一撃で死んでくれると助かる。
ゼヴェルの距離まで約50メートル。俺は飛翔魔法を解除し、レナと共に地面に降り立つ。
「いくぞ!」
俺は右手に魔力を込め、ゼヴェルに照準を合わせる。
「全てを焼きつくす地獄の業火よ! 【
ゼヴェルの周辺が炎に包まれる。
「もらった!」
逃げ場はない、いくら魔界の生物とはいっても相手は獣だ。火属性の魔法が苦手だろう。
「ヒイロくんゼヴェルが⁉️」
しかし俺が魔法を放った瞬間、突如闇の霧がゼヴェルに纏わりつき、白い獣が一瞬にして黒い獣に変化する。
そして地獄の業火がゼヴェルを飲み込んだ。
「これが⋯⋯ゼヴェルの真の姿なのか⋯⋯」
魔法は確実に当たった⋯⋯だが黒い獣と化としたゼヴェルはその場に平然と立っている。
「嘘だろ⋯⋯魔王の炎だぞ⋯⋯」
「あれほどの炎が効かないなんて⋯⋯」
これでレナの一族の伝承に伝わっていた魔法無効化が、残念ながら真実だということがわかった。
こうなったら本来の目的である偵察に切り換えよう。
「【
しかし能力を読み取ることができない。
「ゼヴェルの方が能力が上なのか⁉️」
いやそうじゃない⋯⋯あの黒い霧が俺の魔法を無効化しているんだ。
ちいっ! 厄介な魔物だ!
「ヒイロくん来ます!」
ゼヴェルは俺達を敵と認識したようで、視線をこちらに向けて黒い瘴気を口元に集め、そして石化ブレスをこちらに放ってきた。
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