第197話 魔界獣ゼヴェル(2)
ゼヴェルの吐き出した黒いブレスが俺達に向かってくる。
まずい! 範囲が広すぎる!
2階建ての建物があっさりと飲み込まれるほどの瘴気が、俺とレナを石化しようと迫ってきた。
防御魔法で防ぐか⁉️ いやもし防御出来なかった時は石にされ、ゲームオーバーになってしまう。そんな不確実な方法を取るわけにはいかない。
「く、黒い瘴気が!」
レナさんは逃げることが出来ないと悟ったのか、顔が青ざめている。
「レナ! 手を!」
俺は腕を伸ばし、レナが差し出してきた手を取って急ぎ魔法を唱える。
「【
俺とレナの身体は瞬時にゼヴェルの後方500メートルの位置へと移動し、木の陰に身を隠す。
「た、助かったわ⋯⋯ありがとう」
「いや俺の方こそごめん! 少しゼヴェルのことを舐めていた⋯⋯まさか【
それに石化ブレスの大きさ、それに範囲⋯⋯転移魔法以外でかわすことは難しそうだ。
「もし可能であるならこの場で封印してしまいたいけど⋯⋯」
「けどゼヴェルにダメージが入っていなくて封印できるのか?」
「わからないけど、失敗する可能性があるなら試すわけにはいかないわね」
レナの封印は最後の希望だ。出来ませんでしたじゃ済まされない。
どうする? どうすれば奴にダメージを当てることができる?
魔法が効かないとなると接近戦だけど、近づいた瞬間に瘴気を放たれて終わりだ。
どうやってゼヴェルにダメージを当てるか考えていると、突然レナが声を上げる。
「ヒイロくん! ゼヴェルがこっちに!」
本物の狼のように猛スピードで迫っているわけではないが、ゼヴェルは確実にこちらへと向かってきている。
「こっちは隠れているのになんで⁉️」
まさか探知魔法? それとも野生の勘とでもいうのか。
「ミコ⋯⋯ミツケタ」
「えっ?」
「今⋯⋯声が⋯⋯」
確かに俺達以外の声が聞こえた。そうなると相手は奴しかいない。
「ゼヴェルがしゃべったの⁉️」
「ミコ⋯⋯コロス」
片言だったが確かにゼヴェルが話をしている。そして巫女であるレナを殺すと言っていた。
そしてゼヴェルと俺達との距離が80メートルほどになった時、再び石化ブレスを俺達の方へと放ってくる。
「【
俺は先程と同じようにレナの手を取り、転移魔法を使ってゼヴェルの攻撃をかわす。
今度は見つからないように、1キロ以上離れた場所へと転移する。
「ゼヴェルは言葉をしゃべる知能があるということ?」
「それとどうして俺達の居場所がわかったのか気になる。さっきは木の陰に隠れていたから視認されていないはずなのに⋯⋯」
俺は探知魔法を使ってゼヴェルの位置を確認してみると、迷わずこちらに向かってきていることがわかる。
「ゼヴェルは戸惑うことなくここに来ている」
「何で私達の居場所がわかるの⁉️」
「わからない⋯⋯俺と同じ様に探知魔法を使っているのかそれとも別の方法なのか」
ゼヴェルの魔力が高まって魔法を使っている様子はなかった。おそらく後者だと思うが⋯⋯。
これがもしどの距離からも探知できるということになれば、レナはずっと狙われることになるかもしれない。なぜならゼヴェルは過去に自分を封印した巫女を殺すと言っていたから。
そして80メートルまで迫って来た時に、石化ブレスが再度俺達に向かってくる。
俺は先程と同じ様に転移魔法を使って逃げるが、今度はルーンフォレスト王国の王都ルファリアにある冒険者学校へと飛ぶ。
「ここはどこ?」
「王都ルファリアにある冒険者学校だよ」
「そ、そんな遠くまで来たの!」
「ゼヴェルは
レナを怖がらせないように
「わかったわ。けど万が一の時は
気づいてたか。
「私にもゼヴェルの声は聞こえてたから、巫女を殺すって⋯⋯もしかしたら私の紋章を追ってきてるかもしれないね」
それは俺も考えた。奴はレナの左手の紋章が服で隠されていることにもかかわらず巫女と当てることができたのだから。
「そうかもしれない⋯⋯けどレナを見捨てて俺だけ逃げることは絶対にしないから安心してくれ⋯⋯必ず護ってみせるから」
俺が言葉を発すると何故かレナの顔が紅潮していた。
「ヒイロくん⋯⋯女の子にいつもそんな台詞を言ってるの?」
「ん? 護るってこと?」
今までのことを思い返してみると⋯⋯言ってるな。
「まあそういうことを口にすることはあるかな」
「お姉ちゃん不覚にも少しドキッとしちゃったよ⋯⋯あんな真剣な顔で護ってやるとか言われたら、皆がヒイロくんに惚れちゃうのも無理ないね」
後半の方は声が小さくて何を言っているのかわからなかったけど、レナをドキッとさせる言葉だったみたいだ。何かそうハッキリ言われると照れてしまうぞ。
「と、とりあえずゼヴェルについてわかったことを確認しようか」
「そ、そうね」
恥ずかしさを紛らわすためにも俺は話題を代えることにした。
「伝承通りゼヴェルには石化する瘴気を生み出すことができること」
「黒い毛というか霧によって、魔法が防がれてしまうわね」
「それと足は遅いこと、そして石化ブレスの射程距離が約80メートルだ」
「石化ブレスの射程距離? 私はそこまで考えてなかったわ⋯⋯」
「もしゼヴェルにダメージを当てるなら、80メートルは距離を取らないと石化されてしまうからね」
だけどそんな攻撃あるのか? しかしやらないとダライの村のようにメルビアが、いやこの世界が石にされてしまう。
レナもおそらく俺と同じことを考えていたのか表情が暗い。
「⋯⋯そろそろさっき転移した場所に戻ってみようか」
ゼヴェルにダメージを与える方法は、メルビアに帰ってから考えればいい。今は本当に巫女であるレナを追ってきているか、確認しよう。
俺とレナは再度転移魔法で、石化ブレスで攻撃された場所へと戻った。
「ヒイロくんどうですか?」
俺は今、探知魔法でゼヴェルの位置を確認している。
「まだ何も反応はないけどゼヴェルの移動速度から考えると、後30分くらい待った方がいいかも」
「そうね」
ここまで口に出さなかったが、レナの様子が何かおかしい気がする⋯⋯ゼヴェルに狙われているから? いやそもそもメルビア城でゼヴェルの話をした時から何かを隠しているような気がした。
けど隠すことって何だ? 本当はゼヴェルを封印することができないとか? そうだったら世界は魔王の手ではなくゼヴェルによって滅んでしまう。
強力な魔物を封印することができる巫女か⋯⋯ひょっとして魔王も封印することができるのか。もしそうなら最強の紋章使いだな。
待てよ⋯⋯そんなに強力な紋章を簡単に扱うことができるのか? まさか使用するためには何か代償があるんじゃ⋯⋯。
「来た!」
レナについてまだ考えが纏まっていないが、探知魔法にゼヴェルの反応があった。ここから北西に2キロほどいった所から、俺達の方へ向かってきている。
「残念ながら俺達の居場所がゼヴェルにはわかるみたいだ⋯⋯一旦メルビアに戻ろう」
「わかったわ」
こうしてゼヴェルの偵察を終えた俺達は、転移魔法でメルビアへと戻るのであった。
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