第9章 厄災
第178話 仮面の騎士の真実
ステラ商会の地下にいたラナさんの両親を助け出し、母親の奴隷を解除した後。
「母さん、姉さんは⁉️ 姉さんは一緒じゃないの?」
「⋯⋯レナも私達と一緒に捕まっていたけど、すぐにどこか別の場所に連れていかれてしまったの⋯⋯」
ラナさんのお母さんは伏し目がちに答えてくれた。
「サブル!」
「は、はい!」
サブルは俺の声に反射的に反応する。
よしよし、中々うまく調教できてきたな。
「他にいたエルフはどこへやった!」
「ひぃっ! ひ、1人そこのお嬢さんに似た女性がいましたが、あまりにも見目麗しかったため、ルーンフォレスト王国の南東に位置するアッサラーマの街でオークションにかけるため今朝出発しました」
「オークション⋯⋯だと⋯⋯」
まずいな。
それが真っ当なオークションだった場合、もし誰かに買われてしまったら取り戻すことが厄介になりそうだ。
逆に非合法の物だったら、ぶっ潰してそのまま奪いさるだけだからそっちの方が楽かもしれない。
「よし⋯⋯直ぐにアッサラーマの⋯⋯街へ⋯⋯」
俺はステラ商会を出ようとするが、突然立ちくらみが起き、地面に手をついてしまう。
「仮面の騎士様!」
「お兄ちゃん!」
ラナさんとティアが心配そうな表情を浮かべ、俺の所に駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だ⋯⋯おそらく魔法の使いすぎでMPが少なくなっただけだ」
今日はエリウッドと戦い、それに先程【
「一度メルビア城に戻りましょう。お父様にお願いすればMP回復薬が貰えるかもしれません」
「頼めるか」
「はい、お任せ下さい⋯⋯皆様もお疲れだと思いますのでお城にご招待致しますわ」
ティアの提案に地下にいたエルフ達は戸惑いを見せている。
人間に捕らえられてこんな場所に連れてこられたのだ。信じてついて行っていいのか不安なのだろう。
「ティアリーズ王女は信用できる方です。安心して下さい」
ラナさんの言葉に皆の心は動きそうになるが、同じエルフで裏切ったエリウッドの件があるため、皆の足は動かない。
「皆さん、私の娘の言うことを信じてください⋯⋯それにこちらの方は奴隷の首輪を外してくれました。今一度人族を信じてみましょう」
ラナさんの母親の言葉を聞いて皆が頷き、そしてティアの後に続くのであった。
「ヒイ⋯⋯仮面の騎士さん大丈夫ですか」
俺はメルビア城の一室のソファーに座り、疲れた身体を休めている。
部屋にはリアナや皆が揃っていた。
「今、ティアリーズが王様にMP回復薬を頂きに行っていますので、もう少しお待ち下さい」
ラナさんを始め、皆が俺を心配して寄り添ってくれている。
「それにしても仮面の騎士がこんなに疲労するなんて⋯⋯何があったんだ?」
「実は――」
ラナさんがこれまでの経緯を話し始める。
「エリウッドさんがエルフの里を滅ぼしたことに関与していたなんて」
「なるほどな。奴隷の首輪を外す魔法を使ったからここまで消耗していたのか⋯⋯昔じじいが使ったときもかなり疲労していたぞ」
ルドルフさんも【
ふとラナさんの顔を見ると、何か思い詰めた表情をしていた。
里が滅びた原因、両親との再開、姉の居場所と色々あったので、頭が混乱しているのかもしれない。
「あの⋯⋯仮面の騎士様⋯⋯」
「なんだ」
「失礼は承知でお聞きするのですが、仮面を取って頂けませんか?」
ラナさんの言葉に、部屋にいる全員が凍りつく。
「なぜ仮面を取らなければならない」
ただの好奇心か、恩人の顔を見てみたいのか理由はわからないが、なぜこのタイミングでその言葉を口にしたのか。今はお姉さんを助けることで頭がいっぱいだと思っていた。
「⋯⋯ヒイロ」
!!?
「何でヒイロは今ここにいないの」
ひょっとしたらラナさんは仮面の騎士の正体に気づいているかもしれない。
「ヒ、ヒイロはメルビアの可愛い娘をナンパするって言って出掛けたぞ」
「そ、そうそう。ヒイロちゃんはエッチで女の子が好きだから今日こそ大人の階段を上るんだぁって叫んでたよ⋯⋯大人の階段って何なのかわからないけど」
おいこら!
誤魔化してくれるのは助かるが、何てことを言うんだグレイとリアナは!
「仮面の騎士様が現れる時はいつもヒイロはいない⋯⋯お願い⋯⋯私を仲間だと思ってくれるなら本当のことを教えて!」
ラナさんは俺の目を真っ直ぐと見据える。
もう潮時だな。言い逃れることはできるけど今のラナさんの泣きそう顔を見たらそんなことはできない。
それに何より⋯⋯仲間にはもう隠し事はしたくない。
周りにいるみんなは、俺とラナさんのことを固唾を飲んで見守っている。
俺は認識阻害魔法を解除し、素顔でラナさんと向き合う。
「ああぁっ!」
ラナさんは唇を手で抑え、目から涙を溢す。
「やっぱりヒイロが仮面の騎士様だったのね」
「ごめん⋯⋯隠すつもりはなかった」
「それじゃあ⋯⋯入学試験でダードから助けてくれたのは⋯⋯」
「⋯⋯俺だ」
「ダードに切断された手足を治してくれたのは⋯⋯」
「ああ」
「ひょっとしてその後ダードを倒してくれたのも⋯⋯」
「俺だよ」
これまで仮面の騎士として行ったことに答えた瞬間、突然ラナさんが俺に抱きつき、そして唇にキスをしてきた。
「「「「「「あっ!」」」」」」
その行為に思わず周囲から声が漏れる。
「ありがとうヒイロ⋯⋯あなたがいなかったら私は⋯⋯私は」
ラナさんからの熱烈なキスが止まらない。
こんな美人な娘にキスをされ、気持ちよくて俺の脳が段々麻痺し始めてくる。
「あなたは私の命の恩人よ⋯⋯あなたのためならなんだってするわ」
な、なんだって! 何でもって何でもだよな! それって大人のお願いでもいいんだよな!
「そ、それじゃあ⋯⋯」
しかし俺が答える前に、女性陣の手によって俺とラナさんは引き剥がされる。
「ラナちゃん⋯⋯一体何をしているのかな、かな」
「何って⋯⋯あっ!」
突如ラナさんの顔が真っ赤になる。まさか今の自分の行動に気づいてなかったのか⁉️
だが、恥ずかしがるラナさんもレアで可愛い。
「ヒイロさん⋯⋯私と言う婚約者がいながら堂々と浮気ですか?」
マーサちゃんが浮気を問い詰める奥さんのように、にじりよってくる。
「い、いや俺から迫った訳じゃないよ」
「けどお兄ちゃんの身体能力ならかわすこともできたよね」
いつの間に帰ってきたのかティアまで俺を問い詰めてくる。
「ちくしょう! ヒイロてめえ! 何でおまえばっかり!」
グレイが血の涙を流して俺を非難してくる。
「ラナさんもいきなりキスするなんてまさかお兄ちゃんのことを⋯⋯」
「ち、ち、違うわ! そうほらお礼よ! ティアリーズだって前にヒイロにキスしてたじゃない!」
「私はお礼といっても頬っぺたですから⋯⋯さすがに唇はお礼ですることはありませんよ」
確かに好きでもない人の唇にキスをすることはないだろう。ラナさんはひょっとして俺のこと⋯⋯。
「違うわ! お礼よ! 勘違いしないでねヒイロ! あんたなんかのことこれっぽちも好きじゃないから!」
そこまで否定されるとさすがにショックを受けるぞ。
「本当かな? 本当にヒイロちゃんのことが好きじゃないの?」
「それではラナさんとヒイロさんが恋人になる確率は0%ということでいいですね?」
「そ、それは⋯⋯」
リアナとマーサの問いにラナは答えることができない。
「そ、そんなことより早く姉さんを助けに行かないと! ティアリーズ! 王様からMP回復薬を貰ったのでしょ!」
「「「「あっ⁉️ ごまかした」」」」
「もうあなた達いい加減にしなさーい!」
こうして仮面の騎士の正体はラナに明かされることとなり、ヒイロの秘密をしらないものはこの中にはいなくなった。
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